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116話 静電気と神樹①



魔樹人(ウッドゴーレム)であるトヒノキと出会って一時間。


俺たちは彼等の集落に到着した。


隙間無く生えた樹が、王の在わす城を守る城壁の様に、その中央に聳え立つ大樹を囲っており、その大樹の根元には何軒もの巨大な建造物が建ち並んでいた。


その集落の入り口である、一箇所だけ空いた巨木の切れ目で、俺たちはトヒノキが戻ってくるのを待っている。


おそらくこの場所が、街で言うところの検問所であり、城門の様な場所なのだろう。


向かって左側には巨大な小屋が建っており、先程まで一緒にいた彼等とは別の魔樹人が、大層興味有り気にこちらの様子を伺っている。


自身の身長の五倍以上大きな人に似たシルエットに覗き込まれると、まるで自分が小人になったかの様な気分になった。



「うわぁ〜! 見てください! おっきな樹ですねぇ〜!」

「でけぇ!! この樹、何メートルあるんだ!?」

「嘆きの樹海にこんな大きな樹が生えているとは……私も全く知らなかったぞ」

「おいっ! あんまりうろちょろするなよ。踏み潰されても知らないからな」



それにしてもどんだけでかいんだこの樹は……。


見上げても見上げても、見えるのは樹の幹の部分のみ。

巨人と俺たち、ジャックと豆の木のような絵本の世界みたいだ。


まぁ樹に登ることはないだろうが……。


この大樹の枝が見える前に、周囲を囲うように生えている他の巨木の枝が、大樹の幹を隠してしまっている。



(こんなでかい樹の葉っぱが落ちて来たら、魔障壁でも耐えられるかわからないな……)



そんな事を考えていると、俺たちと共にトヒノキを見送った、槍を持った魔樹人が声をかけてくる。



『あまり騒ぐなよ? 兄貴はお前を気に入った様だが、俺はうっかり踏み潰しちゃうかも知れないからな』


『そりゃそうですよね。いきなり現れた俺たちを信用できるわけがない。俺だったら快く迎え入れたりはしないかもしれませんね。ましてや、言葉が通じるなら尚更です』


『ふんっ。わかってるならいいんだ。俺たちにとってお前らは未知だからな。()()()()()()()()現れるなんて、いい迷惑ってんだ』


『オダエ、あんたいい加減にしなよ。仮にも兄さんが気に入った客人なんだ。これ以上はあたしが許さないからね』


『姉貴だって本当はそう思ってんだろ!?』


『もういいよ! あんたはあっちで顔でも洗って来な!』


『顔を洗うための水がこの場所にあるわけないだろ!』



弓を使っていた女性型の魔樹人が、オダエと呼ばれた槍の魔樹人を嗜めるが、二人の言い争いは終わる事がなかった。


どうやらオダエは姉である魔樹人に逆らえない様で、『けっ』っと悪態をついて最終的には何処かに行ってしまった。



『申し訳ないね、お客人。オダエが失礼な事を言ってしまって。あたしの名前はコキミ。よろしくね』


『いえ、こちらのほうこそよろしくお願いします。それより一つ気になっているんですが、オダエさんが言っていた、()()()()にって何かあったんですか?』


『近頃、神樹の加護が薄くなっているのか、魔物が頻繁に集落に近づいて来る様になってね。それにもう何十年もこの森に雨が降ってないのさ』


『神樹?』


『あぁ、ほら、見えるだろう? 集落の中心に生えている聖なる樹の事さ。あたしたちの先祖は、魔物の寄り付かないこの神樹を見つけ、そこを生活の拠点として来たんだ。近くには大きな池もあったんだが、さっきも言った様に全く雨が降らなくてね。今にも干上がりそうなんだよ』



コキミはハァとため息をついて、『その調査に行く時に、あんたらに出会ったってわけ』と、肩を落とす。



(邪魔してしまったのか……。悪いことをしたな。それにしても植物の生命維持や成長に雨は欠かせないはず、何十年も雨が降っていないのに、なんでこの森は枯れていないんだろうか)



素朴な疑問に思考を巡らせていると、ズシンズシンと地面が揺れ、剣と盾の魔樹人トヒノキが戻ってきた。



『すまない。待たせたなベックよ。長がお会いになるそうだ』



巨木の間を抜け、集落の中に踏み出すと、その集落の中でも一際大きい建物に案内される。


木造平屋建てのログハウスの様な建物で、扉の大きさだけでも五階建てのビルの様な大きさだ。


扉の両脇には、魔樹人の守衛が立っており、胸の前で葉っぱの剣を構え、微動だにせず前方を見つめている。


守衛が扉を押すと、土煙を上げながら開いた扉の先には、切り株の上に腰を下ろす、トヒノキよりも頭二個分は大きな魔樹人が、鋭い目つきでこちらを見つめていた。



『長のキイカデだ。外で待っているから、聞きたい事を聞くがいい』



トヒノキが外に出ると扉が閉まり、建物の中にはキイカデと俺たち四人が向かい合う形となった。



『初めまして、オレガルド大陸からきました。ベックと言います。後ろにいるのは私の仲間たちです。こちらから、ライア、ノーチェ、ニエヴェと申します。本日は貴重な時間を割いていただき、誠にありがとうございます』


『よくいらっしゃった、小さき者よ。ワシの名前はキイカデ。この集落で一番の年寄りじゃ。それにしてもワシが知りうる中でも、この集落に魔樹人以外が来るのは初めてのことじゃ。我々は貴方たちを歓迎しよう。生憎、もてなすことはできないが、ワシの知っている事があれば、何でも答えさせていただく』



こうして俺たちは、この大陸の現状を知ることになったのである。


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