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114話 静電気と魔樹人



『『『ヴォロロロロロロロロ!!!!』』』


『『キシャアアァアアァア!!!!』』



暗く静かだった樹海に、突如響き渡る魔物の雄叫び。


睨み合うは三体の樹の巨人と、二匹の蜘蛛。


俺たちは息を潜めて、その様子を伺う。



………………


…………


……



ゴクリ──



その緊張感からか、自然と喉がなる。



始まりは突然だった。


前にいた二匹の魔樹人(ウッドゴーレム)内の一匹が、その巨体に似合わない俊敏な動きで一歩前に踏み出すと、ズシンという地響きと共に地面がぐらりと揺れる。


それと連動するように、幾重にも枝が絡み合ったような手で、器用に持たれた巨大な木製の槍が、蜘蛛の頭部を貫こうと目にも止まらぬ速さで突き出される。


それは角蜘蛛(ホーンアラクネ)の代名詞である、牛のように大きく捻れた角に弾かれ空を切る。


魔樹人がそれで体制を崩す事はなく、直ぐさま槍を引き連撃を加えるも角蜘蛛を捉えることはなかった。


一連の攻撃に身の危険を感じた一匹の角蜘蛛が木に登り距離を取ると、入れ替わるように後ろに控えていた別の角蜘蛛は、槍を持った魔樹人に向け粘着性の糸を飛ばす。



『ヴッ!』

()



あわや、糸に巻き取られるすんでのとこで、木製の盾と棍棒を持った魔樹人が間に入り、盾でそれを防ぐ。



『ヴェロ! ロロロォ!』

(今だ!撃てぇ!)



盾の魔樹人が叫ぶと、一本の樹木が、盾を持った魔樹人の背後より穿たれた。

それは吸い込まれるように角蜘蛛の膨らんだ腹に当たる。



『ギュアアウアアウア!!!』



腹に樹木が突き刺さった角蜘蛛は、その複数ある長い脚を必死に動かし踠いている。



「今の見たか? すげぇ連携だ!」

「それもそうだが……魔物相手に指示出すなよ……」

「あいつらの戦闘中にか? そんな事するわけないだろ」

「え? 『今だ!撃て!』って言ってたじゃん」

「はぁ? そんな事一言も言ってねぇよ」



後ろを振り向くと、ライアもニエヴェも首を横に振り否定する。



(どう言うことだ? 今確かに聞こえた気がするけど……)


『ヴヴロロロ!ヴォロヴヴィロヴェロッヴ』

『| 《弓は牽制!右と左 挟み撃ちだ》』



静かな森の中に、不気味な魔物の声が響く。

それが俺には意味のある言葉に聞こえてしまう。



「弓は牽制……右と左で挟み撃ち?」

「何言ってんだお前」

「聞こえるんだよ。魔物の声が」

「声が聞こえる? 俺っちには叫び声にしか聞こえないけどな」



弓を持った魔樹人が、先程樹上へ登って行った角蜘蛛に対し矢を射る。


樹上の角蜘蛛は攻撃を躊躇うように後退し、腹に樹木()を受け踠いていた角蜘蛛は、左右に別れた槍の魔樹人と盾の魔樹人に槍で突かれ、剣で斬りかかられ次第に動かなくなった。


どうやら二匹いた角蜘蛛の内、樹上にいたもう一匹は逃げ出したようだ。


魔樹人に仕留められた角蜘蛛は黒い霧になって消えた。



「ベック……お前が言った通りに……なったな」

「お前本当にあいつらの言葉がわかるのかい?」

「ベックさん、お料理以外も凄いんですねぇ」



ニエヴェさん、料理以外も結構活躍してると思うんだけど……。


「取り敢えずここから離れよう。言葉がわかっても友好的かどうかはわからないからな」

「そうだな。少し時間はかかるが、迂回して進もう」

「兄さん、早くこっちに!」

「ノーチェ、どうした? さっさと逃げるぞ」

「……どうやら逃してもらえないみたいだぜ? 奴らこっちに歩いて来てやがる」


ふと、ちょっと前にライアが言っていた事を思い出した。


『特に魔樹人は厄介だぞ。あいつらには独自の文化があって武装もしている。言葉がわからないから意思の疎通は無理だが──』


俺が魔樹人の言葉がわかるのは、恐らく、いや、確実に《異世界言語》のスキルがあるからだと思う。


だとしたらこれを使わない手はない。


魔樹人(ウッドゴーレム)には、小鬼には感じなかった高次元の知性を感じるのだ。


小鬼は奪い、犯し、壊す。

それ以上でもそれ以下でもなく、小鬼たちの行動は極めてシンプルだ。

奴らは己の欲望を満たすためだけに動く。


しかし、魔樹人はどうだろうか。

先程、盾を持った魔樹人は、槍を持った魔樹人を守った。


他者の命を守るという行動は、極めて文化的な行動に見える。

魔樹人は我々と同じような感覚を持った魔物なのかもしれない。


そんな魔物と会話ができる可能性が転がっているのだ。

これを逃さない手はない。


もし会話が成立するとしたら、この大陸の情報を聞き出すことも可能かもしれない。


俺は改めて向き直し、こちらの様子を伺うように距離を取っていた魔樹人に声をかける。


「俺たちは敵ではありません」


『…………』


(通じてないか……?)


もう一度声をかけようとした時、盾を持った魔樹人が一歩前に出る。


『ヴェエロ ヴェロスロロ ヴァロスト?』

『──小さき者よ。そこで何をしているんだ?』


わかる。

魔樹人が何を言ってるかはっきりわかるぞ。


『私たちは敵ではありません。もし、叶うのならば私たちに森を通る許可を、そして少しばかりお話しする時間をください』

『森は生きとし生ける者、全てのものだ。誰の所有物でもない。好きに渡るが良い。して、話とはなんだ?』

『この大陸にいる魔物の事について、知っている事があれば教えて頂きたく』

『構わぬ。だがここは危険だ。村へ案内しよう』


後ろで待機する三人に事情を説明し、ちょっとばかり寄り道をする事になった。

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