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112話 静電気と昼食



亀吉の背中に揺られること数時間。


岩と土だけだった荒野は徐々に緑に彩られ、周囲の景色が変わると共に、生命の鼓動を感じるようになった。


ライア曰く、もう間も無くこの荒野を抜けるようだ。


既に太陽はちょうど真上に上っており、俺は昼食の準備に追われていた。


「なぁベック、今日の昼飯はなんだ!?」


大きな耳をピーンと立て、興味津々な様子で俺の料理を覗き込むノーチェ。


「兄さん、もうちょっと落ち着いてください。ベックさんの邪魔になりますよ?」

「いいじゃねーか! さっきからずっといい匂いがして腹が減ってしょうがねぇんだよ!」

「もう!そんなこと言って、またつまみ食いするつもりですね!?」

「ヘッヘッヘ。バレた? よいしょっと……いてぇ!」


横から伸びてくるノーチェの手を、持っていた箸でパシンと叩き落とす。


「今作ってるのはつまみ食いしたら、そのままお前の分が減るだけだからな。だから大人しく待っておけよ」

「くっそ〜。早めに頼むぜ!」


フライパンに牛頭人の脂身(牛脂)をひとかけら落とし、脂が溶けきるまでゆっくりと火を通す。


しっかりと脂が出切った事を確認し、


昨日のうちに準備した、牛頭人(ミノタウロス)頭目豚頭人(ハイオーク)のブロック肉をミンチにした牛豚合挽き肉に、あらかじめ飴色になるまで炒めて冷やしておいた玉ねぎのような香味野菜ネギタ、塩胡椒、若いコカトリスの幼卵、乾燥させて削ったパン粉を、粘りけが出るまで混ぜ合わせる。


そうして出来上がった肉種を丸く整形しフライパンに落とす。


火が通りやすいよう、丸く整形した肉種の真ん中を指の腹で押すのも忘れない。


ある程度火が通ったところで手に持っていた木製のヘラでひっくり返し、赤ワインに似た味の果実酒をフライパンの壁に沿うように一回り流し入れ、蓋をして弱火で蒸し焼きにする。


「ニエヴェ、そっちの準備は大丈夫か?」

「はい、ベックさん! このパンを横から切ればいいんですよね?」

「そうそう、上下に分かれるように切ってくれ」

「レンタスを千切ったらそっちに取り掛かります!」

「よろしく〜」


さて、パテが焼けるのを待つ間に、トマトに似た野菜“トメト”でも切りますか。


トッドの店で譲り受けた包丁を使い、トメトをスライスしていく。


半分は輪切りに、もう半分は皮を剥がし細かく角切りにする。


軽く刃を当てて引いただけなのに、スゥっとトマト……いやトメトが切れていく。

素晴らしい包丁をもらった。

王都に帰ったら、一度お礼に行かなくては。


パテの具合はどうだろう。

……よし、いい具合に焼けてるな。


一旦パテを皿に移し、ソースを作る。


肉汁とワインが入ったフライパンに、皮を剥いて角切りにしたトメトを入れる。


しっかりと皮を取っておくのがポイントだ。

じゃないと舌触りの悪いソースになってしまう。


木ヘラでトメトを潰しながら、トロトロになるまで煮詰める。


ある程度水分が飛んだら塩胡椒で味を調え、トメトソースの完成だ。


仕上げに、切り口を温めたパンにレンタスとトメトを乗せ、その上に焼いたハンバーグを乗せる。


先程作ったトメトソースを上からかけ、半分にカットした片割れのパンを乗っけて完成だ。


惜しむらくはチーズがない事だが、王都の市場でも売っていなかった。


もしかしたら探し足りないだけかもしれないので、帰ったら再度探してみたいと思う。


「できたぞ。特製ハンバーガーだ」

「わああ!とっても美味しそうです!」

「なんだこれ!初めてみたぞ。めちゃくちゃ美味そうだ」

「ほう……。肉をパンで挟んだのか。携帯するのに便利そうだな」

「手で持って、がぶりといってくれよ。付け合わせにピクルスもあるからな。一緒につまんで食べるとうまいと思うぞ」

「うっめえええええ!!! はんばーがーだっけかこれ! めちゃくちゃうめぇぞ!」

「うん、うまいな。我ながらよくできたぜ」

「ベックさん、ぴくるすってこの酸っぱい匂いのするものですか?」

「そそ、色々な根菜の酢漬けだよ。合うと思うから一緒に食べてみてよ」

「本当だ! 美味しいですねぇこれも! ねぇライアさん!」

「あぁ、うまい! この酸っぱいの、酒にあいそうだなあ! なぁ……一杯だけダメか……?」

「そんな上目遣いで見てきてもダメだ。酒は夜だけって約束だろ。まだ昼間だし、いつ魔物に襲われるかわからないんだからな」


楽しい昼食の時間は過ぎていく。


昼食を終えた俺たちの前に現れたのは、鬱蒼と生い茂る巨木たちだった。


陽の光は背の高い木々に遮られ、まるでそこから先が夜になったかのような暗さ。


冷たい空気が木々の間を通り抜け、荒野で日に焼けた俺の肌を撫でていく。


ようやく荒野を抜けることができたようだ。




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