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110話 静電気と亀

明けましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いいたします。


m(_ _)m


二日目は丸一日、深々と酸の雨が降っていた。

それは地面に穴を開け、先を急ぐ俺たちの行く手を阻む。

致し方なく、四人は室内での活動を余儀なくされた。



活動と言っても、皆それぞれの時間を過ごしただけだが。



ノーチェはひたすら寝てたし、ニエヴェは時折不気味な笑い声をあげて頭を抱えては、乳白色の器に向き直り、ただひたすらに薬の調合を繰り返していた。



ライアに至っては酒でベロベロになりながら水属性の防御呪文アクアヴェールを詠唱するものの、防御範囲が足りず屋根に少しばかりの穴を開ける始末。



最初に行った、たった二回の交代以降、小屋を酸の雨から守っていたのは俺の《魔障壁》だ。

自分で言うのもあれだが、もう少し感謝してくれてもいいと思う。

欲を言えばもう一回揉みたい。



途中で戦力外となったライアには罰として、彼女の寝床を酸の雨によって、穴の空いた屋根の真下にした。



『酸の雨に打たれるかもしれない恐怖に怯えながら一晩過ごしやがれ』という溢れ出る俺の思いをぶつけたが、期待を見事に裏切り、ものの数分後にはいびきをかいて寝始めた。



もしかしたらライアの心臓は鉄製どころか純聖銀(ミスリル)製なのかもしれないと心の底から思った。



(あれがなければ(おっぱい事件)、パワーバランスが崩れることはなかったのにな……チクショウ……)



こんな事ならもっと揉んでおけば良かったと、少しばかり……いや、かなり後悔したのであった。









「くあぁ〜。一日中寝てたから、体の底から力が漲ってくるぜ。身体は少し固まっちまってるが……」

「俺はずーっと魔力使ってたからかな〜り疲れてるんだが……。あっそこ気をつけろよ。滑りやすいからな」

「そんな事言われたって、俺っちにはなんにも出来ねぇしな! まぁ感謝はしてるぜ!」



笑顔で短い親指を立て、サムズアップするうさぎ。

彼は男だが、二足歩行するモッフモフの可愛らしいうさちゃんだ。

抱きしめたくなってしまう。

もちろん、あの馬鹿げた脚力の餌食にはなりたくないのでやらないが。



長く続いた酸の雨が止み、ドルガレオ大陸三日目の朝。

俺とノーチェが凝り固まった身体を解す為に外に出る。



清々しい朝だと言いたいところだったが、酸の雨のせいか鼻を刺すような異臭と、ムワッとした湿気が立ち込めている。



そんなことに気を取られながらも、ふと、昨日までとは違う何か違和感を感じる。



(なんだろう……? 何かが違うような……)



周囲を見回すと、昨晩までの景色と現在の景色が変わっていることに気がついた。



(やっぱりそうだ……)



この小屋が建っている巨岩の隣にあったはずの二メートル程の大きさの岩が綺麗さっぱりと無くなっている。



(……酸で溶けたか? だとしたらこの岩も崩れるかもしれないな。さっさと移動した方が良さそうだ)



意識の端でそんな危機感を感じていたその時、本当にゆっくりとだが地面が動いているような感覚を覚え、隣で大欠伸をしているノーチェに声をかけた。



「なぁ、なんか地面が動いてないか?」

「は? 何言ってんだ? 地面が動くわけねぇだろ」



ノーチェはキョロキョロを周囲を見回すが、先程の欠伸で目尻に溜まった涙を擦りながら否定してみせる。



「いや、前じゃなくて、下を見てみろって!」

「あぁ? ったく、下がなんだってんだ。泥濘んだ地面が……? ん……何だあれ……? 地面が蠢いてやがる……」

「変なのは地面だけじゃないぞ……。 やっぱりこの岩も動いてる」

「ライア! ニエヴェ! こっちきてくれ!」



緊急事態にノーチェのが小屋の中にいる二人を呼ぶ。



俺が確認のため改めて下を覗き込もうとした瞬間──、





「ゴモオオオォォオォオオオオォォォ!!!!」





鼓膜が破れそうになるほどの、大気を震わす強烈な咆哮が辺りに響き、思わず耳を両手で塞ぎ屈み込む。




ボトッ

ビチャッ

ボトボトッ




屈み込む俺たちの目の前に、巨大何かが降ってくる。

視線を上げ、ゴクリと喉を鳴らして、俺たちは上から降ってきた物体を確認する。



それは昔テレビで見た、ソーセージの肉を詰める前の羊の腸に酷似していた。



人の腕ほどの太さ、茶色く艶やかで光沢のある体表。



頭部が見当たらない、途中で千切れているそれは、三メートル以上の長さがある。



「くそッ耳がイテェ……。何だったんだ今の音は」

「音もそうだけど、この気持ち悪いのは何だ?」

「これは……ワームだな。だがまだ子供だ」

「これで子供なのか……。俺、こんなデカイミミズ初めて見た……。それにしてもなんで上から降ってきたんだ……?」



上空から降ってきたワームは黒い霧と共に消えた。



魔魂石のドロップはない。

恐らくだが千切られた側にあったのだろう。



「あいつが答えみたいだぞ……」



ノーチェが指を指す方向を恐る恐る見上げる。



小屋の上には、巨大なミミズをムシャムシャと食す、巨大な亀の頭部があった。



その亀は何度も地面を啄ばみ、その度にワームが宙を舞う。



「食ってるな……」

「だな……どうやらお食事の途中みたいだ……」

「じゃあこの地面に蠢いている奴って全部ワームか……?」

「気持ち悪りぃったらねーな……」



下を覗き込むと、数百匹はくだらない巨大なミミズの大群が地面を埋め尽くし、それはまるで波の様に畝り蠢いている。



地面が動いている様に見えたのは、すべてワームが原因だったようだ。

あまりの気持ち悪さにポツポツと全身に鳥肌が立った。



「それにしても、こんなでかい亀の魔物、オレガルド大陸にはいるのか?」

「大亀種って言う魔物だが、こんなデカイのは見た事ねぇよ」

「じゃあ俺たちが寝泊まりしていたこの岩は、この馬鹿でかい亀の甲羅だったって事か」

「そういう事だな」



この巨大な亀に敵意は感じられない。

ただひたすら、まるで素麺をすする様にワームを食している。



「ぎゃー! 何ですかこのワームの群れは!?」

「知らんのか? 雨が降ったらワームはよく地上に出てくるだろ。そのまま地中にいると窒息してしまうからな」

「そうなんですか!? こんな数初めてみますよ……ひぃイイイ」



女性陣がやっと小屋から出てきたが、ドアの前、そこは危険地帯だ……。

その上では巨大な亀がまさに食事の真っ最中。

食いこぼしにご注意ください。



「ニエヴェ、避けろ!」

「ふぇ??」



ドチャドチャッ



ノーチェの警告の甲斐無く、巨大亀が食い散らかしたワームがニエヴェの頭の上に降り注ぐ。



「〜〜〜〜〜〜ッ!!!!」



全身がワームの体液だらけになるニエヴェ。

ニエヴェはそのまま声にならない叫び声をあげ、白目を剥いて気絶した。

その身体は見事に紫色に染まっている。



「危ない危ない。アシッドワームの体液は毒だから早く洗い流したほうがいいぞ」

「おい! そういう事は早く言えよ!」



しれっとワームを避けたライアを横目に、慌ててマジックバッグから大量に手に入れている川の水を出し、ニエヴェを洗い流す。



全身が濡れると、ローブ越しでもわかるニエヴェの女性特有の煽情的な身体の線に思わずドキッとするも、見た目はまるっきりウサギであるので邪な気持ちは直ぐに霧散した。



「これ、どうするんだ?」

「どうするって?」

「どうやって進めばいいんだって話」

「このワームの中を歩くなんて俺っちは絶対嫌だからな!」



俺だってこの中を歩くのは御免被りたいが……。



「ライア何かいい考えない?」

「そうだな。このままこいつに乗って行くって言うのはどうだ?」

「そんなことできるのか?」

「できるぞ。この擬態大亀(カメレオンタートル)は温厚だし、移動速度もそれなりに速い。人が歩くよりは断然にな。昔は目の前に餌を釣って良く乗り物にしてたんだよ」



全身を鉱物に変化させる特性があるらしく、戦闘時はその変化させた体表をぶつけ敵を粉砕するらしい。

甲羅の一部は採取することも可能で、大昔は重宝されていたそうだ。



「で、誰が釣るんだ?」

「「お前だろ」」

「デスヨネー」



確かにこの中でそんな事をできるのは俺しかいない。

《魔力手》で地面のワームを鷲掴みにし、進行方向に向けてカメレオンタートルを釣る。



プシューッと鼻息を鳴らしながらワームを啄もうと進み始める巨大な亀。



新たな仲間を加え、ドルガレオ大陸の奥へと進んで行くのであった。



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