109話 勇者と使命
「なぁサラちゃん良いだろ? 少しくらい教えてくれよ」
「駄目ったら駄目です。個人情報の大切さを説いたのはアキラさんですよ?」
「まぁそうだけどさぁあ? ほら、あの〜。昔のよしみでさ? ちょこっとぐらいいいじゃあないの〜」
「駄目なものは駄目です!!」
「そんなつれない事言わないでよ〜。 ちょっとだけ。ちょっとだけだから!」
「あの時だって、ちょっとだけって言ったのに結局……」
そう言いかけて、王都冒険者ギルドの受付嬢であるサラは口を噤んだ。
周囲の冒険者が聞き耳を立てている事に気がついたからだ。
彼らは明らかに興味津々な様子だが、目だけはしっかりと興味無さげに他所に向けて、ベテラン受付嬢のサラと勇者アキラ=ハカマダの会話を盗み聞きしている。
気になるのはその二人の関係。
大抵のベテラン冒険者は二十年前、アイアンフォードで起きた魔物災害から国を救った英雄に、国中とまではいかないが数多くの若い女性が殺到し、勇者の歯牙にかかった事を覚えている。
中には妻を寝取られた冒険者もいたそうだが、その冒険者はいつのまにか豪邸をこさえていた、なんて話もあったくらいだ。
恐らく金で解決したのだろう。
サラもその中の一人であるとはまことしやかに噂されていたが、真実を知るのは当の本人達だけである。
その頃からサラに憧れていた冒険者もこの場には少なくない数いたのだ。
なので、その状況は必然でもあった。
「良いじゃんか〜。新人のA等級冒険者の情報が欲しいってだけで、とって食おうとかいう話じゃないんだからさぁ?」
「ギルドの規則で決まっています!これ以上しつこいようですと、衛兵を呼びますよ!」
「衛兵なんて呼んだって、俺をどうにかできるとは思わないけどね? なぁピッタ?」
いつのまにか、サラの後ろには美しい金色の髪を、肩甲骨の後ろで束ねたエルフが立っていた。
「もう具合はいいのか? お前らしくない結末だったようだが」
「ふん。あいつが私にかけてくれた薬のお陰で何ともないさ」
「そのあいつについて話を聞きにきたんだが、サラちゃんが教えてくれなくてね。なんとか言ってくれないかな?」
「サラは職務を全うしているだけだ。問題があるのはお前なんだがな? 勇者アキラ」
「二人してつれねぇなぁ〜、なぁピッタ、これから一発どうだ?」
「私は貴様みたいな戦闘狂ではないのでな。遠慮させてもらう」
「う〜、ストレス溜まるぜ! なぁ、どこへ行ったかくらい教えてくれたっていいだろ?」
ピッタは無言でその場を後にし、サラは言う事はありませんと言わんばかりにそっぽを向いた。
「くっそ〜。ここが一番手っ取り早いと思ったのによぉ」
渋々冒険者ギルドを後にすると、同じチームのメンバーである《聖女》マリアが朗報を持ってきた。
彼女は冒険者としての活動をしていない時間は、教会で《聖女》らしく職務を全うしている。
病人や怪我人の治療をしたり、神に祈りを捧げたり。
病人や怪我人の治療は、光属性の魔法が得意な彼女にはもってこいの仕事ではあるが、神への祈りとなると笑えてきてしまう。
あのちんちくりんで真っ白な神を思い出すからだ。
「と言う事で、彼は北の大地に向かったようですよ」
マリアは教会での仕事中に、牛頭人が北行きの馬車に乗るところを見た怪我人から話を聞いたらしい。
「良くやったマリア! 迷宮も何もないあのつまらない北の大地に向かう理由は一つだけだろ。間違いなくあいつはドルガレオ大陸に向かった! 俺達も追っかけるぞ!」
「アキラ君!私、あの神鳴りの秘密、早く知りたいなぁ」
「俺の考えでは、あいつは十中八九、異世界人だと思う。この世界にない概念を持った過去の人間は大体そうだったからな」
「もう休暇は終わりなのか……?」
俺とマァサの興奮を他所に、悲しそうな顔をする《狂戦士》ミランダ。
「悪りぃな、ミランダ! 今から早速、ドルガレオ大陸に向かうぞ!」
「せめて明日にしようぜ……」
あいつは恐らく、俺が異世界人だと言う事は気がついているだろう。
なのにあの余所余所しい態度はなんだ?
同郷の人間と会えたら嬉しいもんじゃないのか?
気になる……。
あいつがどんな使命を帯びてこの世界に転生させられたのか。
もしかして、俺が現状に満足して神から言いつけられた使命を果たしてないから送られて来たのか……?
だとしたら厄介だ。
神鳴り……。
マァサの言う通り、あいつは神から送られてきた使者かもしれない。
「ミランダ、今日の夜は可愛がってやるから勘弁してくれ」
「なっ!アキラ様!今日は私の約束では!」
「そうだっけか!? じゃあ二人とも一緒だ!」
「えー!アキラ君、そこまでするなら私も混ぜてください!」
「めんどくせえ!全員かかってこい!」
周囲から呆れた目を向けられる四人は、今日も我が道を行く。
神によって転生させられた勇者、アキラ=ハカマダ。
彼の使命は、ドルガレオ大陸で起こっている異変を正常に戻し、この世界をあるべき姿に戻す事。
袴田アキラはクリスマスイブの夜、彼女である岩瀬愛子を待ち合わせ場所に残し、トラック事故でこの世を去った。
彼は知らない。
奇しくも、仕事を押し付けた同僚が時を同じくして死亡し、この世界にただのおまけとして招かれていた事を。
袴田アキラは転生し、別宮洋也は転移していた事を。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
次回の更新は年明け、1月4日、12時を予定しております。
年末年始の休みもなく、死にそうなので許してください……。




