106話 静電気と小鬼
茶色い土にまみれた、薄汚れた身体。
尖った鼻と耳、醜く歪んだ容貌。
子供程の小さい体躯にでっぷりと突き出た腹。
その不規則に並んだ汚い歯の隙間からは、欲望に塗れた体液を溢れさせている。
オルガレオ大陸でも、最下級と揶揄される魔物。
小鬼だ。
小鬼には嫌な思い出しかない。
あの醜悪な顔を見ると、この世界に来た初日を思い出す。
「「「「ゲギャッゲギャッゲギャッ」」」」
獲物が来たぞ、そう言わんばかりにこちらを指差し嗤う悪鬼。
六匹の小鬼が周りを囲っている。
その手には、石や木の枝などの武器を掴んでいる。
「何だよ、小鬼かよ。驚いて損したぜ。こんな奴ら一人で十分だ!」
ノーチェが小鬼を馬鹿にしたように叫ぶ。
確かに小鬼は非力だ。
A等級冒険者のノーチェの眼には物足りなく映るのかもしれない。
「兄さん、ここはオレガルド大陸ではないわ。この小鬼達も別の生き物だと考えた方がいいと思うの」
一人で飛び出しそうになったノーチェをニエヴェが制止する。
勇猛果敢な兄と冷静沈着な妹。
なかなかいいコンビだ。
ノーチェは寸出の所で踏みとどまり、脚の武装具の具合を確かめる様につま先で地面を叩いた。
鬼
鬼 鬼
兄
妹
乳
俺
鬼 鬼
鬼
俺とノーチェはニエヴェとライアを背中で挟み、それぞれが前後左右の小鬼と相対している。
一呼吸置くと、振り返り指示を出す。
「すまねぇ、今回は四人だったな!こいつらは俺っちとニエヴェで何とかする!ベックは援護、それとライアさんを頼んだ!」
指示に従い《魔障壁》でライアとニエヴェ、そして自身を守る。
その魔力の盾から《魔力手》を展開して、いつでも援護をできる様に構える。
「皆さん、行きますよ! ライト!」
ニエヴェが手に持つ、いくつもの枝が絡み合ったような杖の先から強烈な光が周囲に放たれる。
「「「「「「ギャギエェェエェ!!!」」」」」」
素早く発動したニエヴェの魔法は、小鬼達の網膜にダメージを与えた。
急な閃光にたたらを踏む小鬼達。
両目を抑え、立ち尽くす前方の小鬼との距離を詰めるノーチェ。
天を衝く様に蹴り上げられたその脚は、小鬼の股間から頭部までを縦に両断する。
蹴り上げた勢いそのままにバク転し、着地から一歩で方向転換。
流れる様なサイドステップから横薙ぎに脚を振り抜くと、左にいた二匹目の小鬼の胴体を切り離した。
「小鬼を正面に捉えろ!」
ノーチェの指示が飛ぶ。
蹴り殺した小鬼側に迅速に移動する。
ノーチェを先頭に、少し離れて俺たち三人が後ろで待機する形だ。
「脚に感じる重さがかなりある。こいつらやっぱり普通の小鬼じゃない!」
ライトのダメージから回復した残りの小鬼達は、無残に果てた仲間の死骸を見ると、木の棒を地面に叩きつけ、怒りを露わにする。
「グガガガガガガ!!」
木の棒を持った小鬼が前に、石を持った小鬼が後ろに下がる。
「兄さん、あれはどう言う事でしょう?」
「わからん。だけど、いい予感はしないな」
残る小鬼は四匹。
「ギガアアァアアァ!!」
「ギャッギャギャ!!」
一番手前にいる、木の棒を持った小鬼がノーチェに飛び掛かかる。
いつのまにか左右に広がった、石を持っていた二匹の小鬼もノーチェに向かい投石する。
正に集中砲火だ。
「ちっ」
ノーチェは飛来した石を蹴り砕く。
続く投石は、俺の《魔障壁》によって弾かれた。
「助かる!」
正面から襲い来る小鬼に意識を割かれたノーチェは、右側から近づくもう一匹の小鬼に姿に気がついていない。
「兄さん!横!」
「!?」
離れたところから戦況を見る俺たちは、状況がよくわかる。
こんなドルガレオ大陸の入り口で怪我をされても残りの旅路に影響が出てしまう為、助け舟を出す。
《雷銃》
雷の銃弾がノーチェの横から近づいていた小鬼の頭部に当たる。
「ギャッ!!」
頭部を吹き飛ばせると思って撃った《雷銃》は小鬼の鼻を曲げ、一瞬だけ怯ませることしかできなかった。
(本当に硬いな……)
即座に《局部破壊放電》を撃ち、小鬼の頭部を吹き飛ばす。
「ノーチェ! 俺もやるぞ!」
「すまねぇ!」
ノーチェは、木の棒を持った小鬼を蹴り殺し、石を持った小鬼をそれぞれが受け持つ。
その状況で負けるはずもなく、無事小鬼を倒しドルガレオ大陸における初めての戦闘の幕は閉じた。




