105話 静電気と《世界の始まり》
「ふぅ、やっとついたな」
「ベックのお陰で、あれからは早かったな」
「本当に助かりました!」
「どういたしまして。無事に渡れて一安心だね」
「……ここが世界の《始まり》か」
「世界の《始まり》?」
「あぁドルガレオ大陸の始まりだ!」
見渡す限りの荒野。
岩と土の荒野が広がっている。
風が吹くたび、土埃が舞い眼前が白く霞む。
陽の光が岩に当たると、光沢のある岩の表面が光を様々な角度に反射する。
まるでミラーボールを見ているような気分だ。
「でも、ちっと空気が重くないか?」
「なんか纏わりつく感じがするね。顔の毛を撫でられてるような……」
「そうかな? 俺は顔の毛生えてないからわからないけど、この砂埃のせいじゃない?」
「砂埃じゃないって。あの道を渡りきってこの土地に足を踏み入れた時、膜みたいなもの感じなかったか?」
「膜ね、兄さんのその表現わかりやすいわ」
二人の言っている意味が全然わからない。
体毛が触覚みたいな器官を備えてるのかな?
俺には全く何も感じられない。
「やっぱり、身体も動かしにくいなぁ」
ノーチェはピョンピョンと俺の身長を超えるほど跳ねている。
いつぞやの体育系テレビでやっていた、バスケットボール選手の垂直高飛びよりも遥かに高くジャンプしている為、全くもって重そうに見えないのだが。
ノーチェの武器は、太腿の中心ほどまで覆われた、蛇腹状の黒い金属製のブーツの様なものだ。
特注の武器らしい。
鉄靴・膝当・腿当が繋がったこの武器は、足の親指を握りこむと脛当に内蔵された刃が飛び出す仕組みで、脚で魔物を斬り殺す。
その重そうな武器を履いているにも関わらず、物凄い脚力だ。
たとえ凶悪な刃が無くても、蹴られた魔物はひとたまりもないだろう。
(もうそろそろ、ライアの奴が着く時間だな……)
そこら中に落ちている石を拾いながら、陽の傾きで時間の経過を確認する。
《世界の終わり》を出発した時点では、太陽は頭上、ちょうど真上を指しており、地球で言う正午を指していた。
陽の動きは一時間に十度程の角度で動くと、ボラルスの街の図書館で学んだ。
陽の動きは正午より三十度程。
もう間も無く三時間が経とうとしている。
「ちょっと様子を見てくる」と二人に告げ、来た道を戻る。
ライアに俺の下まで転移魔法で来てもらう為だ。
(タイミングばっちり)
目の前に魔力の渦が発生する。
その中心からぬるりと一人の魔族が生えてくる。
「やぁ、さっきぶりだなベック」
「相変わらず、転移魔法は便利そうだ」
「消費魔力はでかいがな」
ノーチェとニエヴェの元へと戻る。
ライアと合流した事で、ドルガレオ大陸での旅が始まる。
いよいよ出発だ。
◇
「なるほどなるほど、魔力の壁をねぇ」
「そうなんです! ベックさんのお陰で、楽に渡ることができました!」
ライアとニエヴェは楽しそうに会話をしている。
今まであまり接点はなかったが、問題なく仲良くできそうだ。
行きでの事を改めてニエヴェにお礼を言われる。
「みんな、身体は慣れた?」
ライアが問いかけてくる。
「何のこと?」
「このドルガレオ大陸は空気中に漂う魔力の量が多いいんだよ。だから身体を動かしにくいはずなんだけど」
「ノーチェとニエヴェはなんか言ってたけど、もう大丈夫なの?」
うさぎ兄妹に問いかける。
「まだ違和感はあるけど、俺っちは問題なく動けそうだ」
「私も大丈夫です」
「慣れないうちは動きにくいはずだよ。ベックは問題なさそうか?」
「うん。おれは全く違和感がないよ」
「そうか。ベックはもしかしたら魔力と親和性が高いのかもしれないな。空気中の魔力が多いから魔力の回復も早いし、傷の治りも早い。ただ、その恩恵を受けるのは我々人間だけじゃないって事を忘れるんじゃないぞ?」
ライアの言葉を聞き、気を引き締め直そうと思った直後、うさぎ兄妹からピリッとした空気を感じた。
「兄さん……」
「あぁ……全く気がつかなかった」
「どうした?」
「ベック、ライアさん。俺っちたちは囲まれてるぞ」
《探知》には反応が何もない。
一体どう言う事だ?
「下だ。地中に何かいるぞ!」
ボコォ……ボコォ……。
ボボコォ……。
ボゴッボゴッボゴッ……。
ボコォ。
地中から複数の手や頭が生えてくる。
「さぁお出ましだ。冒険者の御三方、頑張ってくれたまえ。私は学者だから戦闘はからっきしだからなぁ」
そんなライアにツッコミを入れる余裕もなく、その魔物との久しぶりの再会に苦い思い出を思い出すのであった。




