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104話 静電気と《世界の終わり》

すいません。

体調悪くて死んでました。


「これは凄いな……」


思わず感嘆のため息を洩らす。


「あぁこいつはすげぇな……。俺っちも初めて見たが、ここを渡れば向こう側はドルガレオ大陸か……」

「あわわわ。ほら、兄さん、そんなに覗き込んでいると下に落ちちゃいますよ?」

「ガキじゃないんだから落ちねーよ!」


王都から馬車で三日、俺たちはコムスカバの父親であるウロヤミゴ=ナウソラエ辺境伯の統治する北の大地《世界の終わり》まで来ていた。


兵によって厳重に警備された門をくぐると、目の前に続くのは、蛇のようにうねる土の架け橋。


その道の先端、地平線の彼方は、ここからでは窺い知ることができない。


ただただ、草の一本も生えてない大地でできた道がひたすら続いている。


道の左右は、どちらを覗き込んでも身も竦む程の断崖絶壁。


眼下に広がる巨大な蒼い水溜りは、この世界に来て初めて目にする海だった。

水面にはみたことがないほどの巨大な魚が悠々と泳いでいる。


なるほど。

出発前に『船で渡る馬鹿はいない』とライアが言っていた理由はこれか。


小さな魚を大きな魚が飲み込み、その大きな魚をさらに大きな魚……では無いな、でかいワニのような魔物が飲み込む。

まさに弱肉強食の世界が海の中で繰り広げられていた。


《世界の終わり》はオレガルド大陸とドルガレオ大陸を繋ぐ唯一の陸地だ。


大陸と大陸を繋ぐその陸地の横幅は十五メートル程しかない。

乗り合いの馬車でここまで来た為、ここから先は徒歩で向かう必要がある。


花ちゃんがいない今、徒歩での移動が非常に苦痛であった。


「この道って一体何処まで続いているんでしょう?」

「さぁね。でも先が見えないって事は相当な距離を歩かないといけないんじゃねぇか?」

「そうかもね。ま、とりあえず行けばわかるさ」


俺たちはドルガレオ大陸への第一歩を踏み出した。







身体が突風に殴られる。

歩き始めて三十分ほど経った頃から、猛烈な横風に苦しめられていた。


しかし、その台風のような横風も、身体能力の高さでなんとかなっている。まさにレベルという概念様さまと言ったところだ。


こう言った環境も、A等級冒険者以上しかこの大陸に渡航することができない理由の一つかもしれない。


「なぁ、これ後どのくらいで向こう側に着くんだ?」

「一時間は歩いてる気がしますね。流石にこの横風はきついです」

「ライアが言うには確か二時間くらいで着くみたいだけど」

「……ずっと気になってたんだけどよ。ライアさんって何者なんだ? なんでこの道のりの所要時間がわかるんだよ。それに後で合流するって言うし、ドルガレオ大陸に別荘まで持ってるって普通じゃないだろ!この間なんてライアさんに殴られた勇者が吹っ飛んだって聞いたぞ」

「あれ? 言ってなかったっけ? ライアはソーンナサラムの学者だよ。別荘も学校の持ち物で、特殊な許可を取って渡航するから俺らより時間かかるみたいだよ。……勇者の件は、言い寄られて突き飛ばしたら、勇者が転んだだけって言ってたぞ」


ライアとの話し合いで決めたそれっぽい設定だ。

そもそもA等級の冒険者ではないライアはドルガレオ大陸に正式に渡航する手段を持たない。


転移魔法でひとっ飛び!なんて言えるわけもなく、そんな大魔法が使える魔族であるライアの存在が公になれば、ライアだけでなく一緒に行動している俺も、うさぎ兄妹にどう言う反応をされるかわからない。


この世界の歴史を蔑ろにするつもりはないが、つまらない差別意識で仲違いしているほど、時間に余裕があるわけでもないのだ。


そんなこんなで、ライアは俺たちから一時間遅れて到着する事になっている。


「まぁそうだよな。勇者をぶっ飛ばせる奴なんてほとんどいないよな。それにしても、ライアさんに先生なのかぁ。昔、俺っちも魔法使うのに憧れてさぁ! 魔法学校行ってみたかったんだけど、知っての通り俺っちたちって孤児だからさ、金もないし行けなかったんだよな!」

「ノーチェは魔力って持ってるの? 持ってるんだったら使えるんじゃない?」

「ニエヴェは光属性に適性があったんだけど、俺っちは全く才能がなかったんだよな。だから憧れてるってのもある」


あぁ俺と一緒でノーチェも知能Gね。


「俺も才能無いって魔法学校の校長に言われたよ。だからこれしかできない」


そういって指先から放電してみせる。


「なんだよそれ! それだって魔法じゃ無いのか?」

「いや、これ魔法じゃなくて体質なんだよなぁ」

「本当ですね、全然魔力を感じないです」

「そ、ただの静電気。それを魔力で加工して、飛ばしたり固めたりして攻撃してるだけ」

「じゃあ師匠を焦がした奴もその体質でやったってことか」

「まぁそう言う事だね。ノーチェも軽い静電気だったら発生させられるんじゃない?」

「えぇ!? 俺っちもそのパチパチできるのか!?」


全身毛皮だし、手とかこすり合わせれば出来ると思うのだが。


「ちょっと手をこすってみてよ」

「? わかったやってみる」


ノーチェにつられてニエヴェも一生懸命に手をコスコスしている。

なんだか二人とも毛づくろいしてるみたいで可愛い。


「なんも起こらないぞ??」

「私も何も起こらないです」

「あれーおかしいなぁ。したが海で空気が湿気ってるのかな」

「静電気? だっけか? 今まで一度もそんな事になったことないぞ」

「そうなの?」


静電気が起こらない事なんてあるのか?

普通人生で一回くらいはあると思うのだが。

そもそも静電気って言う言葉自体知らなそうだ。

他に言い方があるのだろうか。


「そんなことより早く進みましょう? 兄さんたちは平気そうですけど、私は踏ん張っているのも結構きついです」


俺たちの中で一番身体能力が低いのはニエヴェだ。

彼女に合わせてあげないと辛そうだな。


「あっ、そうか」


なんでこんな単純な事に気がつかなかったんだろう。


「ん? あれ? 風が止みました」

「本当だ!さっきまでのよこっ風が嘘みたいにないぞ」

「俺の魔力で壁作ってみたよ」

「防御魔法だっけ? 良いよなぁ。ベックの魔法は便利で」

「そんな事ないよ。魔力切れたら何も出来ないし」


まぁ切れた事ないんだけども。


「最初からやってくれれば楽だったのによー」

「今気がついたんだよ。取り敢えず先を急ごう」

「そうだな!ライアさんに追いつかれちまう」

「ベックさんありがとう!」

「あっ!走り出すなって!魔力の範囲からはみ出るぞ!」


三十分後、無事にドルガレオ大陸の端へと上陸したのであった。








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