100話 静電気と準備②
「ちょっと待っててねぇん。先客の案内だけしてくるわ」
くねくねとした動きで、足早に立ち去って行く店主と思わしきドワーフ。
後ろ姿でもわかるのは筋肉質でずんぐりむっくりな体型。
短足のドワーフがモデルのような歩き方をしているのを見ると、何かこう……くるものがあるな……。
正面からだとピンクのエプロンで見えなかったが、ピッチピチの黒いレザーのスボンを履いてる。
恐ろしい事に尻の形がくっきりだ。
見なかった事にしよう。
「先客が居たんだね。悪い事しちゃったかな」
「そうね。なんか本当にお邪魔だったかもしれないわね」
「なん……だと……! ライアが他人の事を気にしてまともな事を言うなんて……明日は雪でも、いやスライムでも降るのかな?」
「失礼ね。スライムなんて降らないわよ!それにしても、確かに何処見ても包丁や鍋は置いてないわね」
「まぁ売れないっていってたしね」
俺とライアは周囲をキョロキョロと見回す。
陳列棚には、身の丈ほどの巨大な斧や髑髏を象った盾、全身を棘で包み込むような、いかつい全身鎧などが並べられている。
「あ、おい!勝手にうろちょろするなよ!」
「少しぐらい良いでしょ? 別に迷子になる程大きな商店じゃないんだから」
「迷子とかそういう問題じゃないだろ! お願いだから武器とか勝手に振ったりしないでくれよ?」
所狭しと陳列されている商品はどれも高額なものばかりだ。
決して買えない値段の商品は無いが、くだらない事で出費はしたく無い。
あの人が先客かな?
ライアを追いかけて奥まで行くと、全身を煌びやかな鎧に包んだ男性が立っているのが見える。
その背後には、三人の女性が付き従うように凛とした態度で待機しており、店主と話す鎧姿の男性を待っているようだ。
「相変わらず、トッドのおっさんはいい仕事してんな!」
あのドワーフ、トッドさんって言うのか。
鎧姿の男は、トッドから受け取ったまるで脇差のような小刀を鞘から引き抜き、その刃物の具合を確かめるように刃の部分を真剣な表情で見つめている。
「あたしはおっさんじゃ無いわ。レディよレディ」
「そうかい、そいつは悪かったな。トッドのおっさん」
「もう! それ以上言ったら、貴方の仕事は受けないわよ? アキラちゃん?」
ん? “アキラちゃん”?
アキラってあのアキラ=ハカマダか?
若干距離があり横顔しか見えない為、はっきりと顔はわからない。
「またまた〜。俺が来なくなったらこの店潰れちまうんじゃ無いの? 俺以外に客がいるの見たことないよ?」
「そんな事ないわよ。今だってお客様をお待たせしてるんだから! ほらほら、さっさと研ぎ代置いて帰って頂戴」
「うそうそ! 冗談だって! 許してちょんまげ!」
「ちょんまげ……? まったく……相変わらず訳のわからない事ばっかり言って」
確定だ。
少なくとも、アキラ=ハカマダは異世界人。
ちょんまげなんて、この世界にあるはずがない。
「それじゃあ、また宜しく頼むよ!」
「毎度あり〜」
トッドは手をひらひらと振り、代金を支払った鎧の男は立ち去ろうと出口へ向き直った。
(あれ? 顔が違うな……。あいつの顔じゃないぞ? それに声も違かったような……)
振り返ったアキラ=ハカマダの顔は、俺が知っている袴田アキラの顔ではなく超絶イケメンだった。
(同姓同名ってだけか……。あいつ、確かにイケメンだったけどあんなにイケメンじゃなかったもんな)
期待を裏切る事実の発覚に若干の寂しさを感じながら、先客の対応が終わったトッドの元へ向かおうと足を向ける。
すれ違いざまにアキラ=ハカマダ一瞬だけ目があった気がするが、俺は牛頭人王のフードを被っている。
あっちからこちらの顔は見えて居ないだろう。
軽く会釈をして横を抜ける。
「ん……? そこの牛頭の君! 《雷帝》だろ!?」
アキラ=ハカマダに呼び止められる。
《雷帝》……ね。
この間の昇格試験から、そんな事言われてたっけ。
「あぁ、はい。最近はそう呼ばれているみたいですね」
「随分と他人事だな! 《二つ名》って誇らしいものなんだぜ? 周りの人間に認められた証拠さ。この世界に居てもいいって気分になるよな」
そう言うものかな。
まぁ確かに嬉しくはあるけど。
「ちょっと待って……。彼女はお前のコレか?」
アキラは俺の背後で立っているライアを見て、小指を立てながら俺の耳元で確認するように囁いてきた。
「いや、違うけど……」
「そうかそうか!」
パァーッっと明るい顔になったアキラが、一歩前に踏み出そうとすると、アキラの背後で待機している三人の美女達がざわめき始めた。
「アキラ? 一体お前は何をしようとしているのかな?」
際どいビキニアーマーの美女が、顔面を歪ませアキラの右肩をぐっと掴んだ。
恐らく金属でできているであろう肩当てからミシミシと嫌な音が聞こえる。
「え? えーっと、ちょっと挨拶をしようかと……?」
「アキラ君、その必要がありますか?」
「そうですよ、アキラ様。用事が済んだなら、早く帰りましょう」
みんな巨乳の美人だ。
確かこいつ巨乳好きって聞いたな。
ライアもボインボインだから目でも付けたか?
引きずられるように、店を出て行くアキラ。
「あぁそうだ! 今度手合わせしてくれよ! このあいだの試験、まったく本気じゃなかっただろ、《雷帝》?」
「手合わせ? お断りしておきます。勇者様と手合わせなんて恐れ多いですから……」
なんてね。
面倒臭い事になりそうだからお断りだ。
「それに近々遠出するので、時間も合わないと思いますが」
「そんな事言わないでよー」
「さぁ行きますよ、アキラ君。ベックさんが困ってるじゃないですか」
小さな魔女帽子を被った美女が連れて行った。
すれ違いざまに、「今度貴方の魔法についてお話し聞かせてください」と言われたが、ドルガレオ大陸に行ってしまうのでそんな時間はなさそうだ。
(あれ? ベックさん? 俺、名乗ったっけか……?)
「今代の勇者は頭が悪そうだな」
「色欲魔人ってあだ名らしいよ。ライアも美人だから気をつけないとね」
「なっ……! 私が美人だと!?」
「何狼狽えてるんだよ。さっきだって勇者が言い寄ろうとしてたじゃん。ライアは美人だって」
「うぅ……また言ったな!」
顔を赤くして俯いている。
言われ慣れてないのかな?
あぁ、学生モードの時はパッとしない見た目だったからかな。
俺とライアは気を取り直して、トッドの元へ向かった。




