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99話 静電気と準備①


「先ずは食糧の調達だな。それに調理器具とか野営の準備もしないと」


フォレスターレ王国の王都ビギエルヒルには様々な物資が届く。

穀物、野菜、畜肉、魚介類などの食料品はもちろんのこと、日用品などの雑貨や、冒険者の為の武器防具を作成する工房だって何でもござれだ。


その中でも唯一惜しむらくは、王都自体が内陸部にある為、新鮮な海鮮は届くことがないことくらいだろうか。

魚介類は干物にされた状態で届き、生の魚は川魚しかない所が少しだけ不満と言える。


まぁ食べられないのは刺身くらいなもので、干貝などの乾物はいい出汁になるし、干物も生の魚を焼くよりよっぽど味が濃縮されている時だってあるのだ。


物流が成熟されてない以上、これ以上のわがままは贅沢といった所だろう。


近いうちにでも港町ブリッジポートに行って、転移魔法陣を適当なところに刻み込んでおきたい。


「なぁなぁ! もちろん酒も買ってくれるんだろ!?」


魔法学校を出てからというもの、タガが外れたかのように毎晩酒を煽りまくっているライア。


夜な夜な宿泊している宿屋から居なくなっては、浴びるように酒を飲みまくった挙句、最早顔馴染みとなった酒場の女主人に連れられ宿屋に帰ってくることが日課となっていた。


「酒って、この間みたいに暴走するんじゃないだろうな!?」

「だぁかぁらぁ〜。そんな事言われたって、そんな話は覚えてないってばぁ〜」

「じゃあ尚更タチが悪いじゃねーか!少しは自重しろよ!」


ハァ。日に日に頭が痛くなってくる……。

あまりの乱れっぷりに、一度いい加減にしろよと注意した事があったのだが、酔った勢いと俺に怒られた腹いせに『王都を消滅させてやる!』と一言言い残しコイツは宿屋を飛び出した。


数分後、王都の城壁の外にある草原で、深夜の夜空に巨大な火球が打ち上がっているのを見た時は思わず『終わった……』と思ったが、火球が急に消えたので現場に向かうと、何事もなかったかのように草原で大の字になって寝ているライアを見つけたのだ。


翌日、王都では『夜に太陽が昇った』と噂になり、強大な火を操る魔物が周囲を徘徊しているかもしれないと言う事で、王国騎士団が周囲を調査するといった大ごとにまで発展した。


無論そんな魔物がいるわけもなく、実際にはただの酔っ払いの暴走だったわけだが、この時ばかりはこのまま放置して『ウルフにでも食わせちまうか』と本気で考えた。


「はぁ……」

「ため息ばっかついていると幸せが逃げるぞ?」

「誰のせいだと思ってんだよ! ドルガレオ大陸行ったら飲酒制限かけるからな! へべれけのお前を守りながら戦闘なんて真っ平御免だ!」

「酔っ払ってても、その辺の魔物なんかにはやられはしないってのぉ〜」


くそぅ。

実際にそうかもしれない分厄介すぎる。

おれは未だにこの女の実力を測りかねているのだ。

この間のように時折漏れ出す魔力は、ピッタと同様かそれ以上だ。


まぁ比較対象のグランドマスターでさえ、俺の昇格試験の時は手加減してくれていたっぽいので何とも言えないところではあるが……。


何より何百年も生きている魔族だ。

この世界の知識も戦闘に関する経験も遥かに上。

更には結婚して子供もいたと言うのだから、人生経験でさえ遠く及ばない。

平和な国でのんびり暮らしてきた俺とは土台からして違う。


「とりあえずサラさんに聞いた鍛冶屋に包丁と鍋を買いに行くからな」


小さい頃から鍵っ子だったし、成人してからの一人暮らしも長い。

それなりに料理はできるので、調理道具を揃えて自炊をしたいところだ。


この世界に来てしっかりとした宿屋に泊まる様になってからは、一回も料理をしてないので調理器具なんかは一切持っていない。


最初の料理は……まぁ料理といっても川辺でさばいた魚に木の枝さしただけだったしな。


ドルガレオ大陸に街や宿屋なんかあるわけないので、野営の準備を怠るわけにはいかない。


野営の為の寝具と、食材の調達と、調理道具の調達は最優先事項だ。


地図を手に暫く歩くと、どんどん人気のない路地裏に入って行く。


「こんな所に鍛冶屋なんてあるのか?」


ライアが尋ねてくるが、それは俺も同意見だった。

ここにくるまでには数件の鍛冶屋の前を通って来ているのだ。

王都の冒険者から信頼の厚いサラさんの紹介だ。

間違いはないと思うのだが……。


「あっ。あれじゃないか? ほら、看板のマークがそっくりだ」

「む、本当だな」


看板に書いてあるのはハートマークの中心に包丁と鍋のマーク。

可愛い看板を見るに、女性が経営する鍛冶師の日用雑貨屋なのかもしれない。

扉を開けようとドアノブをつかもうとした時、急に扉が開いた。


「あらぁん? なぁにあんたたち。お客さまぁ? 申し訳ないけど今日はもう店仕舞いよぉん」


中から出て来たのは、上半身が裸の毛むくじゃらで、腰の周りにピンクのエプロンをかけた()()()()()()


普通のドワーフと違うのは、男性ドワーフ特有の豊かなヒゲは一切なく、だいたいがゴワゴワの頭髪は、茶色でサラサラのロングヘアーで、バッチリと顔にはメイクが施されている事だった。

だがメイクで青髭は隠しきれていない。

それを見たライアの顔は引きつっている。


「……えーっと、冒険者ギルドのサラさんに紹介されて来たのです。包丁と鍋が欲しいんですが……」

「ごめんなさいね。今は包丁も鍋もないのよ。全く売れないものだから作ってないの……。武器や防具ならあるんだけどね。それにしても貴方って冒険者よねぇ? 何で包丁なのかしら」

「野営の時に料理する為の調理器具を探しているんです。サラさんに聞いたらここが一番だって聞いて……」

「珍しいわねえ。冒険者なのに料理するなんて。普通なら干し肉を齧るくらいじゃない」

「そうなんですか? でも冒険中でも美味しいもの食べたいじゃないですか」

「うふふっ、それはそうね。うーん……お入りなさい」


お、売ってくれるのかな。

招かれるまま、俺は店内へ足を踏み入れるのであった。






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