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死闘の結末

「――行くぞ、メニオール!」


 ストレアルが地面を蹴り、距離を一気に詰めてくる。

 騎士の構える剣からは、すさまじい光が放たれている。光は遥か空高くまで伸び、巨大な金色の柱を作っていた。


 メニオールは、いまだにあの騎士の必殺剣の対応策を思いついていなかった。


 直撃を受ければ終わり……!

 戦慄する身体を必死に鼓舞し、何とか回避しようとする。


 ――しかし、とても間に合わない。あの金色の光全てに『虚空』の力が込められているとするなら、あまりにも広すぎる攻撃範囲だ。


「くっ、くそっ……!!」


 メニオールは地面に潜ませていた無貌種(シェイプシフター)を操作し、人間の腕を作り出した。

 突如として地面から生えた腕に足を掴まれ、ストレアルがバランスを崩す。


 その瞬間、メニオールは大きく横に飛んだ。


 ストレアルは崩れた体勢のまま、しかし視線はメニオールから少しも逸らさずに、剣を振りおろしてくる。

 自分の身体のすぐそばを抹消の光が通過したとき、メニオールは凄まじい力の振動をびりびりと感じ、ぞっと総毛だった。


 狙いから逸れた光の柱の一撃が、大地に直撃する。

 その一撃は地を割り、近くにある森の一部もこそぎ落とした。


「……なるほど、貴様から剥がれ落ちた無貌種(シェイプシフター)のことを失念していた。地の利は貴様にあるというわけだ」


 体勢を立て直したストレアルは、興味深そうに片眉を上げ、そんなことを言う。


 なんとかあの驚異的な一撃は回避できた。とはいえ、こんなかたちであの無貌種(シェイプシフター)を使いたくなかったというのがメニオールの本音だった。


 全てが後手後手に回ってしまっている。防御ではなく、攻撃を仕掛けなければ……。

 消耗戦をしかけても勝ち目はない。


 というのも、マナコールの使い手にマナ切れの概念はないからだ。通常なら、大技を何度か凌ぎ切るだけで勝機は回ってくるが、この秘技を使う敵だけは例外と言っていい。


「まったく、厄介極まりねえな……」

「次は外さんぞ。貴様に大地の利があるというのなら、私は空の助けを借りよう!」


 そう言うが早いか、ストレアルは跳躍した。

 それから目の前で起こった光景を見て、メニオールは思わず目を剥いてしまった。


 翼を持たない人間の飛翔――!!

 騎士は何度も空を蹴り、天高くへと舞い上がっていく。


 ……いや、あれは空を蹴っているように見えて、おそらく空間を強引に移動しているのだろう。

 目の前に・・・・ある空間を・・・・・削り取り・・・・、自分のいる場所をその奥にある空間とつなげてしまう。そうやって、無理やり自分の身体を移動させる。


「ちくしょうめ、神サマは何でもありってわけか……?」


 メニオールは顔をしかめて毒づいた。


「――文字通り、天誅を下してやる! これは神の一撃と思え、メニオール!」


 ストレアルは再び光を纏い、急速に落下してくる。


 メニオールが天啓のような閃きを得たのはそのときだった。


 ――となると、ほとんど加護というよりも呪い(・・)だな。


 先ほど、自分が何の気なく言った言葉を思い出したのだ。


「呪い――なるほど、呪いか!」


 呪いは、別に人に不利益ばかりをもたらすわけではない。

 それと同時に、加護も人に利益ばかりをもたらすわけではない。


 本質的にそれらは同一のものであり、結局人間の見方によって決まる。

 このことを上手く表現する例としてよく挙げられる笑い話に、神話に登場する愚かな王のストーリーがある。


 触れる物全てを黄金に変えることを望み、神にかなえられた王。最初は様々なものを黄金に変えて喜んでいたものの、食べ物や飲み物まで黄金になって食事することさえできなくなったときに、それが神による「加護」ではなく「呪い」だと気づく……。


「……ホロウルンの寵愛は加護か、三流騎士さんよ? 貞操の呪いの間違いじゃねえか?」


 メニオールは誰ともなく呟き、腰の袋からカルボファント(・・・・・・・)()象牙(・・)を取り出した。


 ――それこそは、あらゆる呪いをはねのける力を持つアイテム。

 実際に使われる現場を見たことはないが、ゴスペルから使い方を聞いたことはある。


 象牙を砕いたとき、大きさに応じた聖域が出来上がる。そして、その聖域の中にいるものからは、あらゆる呪いがはねのけられてしまう、と。


 いまメニオールが所有する一つは、おおよそドグマが一般的と見なして取り引きするサイズだった。この大きさだと、聖域は直径三メートルほどの球形に広がるはず。


「――てめえから女神の力を奪ってやるよ!」


 メニオールは空から降下してくる黄金の騎士に向け、象牙を投擲した。


「こんな石が貴様の反撃か? 血迷ったか、メニオール!」

「そいつはどうかねえ!?」


 メニオールは懐からナイフを取り出すと、タイミングを見計らったのち、象牙に向かって思い切り投げつけた。


 ナイフの刃が象牙に突き刺さり、粉々に砕け散る――!

 すると、そこを中心に、ぼんやりと青い光が広がった。


 見たのは初めてだ。これが象牙の作る聖域――。


「こ、これは……?」


 落下するストレアルが、その聖域を通過する。


「さあ、そいつから神の衣をひっぺがせ!」


 ――しかし、ストレアルの纏う黄金の光は一向に消えることなく、むしろさらなる輝きを増して直進してくる。


「な、何だと……!?」

「ふっふっふ……どうやら、思惑が外れたようだな! だが、貴様はよくやった! 心から賛辞を送れる相手は、貴様が初めてだ!」


 叫びながら、ストレアルは暴力的な光の柱を振り下ろした。


「――すばらしかったぞ、我が好敵手!」


 視界が光に包まれる。

 万事休すとは、まさにこのこと。

 もう避けることはできない――そう実感したとき、メニオールの脳裏に浮かんできたのは、妹のリーシアのことだった。


 ずっと、ごめんなさい、ごめんなさい、と寝言でうなされていた妹……。


 守ってやると約束した。

 新しい国を作ってやると約束した。


 その約束を、二つとも守ることができなかった。


「……リーシア、アタシもそっちに行くことになりそうだ。ダメな姉貴でごめんな」


 最後に、メニオールはミレニアのことを思った。


 彼女はこれから、死に向かって歩を進めることになる。

 馬鹿げた陰謀に、その身を絡め取られて。


 今度こそ守ってやりたかった。メニオールはミレニアの境遇に、妹のリーシアを重ね合わせていた。


 願わくば、彼女が苦しまずに終わりを迎えられるように。

 そして、彼女を貶めようとするクソったれどもが、可能な限り苦しんで死ぬように。


 メニオールは自分の神に祈り、静かに目を閉じた。

 瞼越しに光が弾けたのがわかり、世界には暗闇があった。


 不思議と苦痛はない――


「……何てことだ、あんた本当にメニオールか……?」


 そのとき、聞き知った声が聞こえ、メニオールはギョッと目を見開いた。


 開かれた視界が、そこに立つ男の姿を捉える。妙な植物に絡め取られているようにしか見えないその男は、顔面を蒼白にしていた。


「ま、まさか、あの世から化けて出たのか……? あんたは死んだはずだろ……」


 そう言って後ずさるのは、あの植物使い――ギデオンだった。


ギデオン帰還。

メニオール主役のこの章も、あと二話で終わりです。書いてて楽しかった!

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