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Episode.8

 「朝か・・・・・・」


 チュンチュンと小鳥のさえずりが聞こえ、朝の風が動き始める。

 すきま風がヒュ~っと吹き、小鳥はバタバタと羽ばたく。

 口笛でも吹きたくなるようなさわやかな風だった。


  起きたばかりの倦怠感を感じながら俺は両手を床について上体を起こす。寝相が悪かったのか肩が突っ張ったように痛む。

 まあ、しばらくしたら血行が良くなり治まるだろう。


 こりが溜まった肩をもみほぐしながら俺は立ち上がり、曲がったままだった足がぽきぽきと気持ちよくなる。


 昨日はシェルデンと握手した後は、俺たち―――俺、ノゾミ、シェルデンは夕食を食べた。全員朝から何も食べていなかったため空腹だったが、チキンスープの缶詰を開けてみると鶏肉はほとんど入っておらず、にんじんとたまねぎが申し訳程度に入っていた。ミックスビーンズの缶詰は色とりどりの豆が入っていたのでチキンスープよりはまともだったが、3人で分けるには少なかった。


 少し憂鬱な雰囲気が流れたが、シェルデンはどうせならフレンチのフルコースを食べたかったよと冗談を飛ばしてくれた。シェルデンの気遣いに感謝しつつもノゾミは姉のことがよほど心配なのだろう、シェルデンが冗談を飛ばしても食べている時は一心に床を眺めていた。


 はやく姉を見つけてあげたいのだが、まずは自分たちだ。夕食を食べ終わった後はノゾミは今日はもう寝るねと俺に言った。俺とシェルデンはノゾミに迷惑をかけないように小声で情報を交換したのだが、マニュアルに載っていること以上は知らなかった。その日はもうお開きにして寝て、


 今に至る。


 「おはよう、ラッセルさん」


 俺は驚いて体をびくつかせて振り返る。


 「な、なんだノゾミか。おはよう」


 こんなことで驚いてしまった自分が恥ずかしい。頭をポリポリと掻いているとノゾミは突然頭を下げて言った。


 「昨日はごめんなさい!私、混乱しちゃって・・・。ラッセルさんに迷惑をかけました。本当にごめんなさい!」


 さらに深く頭を下げるので俺は慌てて手を振り言う。


 「よ、よしてくれ。俺は人として当然のことをしただけだ」


 「でも、ラッセルさんが私を助けてくれて本当にうれしかったです。ありがとうございます」


 そのまま丁寧にノゾミは頭を下げ続けた。はやく頭を上げてほしかったのだが、本心から俺にお礼を言っているのにそれを素直に受け取らないのは失礼だと思ったのでノゾミが頭を上げるまで待った。


 深い礼が終わったので俺は口を開いた。


 「ノゾミ、もう大丈夫なのか?」


 昨日はずっと暗い顔をしていたが、今は晴れやかな顔をしている。現状を呑み込んでくれたのだろうか?

 というより、本当はこんなにも明るい子だったんだな。


 「はい!」


 ノゾミは穏やかな微笑みで元気よく返事をしてくれた。


 ところでシェルデンはというと―――――


 シェルデンは熟睡しているとはいいがたいやつれた顔で眠っている。よく眠れていないのだろうか。シェルデンは明るく振舞っていたが、やはりどんなに明るい奴でも人間だ。傷を抱えているはずだ。それはノゾミも同様である。


 当然・・・だよな・・・


 俺だってこの状況から即刻逃げ出したい。でもそれは現実逃避でしかない。まだやり残したことはあるからこの状況を呑み込んですべきことをすると決意したのだ。


 

 そう考えているとシェルデンが目を覚ました。


 「・・・・・・んん?・・・あ、そうか・・・」


 シェルデンは上体を起こし、寝ぼけた顔をしたあとに我に返り現実を認識した。そうだ、デスゲームに囚われてしまったのだ。


 おはよう、と俺はシェルデンに挨拶をしようとしたのだが―――――


 それよりも早くノゾミが走り寄っていき、俺にしたのと同じように頭を下げた。


 「シェルデンさん、昨日はごめんなさい!素っ気ない態度を取っちゃって・・・反省してます」


 「い、いや僕の方こそ図々しく居座っちゃってごめんよ」


 突然頭を下げるノゾミにシェルデンは俺と同じように慌てて手を振って言うので思わず俺は吹き出してしまった。


 「どうしたんだい?ラッセル?」


 「いや、なんでもない気にするな」


 ノゾミは俺が吹き出してしまった理由を悟ったのか、俺を見つめて微笑んだ。その笑顔は純粋無垢であまりにも美しかった。俺は思わず見とれてしまったが、ハッと我に返りノゾミにそのことをばれないようにシェルデンに向かって言う。


 「さあ、起きろ。今日は色々やることがあるからな」


 シェルデンとノゾミははい!と気持ちよい返事をしてくれた。


 ※


 「じゃあミーティングを始めるぞ」


 顔を洗ったり歯を磨きたかったのだが、起きたときの顔が油でギトギトしていたり口の中がねばついたりしていないことに気が付いた。どうやら生理現象などは一部除外されているらしい。顔を洗ったりしたくなったのは習慣だからだろうか?不思議な感覚だ。


 現実世界の俺たちは生理現象をどうしているのだろうか。汚物を垂れ流している自分を想像したくないし知りようもない。


 また、異常事態に気付いた政府は何か手を打っているのだろうか?だが政府の対応が遅れたからと言ってもVRマシン「ネクスト」はワイヤレス電力伝送で給電されておりネットワークも無線だ。電源が切れたりしてゲームオーバーになることは無い。その点を気にしなくていいのは唯一の救いだ。ただ排泄に関しては早くなんとかしてほしいが・・・。


 話を戻すと、俺たちはすっかり目が覚めたので、俺は今日何をすべきか議論すべくミーティングをすることを提案した。それに快く賛成してくれたので3人で輪を作るようにして座り、話し合いを開始する。


 「今の現状を言うと、物資が足りない。わかると思うがここでは現実世界と同様に腹が空く。だから小さな町を探して物資調達をしよう」


 まずは俺が問題点を切り出す。偶々見つけた食料は昨日で食べ終えたので今は何も持っていない。


 「どうして小さな町なんですか?」


 それほどゲームをしたことがないノゾミが頭の上にクエスチョンマークを浮かべたように首を傾げ質問する。ノゾミは普通のゲームをしたことが無いと言った。おそらくゾンビもののゲームをプレイしたことがないため、まずは小さな町から物資を調達するという定石を知らないのだろう。


 「この世界はもと居た人類がアンデッドとなりその中で生き残ったのが俺たちプレイヤーという設定だ。だから大きな街だとたくさんのアンデッドがいるはずだ。といってもここは結構な山奥だからそれほど大きな街は無いと思う」


 おそらく大きな街は無いと思う。なぜならこれまでに1体のアンデッドしか出くわしていないからだ。大都市の近くならば流出したアンデッドがうようよしているはずだ。


 「小さな町にもアンデッドはいるはずだよ。何か武器が無いと困るんじゃないかな?」


 「その通りだ。残念だけどスコップと壊れかけの斧しかない」


 シェルデンは昨日話していて思ったがそこそこ知識はあるみたいだ。俺が次に言おうと思ったことを的確に指摘してきた。


 「斧か、見せてくれるかい?」


 俺はスコップとともに置いておいた斧をシェルデンに渡す。

 シェルデンは斧を様々な角度からまじまじと見ると


 「うん、これならいける!」

 

 と得意顔で言った。


シェルデンは外に出ていこうとするので俺は引き止めたが、すぐに戻るよと言い、30秒ほどで戻ってくると石と木の枝を持っていた。


 「その石でどうするんだ?」


 俺は純粋な疑問をぶつける。


 「これで斧の刃を研ぐんだよ」


 「で、できるのか?」


 「まあ見ててよ」


 シェルデンはそう言うと石で斧を研ぎ始めた。その研ぎ方には迷いが無く慣れた手つきだ。


 「うまいもんだな」


 「すごいですね」


俺とノゾミは感心してシェルデンの芸術的な手つきに惚れ惚れとしてしまう。お世辞ではない。


 「よくキャンプをするからね。砥石を忘れたときなんかはよく落ちてる石で研ぐよ」


 「そんな石で研げるのか?」


 「もちろんだよ。昔から僕たちの祖先は打製石器とか磨製石器を石で研いでいたんだからね」


 言われてみればそうだ。現代人の俺は何かを研ぐことなんてしないものだから頭の片隅にすらなかった。


 「ほらこうやって大まかに研いだら・・・仕上げにこの平らな石で磨くと・・・・・・できた!」


 「「おお~」」

 俺とノゾミは見事にハモり、パチパチと称賛の拍手を送る。


 「照れちゃうな。二人ともいつかきっと役に立つと思うから覚えておくといいよ」


 シェルデンはえへへっと爽やかにはにかんだ。


 その後シェルデンは柄の部分がボロボロになっていたので、拾ってきた木の枝に斧頭を薄汚れた布できつく縛った。即席斧の出来上がりだ。


 「話を止めちゃってごめんね。話を続けようか」


 シェルデンはさも自分の得意分野を見せつけてしまい申し訳なさそうに言った。

 俺たちはもう一度3人で輪を作るように座り、話し合いを再開する。


 「町を見つけて物資を調達したらどうするんですか?」


ノゾミが積極的に疑問をぶつけてくる。


 「町にはアンデッドが集まっているだろうから物資を調達したらひとまずこの小屋に戻ろう。ここらにはアンデッドがいないようだし拠点に最適かもしれない。少し汚いけどな」


 「うん、それがいいね」


 シェルデンはやはり物分かりがよく、すぐに賛成してくれた。


 「じゃあ準備を整えたら出発しよう」


 ノゾミとシェルデンはまた、はい!と気持ちのよい返事をした。



 

 



 




 


 

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