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Episode.7

―――――――アンデッドか!?

 

 俺は横に置いておいたスコップを手に取り、ドアを開ける。


 黒い人影だ。


 スコップを右斜めに上げ、思い切り振り下ろそうとしたら―――――


 「ま、待ってくれ!僕はアンデッドじゃなくてプレイヤーだよ!」


 アンデッドではなくただの男性プレイヤーだった。顔は暗くて見えにくいが俺よりは背が低い中肉中背のシルエットが見てとれる。声変わりはしているのだろうが、少年のようにも思える声でたどたどしく男はアンデッドでないことを主張した。


 この場合はどうしたら良いのだろうか?あのアラーム装置はアンデッド対策として考えたものだ。この世界はおそらくかなり広大だと思われる。最初のテレポート地点からこの小屋まで3kmほど歩いたが、マップはまったく更新されておらず黒い画面に緑の点しか表示されていなかったからだ。因みにマップはピンチアウト(二本の指の間を広げるように動かすこと)をして拡大したら、この小屋に至るまでの道が更新されてその部分が緑色になっていた。緑色なのは森を表していると思われる。マップはよくあるマップアプリとほぼ同じ要領だ。

 

 話を戻すとアラーム装置はアンデッド対策でありプレイヤーに対しては何も考えていなかった。3㎞も歩いたのにノゾミ以外のプレイヤーに会わなかったからだ。すっかり忘れていた・・・。俺もやはり混乱しているのだろうか。

 

 スコップを振り上げたまま固まったままの俺に男が言った。

 

 「ごっ、ごめんよ!できればスコップを下してほしい・・・」

 

 男は俺の警戒を解くためか両手を上げる。


 「あ、ああ。すまない」


 彼の要望に応えて俺はスコップを下す。


 「いいよいいよ。僕も悪かったんだから」


 男はニカッと笑い言った。

 彼はデスゲームとなったこの世界をどう捉えているのだろうか。冗談?

 そう思っても仕方がないくらい眩しい笑顔だった。


 「僕はシェルデンっていうんだ。君は?」


 「俺はラッセルだ」


 その笑顔に流されつつ、ノゾミと違い本名ではないアバターネームを名乗ってきたので俺もアバターネームで返す。

 

 「・・・入れよ。外は危険だ」


 辺りはより一層暗くなり、明かりもないようでは歩くことはできやしない。彼の行動から推測すると俺とノゾミと同じように寝る場所を探していたのだろう。そう考えてひとまずは入れてあげることにした。変な行動を起こさないか十分警戒をして。


 「いいのかい?ならお言葉に甘えて」


 俺はシェルデンを先に入れてあげてできるだけ音がたたないようにドアを閉めた。

 室内は月明かりがぼんやりと壁のつなぎ目を通して差し込んでいる。ほぼ暗闇に沈んではいるが物や顔を確認する程度には見える。


 俺が飛び出す前は横になっていたが、今は棚の後ろに隠れるノゾミに俺は声をかける。


 「ノゾミ、この人はシェルデンだ。もう辺りは暗くなっているからシェルデンもここに居させてもいいか?」


 ノゾミはそろりと棚から出てきて俺の背中からちょこんとシェルデンを見つめる。俺を信頼・・・してくれているのだろうか?そうだったら嬉しい。


 「ごめんね。お邪魔しちゃって。僕はシェルデンよろしく」


 シェルデンが一歩前に出て、壁の隙間からの月明りに晒される。より鮮明にシェルデンの顔を見ることができ、爽やかそうという印象を受ける顔立ちの少年だ。髪の毛は亜麻色で軽い天然パーマがかかっている。俺の髪の長さは少し短めだが、それよりも全体的に3cmほど長い。


 ノゾミはこくりとうなづきシェルデンがここに居てもよいことに同意する。


 だが、シェルデンのことを不審そうに見ているので俺は優しく声をかけた。


 「ノゾミ、まだ落ち着かないなら横になってていい。俺はシェルデンと話をするから聞いているだけでいいからな」


 「・・・ありがとう」


 ノゾミはそう言って再び横になり、俺とシェルデンは床に座った。


 「シェルデン、ここには泊まってもらって構わない。だがいくつか質問がある。それに正直に答えてくれ」


 俺はシェルデンの目を見て言った。

 

 「もちろんだよ」


 「まずはどこから来たんだ?小さな町を見かけた・・・とか教えてほしい」


 「それなら僕のマップを見せるよ。ちょっと待って。・・・・・・よいしょっとはい」


 シェルデンは自分のタブレットを差し出し、俺はシェルデンのタブレットを受け取るが―――――電源が付いていない。


 「おい、シェルデン。マップが映ってない。電源をつけてくれ」


 「えっ?電源ついているじゃないか。・・・あっ、もしかして他人の情報は見えないようになってるんじゃないかな?一応個人情報とか入ってるし」


 確かに、タブレットを弄っていた時に俺の本名などの登録情報が載っていた。


 「本当か?なら俺のタブレットも見せる。・・・・・・見えるか?」


 俺はタブレットの電源を付けマップを開き、画面をシェルデンの方に向けた。


 「やっぱり見えないよ、なら口で言うね」


 嘘を言う可能性もあるが、俺たちを貶めても何のメリットも無いため大丈夫だろう。それにシェルデンは悪い奴ではない・・・と思いたい。

 

 「僕が最初にテレポートしたところは小さな池の前だったよ。他のプレイヤーがいないか大声で叫んだんだけどプレイヤーじゃなくてアンデッドが来てね、驚いて逃げたんだけどアンデッドは足が遅いみたいで簡単に逃げれたんだ。そのあとからはずっと歩き続けたんだけど何にも出会わなくてだんだん暗くなってくから困ったけど、偶々小屋を見つけたらラッセルたちがいたんだよ」


 そう笑顔で答えてくれた。フレンドリーな奴だ。話し方は嫌な感じがせず、第一印象同様爽やかだ。


 「なるほどな。ほぼ俺たちと同じだな。次の質問なんだが、シェルデンはデスゲームになったことを信じているか?」


 シェルデンは首を縦に振り言った。


 「多分だけどデスゲームになったと思う・・・。もうゲームが開始されて8時間以上は経ってるのに外部からの連絡とか強制ログアウトとかされていないし、何より・・・城栄とかいう奴には狂気を感じた。口調は軽い感じだったけど何か心の奥に恐ろしい何かが潜んでいるように思えた」


 シェルデンの言う通りだと思う。ノスタルクリエーション社は前作のVRMMOパッケージが失敗したこともあり、「The end world of the dead」には相当力を入れていたはずだ。初日から不祥事があっては世間からの評価はさらに落ちるため解決を試みているだろう。しかし現にまだ俺はここにいる。

 

 また城栄に狂気を感じたかと言われればわからないが、人の心に干渉する何かおぞましいものは感じた。あの軽い言い方でとんでもないことを宣言したのだ。その異質さを感じたプレイヤー達が無数の叫び声を上げたことからもそうなのだろう。


 「そうか・・・次が最後の質問なんだが、リアルのことについて聞いてもいいか?リアルについて聞くのはマナー違反だってのはわかってる。嫌なら答えなくてもいい」


 シェルデンのリアルについて聞いたのは、もしかしたら友達になれるかも―――――と思ったからではない。

シェルデンは俺と同じように現実を受け入れていると思う。だから仲間になってほしいと思っている。俺一人ではノゾミを守るのは無理だ。だから、仲間になってくれるのならシェルデンについて知りたいと思っただけだ。 


 シェルデンは爽やかな笑顔で答えてくれた。 

 

 「構わないよ。僕は高校2年生で、部活は陸上をしているよ」


 「俺も高2だ。部活はバスケ部だ」


 「同い年か~、僕よりも年上かと思ったよ」


 確かに俺は身長がそこそこ高く威圧感があるのかバスケの練習試合で他校の生徒にファウルされたときにはほぼ毎回すみませんと謝られてしまう。これが俺より年下なら礼儀正しいなと思うだけだが、俺より年上の人にも言われてしまうのだ。その年上の人が俺と同じ学年のチームメイトにファウルしたときにはごめんなと軽く謝ってた。多分俺は老け顔・・・ではない。


 俺は一人で変に笑ってそんなことを思った。シェルデンが続ける。


 「ラッセルはこれからどうするつもり?」


 シェルデンが一転、真剣な目を向けてくるので俺も変な笑を止め、シェルデンと目を合わせた。


 「俺はノゾミと彼女の姉を探すと約束したからな・・・だがマップを見た通りこの世界はかなり広大だ。かなり先になるだろうから当面は物資を調達しようと思ってる。腹もすくしアンデッドからは身を護らないといけない。その・・・どうだろうか。一緒に行動しないか?見た所一人だろ。


 俺は歯切れが悪くシェルデンに言った。


 「ノゾミちゃんにはここにお姉ちゃんがいるんだね・・・。僕は幸運なのかはわからないけど一人だから・・・。うん、僕からもお願いするよ。一人よりも人数が多い方が前向きでいられると思うから。よろしく!」


 そう言ってシェルデンは俺に手を差し出した。


 きっとシェルデンは現実世界では多くの人から慕われているのだろう。クラスのムードメーカーのような親しみやすさを感じられる。自然に付き合えて不快感を感じない。


 俺はシェルデンの手をがっちりと掴んで言った。


 「こちらこそよろしく」




 


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