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Episode.6

 ―――――――ッ!


 全身が硬直しドクンドクンと鼓動が強く速くなる。


 目の前の暗がりに意識を傾けていたため後ろが無警戒だった。

 反射的にバッと振り向き、それを手で押して突き放した。

 

 「きゃっ・・・・・!」


 弱々しいか細い悲鳴をあげてバランスを崩し倒れていくその正体は、


 ノゾミだった。


 ノゾミは尻もちをついてそのまま地面に倒れてしまった。

 

 「・・・・・・痛い・・・」


 ノゾミは表情を歪ませて訴える。


 「わ、悪い。でも、驚かさないでくれよ。アンデッドかと思ったぞ」


 「ごめんなさい・・・一人は怖くって・・・」

 

 女の子らしい理由だ。

 女の子を一人にしたのはまずかったか。俺のエゴにまたもや嫌気がさしてしまう。


 「そうか・・・・・・小屋の中は大丈夫みたいだ。扉を閉めて何か使えるものを探そう。今日はもしかしたらここで寝るかもしれない」


俺はうずくまるノゾミに手を差し出して言った。

ノゾミが俺の手を握ったので俺は引っ張って立たせてあげた。見た目通りでとても軽く簡単に持ち上がってしまった。

 ノゾミは立ち上がったが、変わらずずっと下を向いており俺と目を合わせず


 「・・・・・・わかった」


 と答えた。


 俺はそんなノゾミの顔を目で追いかけながら横を通りすぎてドアを閉めた。

 ドアを閉めると小屋の中は壁のつなぎ目から微かに漏れる光だけの灯りが乏しい室内になってしまった。

 だがこれでいいだろう。室内に灯りが灯っていればアンデッドが近づいてくるかもしれないからだ。アンデッドについてはまだ何もわからないのだ。危険要素は一つでも少なくする。


 俺はちらりとノゾミの方を向き言った。


 「きっと何か役立つものはあるだろうから探すのを手伝ってくれ」


 「・・・・・・うん」


 ノゾミは痛みを和らげるためかお尻をさすりながら返事をした。

 俺とノゾミは互いに背を向け、探し始めた。

 

 室内は暗いが、やはり随分と年季の入っていることはわかる。雨漏りをしているのか壁にはシミが絵画のように染みついている。また窓が無いため日光が取り入れられず、空気の通りも悪くカビが生えている。衛生的ではないが一日泊まるだけなら問題は無いだろう。俺は大丈夫だがノゾミはどうなのだろう。14歳の女の子だ。いつも使っている布団と枕でぐっすりと眠りたいだろう。早くこの状況を少しでも現実と認めてほしい。


※ 

 

 今はすでに辺りが暗くなり俺とノゾミは小屋の中で息を潜めている。俺は壁にもたれかかって足を伸ばしていて、ノゾミは小屋の隅で壁の方を向いて横になっている。眠っているのかはわからない。


 それほど大きい小屋ではなかったため俺とノゾミは30分程度で小屋のものをかき集めた。

 アルミニウム材質の棚にはスコップ、刃こぼれし壊れかけた斧、円の形に丸められたシルバー色の針金、中空の外身の中に小さな玉が入っている鈴、ボロボロになったリュック、薄汚れた布があった。あとは木箱にあった缶詰二缶のみ。


 武器として使えるものは消去法でスコップだ。斧は修復可能だとは思うが今は修復するための道具が無い。他に役立つものは缶詰だけだと思ったが、俺はひとつのアイディアを思いついた。

 それは鈴と針金を使ったアラーム装置だ。これがあれば眠っている間にアンデッドが近づいてもすぐに起き上がって対処できるはずだ。作り方だがこの細くて頑丈そうな針金に、DANGERという文字の下に熊の全身の投影図が写されている鈴(この世界では熊は出るのだろうか?)を通すだけだ。


 あとはこれを小屋の周りに生えている木々に小屋を囲むようにしてだらんと巻き付けるだけだ。

 針金が張った状態だとアンデッドが針金に引っかかっても鈴はならないと思うのでゆるゆるに巻くのだ。

 そのアラーム装置を先ほど設置しておいた。


 多分大丈夫だろう。


 最後に机の鍵が付いた引き出しをスコップで壊そうと叩いたのが一つも傷がつかなかった。元から傷はついていたのだが、それ以上傷が増えなかったのだ。不思議に思いタブレットからマニュアルを見たら、どんな衝撃を与えても壊せない破壊不能物体というものが存在するらしかった。

 

 他にもマニュアルを読むと色々なことが分かった。しかし、マニュアルには空欄がいくつかあり削除されたような体をなしていた。おそらく消されたのだろう。消された部分はデスゲームを前提としていない類の説明やゲームを進めるための重要なことが書かれていたと思われ、タブレットの使い方といった最低限のことしか書かれていなかった。


 大体はチュートリアル通りのことだが、いくつかは有益なことが書かれていた。

 

 今の状況で有益な情報を3つ挙げると、1つ目はアイテムはアイテムストレージに入れてタブレットから操作して適宜取り出すことができる。

 アイテムが近くにあればタブレットの画面にNearという枠の中に画像が表示されて、タップするとStorageという文字が浮かぶ。それをさらにタップすると自分のアイテムストレージに入るらしい。

 試しにチキンスープの缶詰でやってみたが白く光ったあとに消滅し、俺のアイテムストレージにはクリスマスで食べるようなローストターキーがデフォルメされた絵の載る缶詰の画像が追加されていた。

 

 2つ目はリュックなどの収納用アイテムを装備しているとアイテムストレージが増えてより多くの持ち物を持ち運ぶことができる。リュックサックなどを装備するとアイテムストレージにはRucksackという枠が追加されるそうだ。アイテムストレージに入れたチキンスープの缶詰はHandsという枠の中に入っていた。HandsからRucksackへのアイテムの移動もタブレットできるみたいだ。因みにアイテムには耐久力がありゼロになるとアイテムストレージから完全消滅するそうだ。しかし耐久力は数値としては見れない。


 3つ目だがこれが一番の収穫だと思う。うんざりするほどの長ったらしい説明が延々と書かれていたが、要約するとアンデッドは人間のような知能は失われ、脳のリミッターがはずれており生命力が高くなって五感も生きているらしい。

 

 まだまだ情報が少ないため探っていくは必要はあるだろうが、先の心配よりも今の心配だろう。


 心配と言えば俺の友人もこの世界で閉じ込められている。友人のアバターネームを知らないためタブレットから死亡者を確認したら友人の本名は無くつい胸を撫で下ろしてしまった。500万人もプレイしているのだ。きっと知り合いは他にもいるだろう。


 ―――――ノゾミはどうなのだろうか?


 俺はすっかりパサパサと乾いてしまった口を開き聞いてみた。


 「なあ・・・ノゾミ。知り合いがここにいるか?」


 「・・・うん、いるよ。お姉ちゃんが誘ってくれたから・・・」


 重く、抑えつけたように言った。

 

 お姉さんも気の毒だな。決してお姉さんに過失があるわけではないが自分のせいで妹をこの現状に引き込んでしまったのだ、心中お察ししてしまう。お姉さんもきっとノゾミを心配しているはずだ。

 俺はノゾミに少しでも希望を持ってほしくぽつりぽつりと言った。

 

 「・・・そうか、なら君の姉を見つけよう。俺も友人が気がかりだ。」


 「どうして・・・どうして私を助けてくれるの?」


 ノゾミは低くつぶやいた。それは今までで最も感情のこもった言葉だった。

 助ける理由か・・・恩を売っておいていつか恩を返してほしいだとかそんなものを押し付けるつもりはない。助けてほしいのに誰も手を差し伸べてくれないのはどれほど辛いことかは俺は身をもって知っている。そう・・・あの時だって・・・・・・・・・。

 

 「・・・わからないさ。でも俺は他人を切り捨てて生き延びるようなクズには―――――――」


 言葉を遮って


 しゃんしゃん


 と外に設置しておいたアラーム装置の鈴が鳴った。

 







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