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Episode.2

 「は?」

 「なんだ?」

 「何が起きたんだ?」


 不意を突かれたプレイヤー達はそう言いながらざわざわとざわつく。

 

 「なんだよ、あんとき俺がモンスター狩ってる途中の時のようにまた鯖落ちすんのか?」

 「ただのバグなんじゃないの?」


 隣にいる男女が言った。男の方は怒りが込められたような口調、女の方はうんざりしたような口調だ。

 男の方は実際にその場に居合わせたかのような口ぶりだ。

 男は3日でサービスが終了したVRMMOへダイブしたことがあるのだろうか?

 尋常でない怒りと苛立ちを感じさせる声音だ。


 男の怒りはよくわかる。

 何しろ1年も待たされたのだ。1作目のVRMMOをプレイしていたとしてもたった3日で終了だ。

 ここにいるプレイヤーはストレスを募らせながら今日という日を待ち続けたのだ。

 もしこのままサーバーが落ちてまたもや待たされることになったら、ノスタルクリエーション社はどれほどのバッシングを受けるだろうか。

 

 しかし、まだそうなると決まったわけではないので男が怒るのは早すぎる気もするが―――――。


 すると石塔の鐘が鳴り、静かになる。

 プレイヤーの疑問や怒りや苛立ちを含んだ言葉は長くは続かなかった。

 

 

 『テステス―――――はい、どーもー。』


 無機質な女性の声ではなく男の声だ。低い声ではなく男にしては若干高めの声だ。

 その声は軽く浮ついていてチャラチャラした印象を受ける。

  

 「サプライズかなんかか?」

 「ログインボーナスくれよ」

 「チャラすぎだね」

 「クソ演出乙」


 最後に聞こえた言葉はひどい言葉だな。

 焦る気持ちもわかるが、空気を悪くするような発言は慎んでもらいたい。

 だが、それだけ期待もしているんだろう。


 『ノスタルクリエーション社の城栄といいます』

 

 記憶を探ったが、城栄という名前は聞いたことは無いな。

 運営部門の人だろうか。

 

 『これから追加チュートリアルを行うのでよく聞いてくださいね~』


 「追加チュートリアルとか(笑)」

 「まともなゲーム売れや」

 「クソゲー認定でいいか?」


 口は悪いけれどもそれらの発言には大方同意。

 ノスタルクリエーション社の株はVRマシン発売をして最初のゲームパッケージを販売した時に天井を叩いたとすると、そのときの半分程度の信用しかないだろう。

 俺だって最初のゲームパッケージの初回販売は逃したが次回販売の予約はできていた。だから、3日で終了したというニュースをネットで見たときは心が締め付けられる思いをし暗く沈みこんだのだ。

 

 アナウンスが続く。

 

 『君たちは現実には戻れなくなりました』


 ―――――――どういう意味だ?

 

 考える暇もなくその声は続く。


 「どういうことかっていうとね、ログアウトボタンを消したからログアウトが出来なくなったんだよ」


 「は?」

 「―――ッざけんな!」

 「いきなり意味わかんねえよ!」

 一部のプレイヤー達が叫んだ。

 その一部のプレイヤーを除き、多くのプレイヤーはまだきょとんとした表情を浮かべている。

 俺もこのときはまだその言葉を理解できない。


 『君たちにはな~んの恨みもないんだけどね、会社の俺の扱いがひどいのよ。俺だってまあまあ優秀だけどね、やっぱり上には上がいてね~、人材の墓場すぎる。だからこれは会社への復讐だ。それに・・・。」


 それにの後からは続かなかった。何を言おうとしたのだろう。


 しかし、この言葉が発せられてもなお多くのプレイヤーはきょとんとした表情を浮かべている。

 だが・・・俺は理解した。

 ログアウトが出来ないということは城栄という奴が言った通り現実には戻れなくなる。

 だが、しかしそれだけで復讐になるのだろうか?

 他の社員がすぐに復旧してログアウト可能にすると思うからだ。


 

 2,3時間程度ここに拘束されたとしてノスタルクリエーション社がバッシングを受けてもそれほど大きな損害はないだろう。いくらノスタルクリエーション社が世間からの評判が下がったとしても世界初のVRマシンを開発したし、もともとゲーム業界の重鎮たる企業で大きな権威もある。「The end world of the dead」が革命を起こすことは間違いない。今日という瞬間的に見れば大きな損害だと思うが、継続的に見ればそれをはるかに凌駕する名声と利益を得られるだろう。

 

 ログアウトできなくした動機に見合った推察をしたと思っていた。

 俺はこの後に発せられる言葉も知らずに、あまりにも甚だしい甘い考えと大きな勘違いをしていた。


 『でもねログアウトが出来ないというだけじゃ会社に大したダメージを与えられないから仮想世界では君たちはログアウト出来ないけど、現実世界の君たちはログアウトできるようにしておいたよ」


 仮想世界ではログアウトできないが、現実世界ではログアウトできる?

 ―――――いや・・・そんなまさか!

 俺は次に発せられるその言葉に不安を募らせるが、周囲のプレイヤーは何が何だかわからないような表情だ。

 そして、想像を絶する言葉が発せられた。

 

 『つまり君たちは現実世界で死ぬんだよ。より正確にはアンデッドに嚙まれたり、この世界で死んだらゲームオーバー。仮想世界の君たちも死んで、現実世界の君たちも死ぬんだ、もう永遠に仮想世界にも現実世界にもログインできないよ」

 

 俺が危惧していたその言葉を何の強調もせずにスラスラと城栄は言った。

 「死ぬ」。

 新技術のVRという未知のものでもこれはただのゲームだ。何となく予想していた「死ぬ」という言葉だがゲームで死ぬというのはにわかに信じられない。

 

 RPGでモンスターにHPを削られたり、シューティングゲームで敵からの攻撃を受けて死ぬという意味ならばよく使うだろう。だが城栄は現実世界で死ぬと言った。


 『信じられないだろうけど本当に死ぬ。その理由を簡単に説明しよう。君たちは現実世界と同じように仮想世界でも身体を動かしているよね。なのに現実世界の身体が動かないなんて不思議じゃないかい。それを可能にしているキャンセリングシステムってのがあってね、それで君たちは脳からの信号よりも強い信号を強制的に送られているから可能なんだ。そのキャンセリングシステムのおかげで強力な電磁気を発生させて脳を焼く。これはVRマシン「ネクスト」をはずそうと試みた場合致死量の電磁気が生じて君たちを殺す。』


 「嘘だ!」

 「頭おかしいんじゃねえのか!」

 「どうしたらいいんだよ!」

 プレイヤー達が喚いた。


 ―――本当に死ぬのか?ただのはったりのようにも思える。城栄が「嘘でした」と言ってサプライズ的に壮大な演出とともにゲームが始まる可能性もある。いやそうであってほしい。


 俺はなおも甘い考えを続けた。

 信じられなかったというわけじゃない。信じたくなかったんだ。


『もうひとつ君たちを殺す方法があってね、それもまたキャンセリングシステムのおかげなんだ。キャンセリングシステムが無かったら君たちは仮想世界でも痛覚を感じてしまう。でもね、キャンセリングシステムが痛覚を消してしまうんだ。それを利用してね、痛覚の部分に関するコードをキャンセリングシステムから削除した。だから仮想世界でバットで殴られれば気絶するし、銃で撃たれれば焼けるように痛いよ~。その痛みで現実世界の君たちはショック死に至る。けれど精神力がタフな人はショック死に至らないかもしれないから、仮想世界で死んで現実世界でショック死にならなかったら脳を焼くから絶対に死ぬ』


 はったりなんかじゃない。理論的にプレイヤー達を殺すことは出来る。

 「ネクスト」開発の実験でスタッフが仮想世界で銃を撃たれて、現実世界で死んだというニュースは大きな話題になった。それはキャンセリングシステムが完全ではなかったから、強い電磁気で脳が焼けたのだ。

一体脳が焼かれるというのはどのようなものなのだろう。

 

 まる焦げになる?

 とろとろに溶けてしまう?

 ぐつぐつと煮えてしまう?


 考えるだけでも恐ろしい。

どうなっているのかは知りたくもない。

 

 奴はまだ続ける。

 『君たちはこの仮想世界でもがき苦しんで死ぬのと、脳を焼かれて楽に死ぬのとどちらがいいのかな。後者の方がいいとは思うけど、今君たちの隣には誰かいるかい。いるとしたらそれは家族や友人だと思うけど、もしVRマシンを力づくで頭から取り除いたらどうする?恐ろしいだろう?さらに、君たちを殺してしまったという事実で精神的に苦しむかもしれないね。警告をしてもいないから誰か死んでるんじゃないかな』


 しんとした静寂の中、一人の女性プレイヤーが


「ああああああああああああああああああああああああああ」


と前半は甲高い声だったが、後半は喉が潰れたようなガラガラした奇声をあげた。

 それが引き金となり静寂が破られた。


 「わあああああああああああああああああああああああん!」

 「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 「だせえええええええええええええええええええええええ!」

 「・・・・・・・・・」

 プレイヤー達は泣き、叫び、怒り、震え、立ち尽くす。

 

 俺は泣きたく、叫びたく、怒りたいが、震えながら呆然と立ち尽くした。

 けれど片目から一筋の涙が目から顎まで伝って落ちる。


 なんでたよ。なぜこうなるんだ。

 怖い。怖い。

 死ぬのも怖い。

 けど、それ以上に今家にいる家族の誰かがVRマシンを取り外して俺が死んだら?

 死んだら責任の所存は城栄やノスタルクリエーション社にある。けど、家族がその手で俺を殺してしまったと思いつめたら?

 精神を病んで、最終的には自ら命を絶ったら?

 だめだ。そんな負の連鎖。


 そこからはもう息を吸うこともなく、たんたんと城栄の言葉が続く。

 

 『ただ閉じ込めていたぶるだけじゃ可哀そうだから脱出方法は用意しておいたよ。それはね―――――この世界で生き抜けばいい。

―――――――生き抜けば、じきにわかるだろう』


 「どうしたらいいんだよ!」

 「お願いだから出してくれよ・・・」

 「お母さんごめんなさい」

 「しねええええええええええええええええええええええ!!!」


 プレイヤー達は今までにないくらい泣き、叫び、野次を飛ばして騒いだ。

 それはもう鼓膜が破れてしまうほどに。


 『あと、ログアウトボタンを削除した代わりに、生存者と死亡者がわかるようにしておいたよ。生きている時表示されているのはアバターネームだけど、死んだらアバターネームの横に本名が乗るからね。じゃあこれで追加チュートリアルを終わります』


 直後石塔から再び鐘の音が鳴る。

プレイヤーである生存者500万人は光に包まれた。


光に包まれる中とぎれとぎれしか聞こえない言葉が聞こえた。


『――――めにも――――は――――――ない』


 最後に城栄が言った言葉は聞き取れなかった。


 


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