表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/12

Episode.11

 俺はシェルデンの親指を立てたグーサインを確認し、アンデッドの様子を伺う。


 今の立ち位置としては、民家が立ち並ぶ一本の通り道にアンデッド1体がうろついており、シェルデンは家と家の間に身を潜めている。俺とノゾミはアンデッドが近づいてくるのを待っている状況だ。


 既に2体のアンデッドを片付けたことから基本的にアンデッドというのはワンパターンということがわかった。例外はあると思うが、何か動くものや音がする方向に近づいてくるだけのはずだ。


 ざっざっざっ、とアンデッドがこちらに近づく。


 まだだ。あと少し――――――――――――今だ!


 俺とノゾミは石を投げつける。

 ノゾミの投げた石は筋力が足りないため地面にぼてぼてと転がった。これでいいのだ。わざわざアンデッドに当てる必要はない。音がする方向に歩いてきて、こちらに近づけばいいのだ。しかし、俺の投げた石はアンデッドの顔面めがけて一直線。

 視力が生きていても目という器官が無ければ見ることは出来ない。聴覚や嗅覚で生存者を判断できるかもしれないが、目を潰せば行動を遅らせられると思ったのだ、だが、残念なことに俺の思惑は外れた。


 顔面に命中しゴスッという鈍い音がしたが、目は潰れていない。音に反応したアンデッドがこちらへ近づいてくる。

 ノゾミが投げた石のところまで移動し、今度は俺とノゾミを新鮮な肉と判断する。


 様子を伺い頃合いと思ったシェルデンがこちらへ駆けてくる。そして大きく振りかぶり振る。

 アンデッドは真上から飛んでくる斧に気付かず頭部に激しく衝突した。


 アンデッドは白内障のようにどんよりと濁った眼から白目を剥き、小さなうめき声を出してばたりと倒れた。


 「やったな」


 俺はアンデッドを退治した喜びを分かち合うべく手を挙げる。


 「そうだね!」


 パチン!と手を叩き合わせて気持ちの良い音が響いた。


 「私も~!」

 

 ぷくーっと頬を膨らませて不機嫌な様子なノゾミが両手を横に広げる。

 自分にもしてほしいというジェスチャーだろう。可愛い奴だな。

 俺はそんなノゾミを見てつい笑みをこぼしてしまった。


 俺とシェルデンはノゾミの手をパチンと叩いてあげると、にっこりと太陽よりも輝く笑みを浮かべてくれた。本当に可愛いやつだ。


 「じゃあ一軒一軒回って物資を調達するか。中にもアンデッドがいる可能性があるから十分注意しろよ」


 アンデッドが倒れている横を通り過ぎてまずは1軒目。


 窓ガラスが力を受けた点を中心に周囲にひび割れが広がって鋭利なガラスを剝き出しにして割れている。そこから民家の中を覗く。

 いないか?

 試しにスコップで壁をコツコツと叩くが反応なし。


 ドアのノブを回すと鍵がかかっていないことがわかった。

 

 「大丈夫だ。中に入ろう」


 民家は木造建築で歩くとミシミシと軋む音がした。


 「手分けして使えるものをさがそう」


 二人は「わかったよ」「はい」と小さく返事をした。


 さてと俺はこのタンスでも漁るか。漁るだなんて空き巣みたいだな。胸の鼓動が早くなるのはなぜだろう。空き巣というのはバカらしいと思っていたがスリルを味わうという観点からだと・・・いや、俺は決して犯罪者じゃない。戒め戒め。


 「おっ」


 ゴソゴソと探っているとトマトの缶詰と500mlの水のペットボトル3本を見つけた。3本というのはちょうどいいな。皆でぴったりと分けられる。2本だった場合うまく分けることができないので3人で回し飲むことになるだろう。俺も男だからノゾミのような可愛い子と間接キスをすることに興味はあるが紳士だからな。そのへんは弁えているつもりだ。


 他にめぼしいものは無いな。


 「何かあったか?」


 二人とも首を横に振る。まあ、まだ他にも民家はあるからな。きっと何かあるだろう。


 しかし、その後一軒一軒漁ったが何も見つからなかった。マジかよ。だが、最後に漁るのは唯一の2階建ての民家なので期待大だ。


 この集落の地主的な人の家だったのだろうか?

 家の周りは膝くらいの木の柵で囲まれており、正面には木のゲート。庭には年数を感じる松の木が何本か生えていた。


 俺たちはその家に入った。


 この集落では一番の豪邸であろう家なのに室内はがらんとしらけたように何もなかった。

 がっかりだが、一応引き出しとかも見てみるか。

 

 「ん?」


 冷蔵庫がゴゥンゴゥンと動いている。

 電気が来てるのか!?

 

 俺は冷蔵庫のコードを辿っていくと発電機があった。


 「おい!見てみろ発電機がある!冷蔵庫に繋がっているから中を見てくれ」


 ノゾミが冷蔵庫に駆け寄りパカッと中を確認する。


 「うわわわわ!すごいですよ、これ!」


 「すごいよこれ!」


 2人とも驚嘆しているので何が入っているのか俺も気になる。もったいぶらずに何が入っているのか教えてほしいものだ。


 腰を抜かしている2人の間を通り冷蔵庫の中を見ると。


 「に、にくだあぁああああ!」


 俺も腰を抜かしてしまった。

 そこには冷えた箱の中に大きな肉の塊が鎮座していた。アンデッドの肉などではない。重厚な厚みをおびている新鮮な牛の肉だ。


 「こ、これってTEWOではかなりのレアアイテムなんじゃないか・・・・・・?」


 「こんな死者が歩き回ってる世界で牛肉だなんて超レアアイテムといっても過言じゃないんじゃない?」


 シェルデンが超という部分を強調して言った。


 仮想世界では食も一つの楽しみとして数えられている。実際に食べてもただのデータなので現実世界の身体のお腹は満たされないが空腹感は消え、美味しいものを食べると脳内は幸福感で満たされる。


 昨日食べた缶詰は通常アイテムだと思われるため大してうまくなかった。缶詰クオリティだ。しかし、目の前にある牛肉はどうだろう?TEWOの世界では肉や野菜などの生鮮食品を手に入れにくいことは容易にわかる。

 

 ただの安物の牛肉ならばここまで過剰な反応はしなかった。しかし、この牛肉は霜降り肉なのだ。筋肉内に脂肪が細かく入っており鮮やかなサシが目立っている。食べたらとろけてしまいそうな見た目に魅了されてしまう。おそらく最高ランクのA5の牛肉だ。シェルデンが言ったように超レアアイテムの方がその見た目にふさわしい。


 こんな世界に送り込まれてしまったのだ。肉を食べることなど早々諦めていた。それをシェルデンとノゾミも理解していたのだろう。その2つの理由が相まって本当に腰を抜かしてしまった。


 「俺・・・これが最後の晩餐でいいよ」


 死ぬのは嫌だが、そう言っても仕方がないほど感動してしまった。


 「シャレになってないですよ」

 

 ノゾミがフフフと面白おかしく笑った。まったくだよとシェルデンも同調した。


 「牛肉は後にして今度は2階に上ろう」


 本当は今すぐにでも焼いて食べたかったのだが、本来の目的は物資調達だ。牛肉は冷蔵庫が無ければ酸化して腐っていくため長期的な保存ができない。となると長期保存がきく缶詰を見つけなければならない。缶詰は缶詰でも昔俺の家のキッチンから盗んで食べた身がたっぷりと詰まっている一番脚のカニ缶は相当美味かった。母さんにブチ切れられて

・・・もう一度食べたいな。

それならば最後の晩餐にならないように生き抜いて脱出しないとな。


 2階は一部屋のみか。1階にはリビング、キッチン、トイレ、寝室があり結構広かったのだが、この部屋は1階部分の半分程度の大きさ。それでも10人が床に寝て寝転がってもぶつからないだろう。


 「ありましたよ!」


 他に物資がないか探してくれていたノゾミが叫んだ。


 「ありがとう。この量だと1週間は生きていけるな」


 すべての民家を漁った結果は、トマトの缶詰、500mlの水のペットボトル3本、缶詰は12缶、牛肉。缶詰はカニ缶などの高級缶詰は見つからなかった。おそらくオーソドックスな缶詰しかないのだろう。残念だが牛肉で我慢しよう。


 「じゃあリュックに入れておきますね」


 タブレットを取り出しStorageのRucksack欄に食料を入れようとするので俺は制止する。


 「いや、待ってくれ。あの小屋には戻らずここを拠点にしないか?」


 「やっぱりラッセルもそう考えていたんだね。僕もそう考えていた所だよ」


 シェルデンは俺の意図を察したのだろう。

 この民家は拠点に最適だ。周囲は木の柵で覆われていたためアンデッドが侵入しておらず窓が一つも割れていなかった。防御面では文句なしだ。

 次に発電機があるためIHクッキングヒーターで料理ができるし冷蔵庫で食料の保存もできる。発電機はガソリンで発電するため限りあるが1週間は持つだろう。

 

 「なるほど!この家の方が安全ですもんね!」


 「そういうことだ。少し早いけどそろそろ夕食にしないか?俺早く牛肉食べたいんだが」


 「意地汚いですよ~。でも、私もお腹空いたので賛成です!」


 「ははは!じゃあ僕も賛成」


 このような状況になって笑いあえるなんてどれだけ幸せだろうか。

 そう、俺たちはただ笑っていたのだ。

 

 この後起きる出来事も知らずに・・・・・・

 



 俺たちは仲良く笑っていたが、外から声が響いてくるのに気付いた。


 「うおおおおおお!はよ走れや!このクソデブ!」


 「うっせえわ!ならお前があいつらのエサになれ!!!」


 


 

 


 


 

 


 


  


 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ