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戦料理人は異世界も喰らう  作者: 世見人白洲
第一章 森の暮らし
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第八話 塩分過多は死出の旅路

リリさんや、俺が悪かったよ。


人間部分が半分くらいしかないけど立派な女の子に抱きつかれて嬉しくないわけないでしょう?でも気分は娘みたいなものだよ?だって手に顔を摺り寄せてくるとかもう…気分は立派なオジさんですよ。

男なんて連れてきた日にはちゃぶ台引っくり返して娘はやらん!帰れ!と言っちゃう気分なんだよ。


「ミドウ様…!」


「…申し訳ない」


「はぁ~…」


俺とリリの間には重たい空気が漂っている。


そんな気まずい雰囲気に負けないのがハーピーだ。やっぱり鳥っぽいだけあって鳥頭なのか急に元気になり、今は上手く木々を避けながら俺の頭の上を能天気に飛んでいる。翼は少し大きいのでなんとも言えないが全身人間ならば150センチくらいの女の子だ。それほど大きくないから出来る芸当だろう。


現実逃避をしている場合ではなかった。


「よし、ここまでだ。おーい。ハーピーよー。ちょっと聞くことがある。きてくれー」


「ピェェ。ドうしタ?何デも答えルゾ!」


バサバサと翼をはためかせ下りて来たのだが背中から抱きつく形で両足と翼を後ろから絡ませガッチリホールドし、耳元で騒いでいる。


どうしてそんなところにくっついているんだ?ダイレクトに感触が伝わってきて落ち着かない。と言うか中華鍋を背負っていたのに何で肌の感触が?!


視線を動かすと卵の殻のように鍋を頭に被っている。


鍋の中に異物を入れるな!そして服を着ろ!


「とりあえず、汗臭いかも知れないが服を着てくれ…それと鍋を被るな!」


鍋を剥ぎ取りリリに持ってもらう。少し重いが背中に背負っておけば何かあったとき彼女を護る盾にもなるだろう。


服はコック服の下に着ているTシャツを脱ぎ、邪魔にならないように袖を破りノースリーブにするとハーピーの半裸から野郎の半裸へとシフトチェンジを果たした。何とか脱ぐことは出来てもハーピーが離れないので着る事が出来ない。誰が得するんだって?誰も得しないだろうな。


しかし首元から回された翼は俺の胸を巧妙に隠しており、さしずめフェザースーツと言ったところだろう。暖かくて滑らかでふわふわして…癖になってしまいそうだ…


だが、そんな俺の気も知らずに耳元で騒ぐ奴が居る。


「イい臭いダゾ。イいオスの臭いダ!」


「なっ!」


リリが目を見開いて恨めしそうにハーピーを睨み始めた。君達、いいオスの臭いだとかもう…やめて…


「とりあえずだ!ハーピーは住処に戻ってその女王に俺が行ってもいいか聞いてくれ。後木の実が生っている所と肉が狩れそうな所があるなら教えてほしい。忘れてた、お前達はいつも何食ってるんだ?」


「ンン?覚えラレなかっタ!もっトわかりやスく!」


この鳥頭め…出来の悪い子程可愛いと言うが、可愛いじゃねーかチクショウめ!


「お前、帰る。俺が料理作る事報告する。お前俺の臭い辿って来る」


「ワかっタ!」


「それに木の実と肉が取れる場所を教える。あと、何食ってるか教えてくれ。人数?もな」


「肉!場所ハ途中まデ一緒に行ク!群レは…ンー?20くらい?」


「そうか、なら宜しく頼むぞ?」


「マかせテ!」


そういって頭を俺の頬に摺り寄せる。位置が悪いので撫でないがグリグリと押し付けられる頭が頬を抉って痛い。


テンガロンからチラッと見たリリは鬼の形相でこちらを睨んでいる。怖すぎる…俺も地面に世界地図を描いてしまいそうだった。


それにスラ蔵さん。あなたとはここまでになりそうだ。達者で暮らせよ。


「じ、じゃあリリさん?そろそろ行こうか…?」


「なんで敬語なんです?」


顔は見てない。だがその威圧感は尋常ではない。俺は女の甲高い声のヒステリーが最高に嫌いだがたまに女性が醸し出すこの独特の雰囲気に飲まれると底無し沼に嵌ったように動けなくなってしまう。


あぁ…吐きそうだ…そしてハゲそうだ…


「はぁ…まぁいいです!」


「ため息ばっかりついてると幸せが逃げるぞ」


「誰のせいですか!」


「すみませんでした…」


余計な事を言ってしまった。思わず自然と墓穴を掘ってしまった。


ん?ハーピーよ。慰めようとしてくれるのはありがたいが羽をサワサワと動かして俺の胸部を刺激するのはやめろ。


「スラ蔵さん――いや、問題は解決はしてないからスライムさんか。俺はやる事ができた。もう君が食べられなくなるのは残念だが、縁があれば俺達はきっと良い関係を築ける。その時まで達者でな。次にあったらスライムさんの冒険譚が聴けるのを楽しみにしてるぞ?」


スライムさんは別れを惜しむようにプルンプルンと身を震わせている。


じっと見つめていると男は背中で語ると言わんばかりにゆっくりと去って行った。

どこが背中かはわからなかったが。


「よし、ハーピーよ。道案内頼むぞ?リリ、行こうか」


「はい」


「ピィィ!」


リリは妙に積極的だが基本は3歩後ろを歩く大和撫子のような淑やかさを持っている。しかしハーピーがガッチリ俺にくっ付いていて気になるのか、そっと俺の手を握ろうとしては翼に弾かれている。


なんでお前ら争っているんだよ。頼むから仲良くしてくれ。


「お前らなぁ…喧嘩するなよ…」


「し、していません」


「ピッ」


ハーピーに至っては言葉すら忘れたようだ。都合のいい奴め。


「はぁ…ほら、リリ。手を出して」


一瞬驚いてはいたがすぐに花が綻ぶような笑顔を浮かべ、手の一部をつまんだ。


こういうところは初心なんだよな…


「ピェェ!」


「なんだ?!」


「ズルい!ズルい!」


「何がだ?」


「手!」


「黙ってろ」


何かと思ったら。背中にくっ付いてるお前の方がリリからしたらズルいだろうに…本当にやめてくれ。


硬いパンでも千切るように俺の手の一部がものすごい力で抓りあげられてるんだぞ…


それからリリの怒りが収まるまでしばらくかかった。今では感覚がないくらいだ。


前門のリリ、後門のハーピー。俺は知っている。女の確執に生半可な気持ちで首を突っ込めばこちらが刈り取られると言う事を。


だから俺は心を無にし、淡々と歩き続けた。ハーピーがまだ指示を出していた方向に向かって淡々と、だ。


「で、ハーピー。だいぶ歩いているがまだかかるか?」


「…」


「おい」


「…ッピ」


「何拗ねてるんだ?お前、俺がいつまでも優しいと思うなよ?知ってるんだぞ。さっき俺にマーキングしただろ。腰が冷たくなってきたんだ…照り焼きにするぞ」


「ピィエッ」


「で、こっちでいいんだよな?」


「イいゾ!もウすグダ!」


疑っても仕方ないので黙って従う。リリはずっと黙って俺の手を抓っているがソナーでも使っているんだろうか?


「リリ、何かいるか?」


「はい。あちこちから大きな反応を感じます」


「そうか、それは期待できるな!」


「あの…私、何も出来なくてごめんなさい…」


「気にしなくていい。俺はリリみたいに広く探知が出来るわけじゃない。って事はリリは十分俺に出来ない事をしている。そして俺はリリに出来ない事をする。そうやって助け合って補い合うものだろう?」


彼女は呆けた顔をしてこちらを見た後すぐに俯いてしまった。何か気に入らなかったか?求められた回答探り当てるなんて高等技術は持ち合わせてないからな…


そんな状態でも手を放していないって事は怒っているわけではなさそうだが今はそっとしておこう。


手持ち無沙汰なので言葉を思い出したハーピーに気になっていたことを聞いてみることにする。


「ハーピーって木の実や果物は食べないのか?」


「おイしくなイ!タまにしかタべなイ!ソレに食べにくイ!」


「ふぅん…」


美味しくなくて食べ辛いから食べない、ね。確かに物を掴む器官は足くらいだからな。でも毒性がなく食べられるってんなら十分だ!


喰わせてやるぜ…腹いっぱいな!

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