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戦料理人は異世界も喰らう  作者: 世見人白洲
第一章 森の暮らし
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第五話 腹と心の杯に

あまり物語は進みません。

昨晩も俺とリリは寄り添って眠り、彼女は早く目を覚まし俺の眺めていたようだ。

そんな事をして楽しいのかは甚だ疑問だ。


「お、おはよう」


「おはようございます。ふふっ」


彼女の笑い方はなんだか上品だ。などと多少の現実逃避をしながら朝の挨拶を交わした。


慣れているので眠れない事はなかったがやはり硬い土の上で一晩明かすと体がパキパキと音を鳴らす。


「あぁ~…リリは体痛くならないのか?」


「慣れていますので」


この生活が長いと言うことなのか、それともベッドで眠った事がないのかはわからない。


「そうか…まぁこれから街に向かい冒険者となって食材を探す。話してはいなかったが俺は一応、店を構えていたんだが理由(ワケ)あって今は風来坊だ。街の感じが気に入ればそこに拠点を構え、料理店にかかわらず何かしらの店を開きたいとは思っている。リリはそこの所どう思う?」


「私は獣人ですので、街ではミドウ様の奴隷として振舞うことになると思います。そこに自由意思は必要ありませんし、私はミドウ様と共にあれれば何も問題はありません」


「んー…確かに体裁と言うのは必要だろう。言っている事もわかる。だが俺の出身国にはそういった文化はないし、何より意思が無いのはいただけない。必ずそうしろとは言わないが自らが望み、求めなければ見えてこないこともある。世界を変えてやるとは言わないが、俺の目指しているところはわかるだろう?」


「理解しております…一応、努力はしてみますが…」


「ならいいんだ。徐々に慣らしていこう。どこに目があってどんな話が流れるかはわからない。だが、気にする事はない。少なくとも俺は気にしないし、食べれれば生きれるんだ。そしてその技術を持っている。逃げる事は悪い事じゃないさ」


そう、嫌なら逃げても構わない。好き好んで逃げようとは思わないし、解決するために努力はするがその為に大切な人達を巻き込む事になるくらいなら俺は逃げて逃げて逃げ通すだろう。


死ぬ時ってのは空腹や、その為に戦う力もなくなり一方的な暴力を受けるのが原因なのだから。


「はい…」


「朝から湿っぽい話になっちゃったな、悪い。街に着いたら金を稼いで調味料を手に入れたら美味しいものを作ってやるからな?楽しみにしておけよ。はははっ」


無意識に彼女の頭をポンポンと軽く叩き撫でながら少しでも元気が出るようにと笑ってやった。


少しだけキツイ事を言われて緊張していたリリは顔を伏せており洞窟内の薄暗さも相まって表情は読めなかった。


「それじゃ、準備始めようか?」


「はい。楽しみですね」


お互い気持ちの切り替えは早いほうなのだろう。

サッと立ち上がると戦闘衣装(コック服)を身に纏い鍋や包丁を装備する。


リリの方は急な話だったからかバタバタと忙しなく部屋を行き来しているので少し時間がかかるだろう。

まだ朝早いので時間はある。準備が整うまでに水の確保をしに行っておこう。


「リリー!急な話だからちょっと川まで水を汲みに行って来たいんだが何か入れ物ってあるか?」


「ごめんなさいミドウ様!私が使っていた水入れであれば三つほど在庫がありますが宜しいですか?」


「あぁ、十分だ。ありがとう。それほど時間を掛けるつもりはないが焦らなくてもいいからな」


リリに渡された水入れは皮で出来た袋のようになっており三つもあれば街に着くまでにしたら十分過ぎる量を確保できるだろう。


「行ってくる」


「はい、お気をつけて。いってらっしゃいませ」


新婚夫婦のようなやり取りを行い洞窟を出ると朝露に濡れる草木の香りが心地良い。


既に川への道程は覚えているので木々の合間を縫って川へ向かった。


「相変わらず澄んだ川だな。うん、美味しい!」


話し込んだり肉を食べたりはしている間水分をまったく取っていなかったので意思の力で捻じ伏せようと体は正直に水を求めていたのだろう。一瞬で沁み込むように体に行き渡る。


「あぁ~うんまい…」


これは人を駄目にする水だ!油断すべきではない!


皮袋を沈めて袋いっぱいに水を補充する。

リリは血で水分を摂れるとは言っていたがやはり美味しいものは共有したい気持ちが強い。


どんな顔をするだろうか?洞窟に住んでいたなら既に飲んでいる可能性もある。過度な期待はすべきではないだろう。唯でさえ主従のような態度を取られているのだ、プレッシャーにならないとも限らない。


そんな事を考えていると三つの皮袋はたっぷりと水を溜め込んでいた。


「よし、そろそろ戻るか。襲撃は…なさそうだな」


決してフラグではない。来るなよ?来るなよ?来たあああ!と言った事は結局ないまま洞窟まで平和な道のりが続いた。


「ただいまー帰ったぞ」


「おかえりなさいませ!申し訳ありません、もう少しだけお時間をください!」


「焦らなくてもいいぞー怪我しないようにな」


「ありがとうございます!急ぎますので!」


リリに道案内を頼む形になるので彼女次第なのは確かなのだが焦るなと言ってもそれは無理な話だと言うことはわかっていた。


手持ち無沙汰なので動き回るリリを眺めていると駆け寄ってきた。


「どうした?」


「お待たせして申し訳ありません。準備できました」


「そうか。荷物とか、大丈夫か?」


「持っていけないものなどは埋めておきました。特に大切なものもありませんので」


そんなものか?まぁ彼女の言を信じる以外にないだろう。大切なものがないのならこれから作ればいい。


「じゃ、行こうか。申し訳ないが道案内頼めるか?」


「お任せください」


「何か出てきたらリリの事は俺が護ろう。あ、そうだ腹は減ってないか?」


「昨晩も、その…ミドウ様の血を分けていただきましたので…」


「そ、そうか。ならいいんだが腹が減ったら遠慮するなの?道すがら食材になりそうなものがあったら悪いが少し道草を食うかも知れないがそこは勘弁してほしい」


「わかりました。宜しくお願い致します」


「あぁ。こちらこそ、宜しくお願いする。さ、俺達の始まりだ。行こうか?」


知らない事を知る為に行動する時はいつも新鮮で、子供のようにはしゃいでしまう。

無意識にリリへと差し出していた手に彼女は細く、しなやかな指を絡めた。


「はい、私の心はミドウ様と共にある為に」


「ならば俺はリリの心と腹を満たす為に」


交わされた誓いの言葉は二人を結びつけた始まりの地へと静かに沁み込んでいった。

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