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戦料理人は異世界も喰らう  作者: 世見人白洲
第一章 森の暮らし
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第四十四話 朝食と目覚めの一撃

街で過ごすぜと言いながら事ある毎に森へと帰還する俺は既に通い妻状態だ。

実際料理しに来ているのだからおかしい所は無い。無いのだが…


目を覚ますと相変わらず天然羽毛に囲まれ、ピィピィと可愛い寝息を立てるハーピー達。

リリは相変わらず早起きと言うか寝ていないのか、こちらをじっと見つめていた。


「おはよう、リリ。どうした?」


「リエラさんの事聞きました…」


「あぁ、そうか…俺から言うべきだったのに、申し訳ない」


「いえ、いいんです」


そう言って目を伏せた彼女はどこか少し寂しそうだった。

最近はやりたい事が出来たのかと思ってあまり干渉しなかったがそれが裏目に出てしまったようだ。


騒がしくなったが朝のこの時間だけはリリと俺くらいしか起きていない、二人だけの時間だと言えるだろう。


繊細なリリの体を壊れないように優しく抱き締めると迎え入れるように抱き返してくる。


「ふふっ。ミドウ様…アレ、してもいいですか?」


「腹減ってるのか?」


「いえ、その…こうしてると欲しくなると言いますか…」


「最近は余りしてなかったもんな」


これはヤラしい意味合いの事ではない。抱き合った状態で首筋をくいっと見せればそこに小さな唇を当てて舐めている。

最初に会ったときは弱っており、皮膚を貫く事が出来なかったようだが今のリリは十分健康体であり、どこからでも血を吸える。

しかし腕や指は余り好きではないのか、それとも甘えているだけなのか、リリのお気に入りは抱き合った状態からの首筋吸血だと言う事を最近知った。

この行為の意味を深くは聞いた事は無いが…まぁまだ十三歳だ。この世界では大人とは言っても俺からしたらまだ子供。十分に甘えてもらいたいものだ。


「んっ…はぁ…ちゅっ…」


ぴちゃぴちゃと湿った音をさせながら貪るように首を舐められる何とも言えない背徳感が背筋を奮わせる。

痛みがなくていいのだが舌の動きは繊細で、チロチロと首を舐めるのだ。

他の人にやっている所を見た事は無いがする事はあるのだろうか?


「なぁリリさんや。他の人にもこう言う事はするのか?」


純粋な疑問だった。


「んはぁっ…え?しませんよ?ミドウ様だけです…ふふっ」


他の人にはするな、と言う意味や嫉妬などではなかったのだが、そう取られてもおかしくはない聞き方だったようだ。

まるで貴方一筋ですよと言わんばかりに優しい声音でそう伝えられてしまった。


しばらくリリと熱い抱擁を交わし、満足した頃に皆が起き始める。

恐らくリリはしっかりとその辺の管理をしていて起きてくるギリギリの所まで楽しんでいる節があり、よく人を見ている子だと関心する。


「皆おはよう」


寝ぼけ眼を擦りながらおはよーと返事が帰ってくる事に胸がじわりと熱を持つ。

家族ってのは、良いものだ…


目が覚めるとクーはどこかへ少しだけ向かい、戻ってくると卵を抱えている。元気が有り余っているのか?


いつものように、これ今日のお弁とさん~っと言って卵を渡してくるのだが、ここに居るのに弁当も何も無い。

俺はそれを使って木の実と肉のオムライスを作る事にした。


本来ならば米を使うが、オムライスの閉じ卵は熱や香りを閉じ込める蓋の役割の意味があるが香ばしい木の実と肉のジューシーさを閉じ込めるのにもこれは使える技術だ。


「リリ、手伝ってくれるか?」


「はいっ!」


「アタシも手伝う!」


黒い弾丸に仕事をさせるエビちゃんは基本的に暇だ。

お呼びじゃなかったのだが子供が出来たら餃子を一緒に作るってのは浪漫がある…折角なので一緒に作るのも悪くはない。


「よし、じゃあ手伝ってもらおうか」


お願いしたのは木の実の殻を剥く事だったのだが…


「エビちゃん。硬いからって癇癪起こして尻の針で粉砕するな!食べ物を粗末にするやつはオシオキするぞ?」


「ごめんなさ~い!」


「リリ、申し訳ないが…」


「はい、任せてください」


こういうとき頼りになるのがリリお母さんだ。いつの間にか母娘のようになっており関係は良好すぎる程。こうやってやりましょうね~と優しく教えて導いている姿はまさにマザー。いい嫁さんになるよ、ホント。


そんな微笑ましい光景を目の端に捉えながら狼の筋肉を叩いて解した後にさっとボイルして柔らかくする。


どんぐりのような木の実から栗やナッツのようなものまでハーピー達が拾ってきてくれるのでそれを使わせてもらい、軽く炒めて塩と胡椒をちょっとだけ振って香辛料の味は弱め。


なぜかって?ここにはエビちゃんがいるんだぜ?

カモン!黒い弾丸達!


「エビちゃん、蜂蜜貰えるか?」


「いいよ!」


俺は全くわからないがエビちゃんが可愛い蜂尻をふりふりと振る。フェロモンを出しているのだろうか?

誘っているようにしか見えない。他の人の前でやっちゃダメだぞ?


するとどうやっているのか、足にお団子状にした透き通る黄金色の蜜を付けているデスビー改め働くお父さん軍団が音も無くやってくる。


クルクルとエビちゃんの周囲を飛び回り、その足に付いたお団子蜜をエビちゃんが両手で丁寧に包むように取ると器に移していく。


「これでいい?」


「十分だ、ありがとうな」


「えへへ~褒められちゃった!」


やったね、とその頭を撫でるリリは母性に溢れている。

相手は冒険者が恐れ慄くらしいデスビーの親玉なのにも関わらず、一介の少女と仲睦まじく生活している姿を見たらどう思うだろうか?俺は幸せな光景だと思っている。


二人の姿にほっこりしながら最後に卵を焼き、トロトロ卵にしたら木の実と肉を盛った皿に被せていき、最後の仕上げに蜂蜜をかければ完成だ。


皆はいつも料理している姿をじっと見つめているが、完成に近づくと一瞬で席に移動し、腹を鳴らす。

俺はこの瞬間がたまらなく好きだ。


皆が席に座っているのを確認するといつもの挨拶をする。


「食べるぞ!」


声を掛ければ凄い速度で料理が無くなっていくのだが女性ばかりな事もあり食べ方は上品だ。


俺も席に着けば横からすっと料理が差し出された。


リリだ。


「どうした?」


「ミドウ様、あーん」


「は?」


一体どこから知識を得てきたのか。どいつがこんな事をと思って視線を巡らすと姫様の取り巻きであるアラクネ女中達が何やら盛り上がっている…あいつらか…

どこの世界でも何かに仕える女性ってのは好きだよなぁ。


俺は仕方なく差し出された料理を口に咥えた。


弾けるナッツの香ばしい風味が鼻を突き抜け、ピリッとした香辛料がいいアクセントになっている。

そしてやはりデスビーの蜜とハーピーの卵は極上だ。芳醇な風味を持つ卵に、甘すぎず、ふわりと鼻腔をくすぐる香りを放つ蜜が良く絡む。

卵が口の中で舟の役割を果たし、ねっとりとした蜜を喉奥まで届けていく。


「うっま…」


我ながらいい出来だ。

ふとリリを見遣るとリリは俺が咥えたスプーンを見てブツブツと何かを言っている。

パックリ咥えず、料理だけを吸い取るべきだったか…?


「あー…申し訳ないな。嫌だったよな。洗ってくるから貸してくれ」


スプーンへと手を伸ばしたのだがリリはひょいと避けてしまった。


「い、いえ。大丈夫です。これがいいです!」


何がいいのかわからないが本人がいいと言うのならいいかと思い、料理を堪能した。

リリは興奮しながらスプーンにしゃぶりついていたが彼女の尊厳の為にもそれは見なかったことにしよう…深い闇を見た瞬間だった。


食事が終わるとそれぞれが顔を洗って身を整えるて思い思いの一日を過ごし始める。

ハーピーは狩りと昼寝、ミラ達と姫様達はリリと共に服を作り、エビちゃんはせっせと洞窟内に巣を拵え、将軍は…将軍は?


「そう言えば将軍ってどこに?」


「ここだ、我が王」


どこだ?

辺りを探し回ると部屋の片隅にガラクタの如くほっぽり出されていたシャレコウベを見つけ出すことができた。


「なんていうか…」


「言わないで…」


簡単に洗ってやりながらごめんな?と謝っておく。

どうしてあのような場所に居たのかを聞くと、そこにエロ爺が埋められているからだと回答が戻ってきた。


「まだ芽を出さないんだな」


「あれは魔力を吸って成長する魔物だからな」


魔力か。残念ながら俺の魔力は申し訳程度にもならない。


「そうか。どれくらい掛かるんだろうな」


「この場所は様々な魔物が集まっている故、早いぞ?ほれ、もう芽が出ておるだろう?」


あれ?さっきまで芽なんて出ていなかったと思うが…?


「なぁ、成長早くない?」


「十分魔力が溜まったと言う事だろう。すぐにでも大木になるはずだ」


流石はファンタジーだと感心していると某○バスが出てくるような物語の早さで木がぐんぐんと伸びて行き、天井を破壊した。

成長速度もそうだが…問題はそこではない。


「人様の家を破壊するんじゃねぇ!」


そう、ここはクー達の住まい。そして俺は居候。そしてそれ以外も居候。

俺は全力で駆け出し、そして目いっぱい引いた目覚めの一撃を大木に叩きこんだ。

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