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戦料理人は異世界も喰らう  作者: 世見人白洲
第一章 森の暮らし
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第四十一話 狩られる時間だ

あれから俺は必死にスカウトをする王妃の猛攻をかわし、卑劣な上目遣いで懇願してくる王女を可愛がり、押し倒さんばかりに殺到したメイドさんを宥め、延々と喋っていたセバスさんに適当に相槌を打ち続けた。


恐らく深夜と言っても過言ではない時間に店は閉店し、まぁあんな王族ならこの国も悪くならないかと思いながら案内された部屋で夜を明かした。


朝の支度を簡単に済ますと見計らったようにメイドさんたちが入室し、直食を昨日と同じ顔ぶれで食べ終わる際に暖かいものが食べたくなったらこっそりと店に来いと伝えておいた。


「ふむ、ミドウよ。我が城に使える気は…?」


「変わらないですね」


「そうか…」


「まぁそんなに気に入ってくれたなら料理人としては嬉しい事なのでそのうち面白いものを作ったら差し入れにきますよ」


「ミドウ君?!それはマズイよ!ちゃんとしたものでね?ね?」


俺は一発エイルにブチ込んだ。


なんて失礼な奴なのだろうか。俺はちゃんと食べれるかを身を以って確かめている。


ちゃんとした物以外人に食べさせるつもりはない。エイルは俺と同じ冒険野郎だと信じているので例外なだけだ。


うげぇと未だ呻くエイルの襟を掴み、店を構えれたらまた報告に来ますよ、簡単に城に入れてもらえるかはわかりませんが。と社交辞令を折り混ぜたがエイルに伝えれば王に報告すると親しげに話していた。


そういえばエイルはたまに来るって言っていたし、仲良さげに王と話をしているので友達なのかも知れないな。


城を後にするとセバスさんと昨晩のメイドさんたちが総出で見送ってくれた。またデザートを作ったら持ってこよう。メイドさん達はかなり美味しそうに食べてくれるので失礼な話だが餌付けをしているみたいでハピ子達ハーピーを思い出してほっこり出来るのだ。


人の暖かさを知り、失って傷つき、傷つくのが嫌で求めるのをやめたが…やっぱり知ると、な…とまだ一晩だと言うのにもう寂しくなっている事実に俺は自嘲した。


まったく軟弱ものめ、と自戒しているとエイルが今日の予定を聞いてきた。


「ミドウ君はこれからどうするの?」


「そうだなぁ。街の外で寝泊りしながら面白そうな食材を探してみようと思ってる」


「えっ?それって森で暮らしてたのと変わらなくないですか?」


「それもそうだな、ははは!でも森以外でも魔物は出るんだろ?それに野生の生き物がいればその味も確かめたいし」


「勿論倒した魔物の素材は―」


「残るわけないだろ?全部喰うよ」


「だよねー」


「ふふっ相変わらずですね」


ギルドまで来ると楽しかったぞ、またなと二人と別れ―られなかった。


「私は現刻を以って冒険者に復帰します。と言う事でミドウさん!パーティー組みましょう!」


ふんっ!と鼻息荒くリエラ嬢は高らかに宣言した。


「いや、受付嬢だろ?仕事どうするんだよ」


「おと…ギルドマスターの許可は得ております!」


「そうか、じゃあ頑張れよ」


「えっ!なんでですか!仲良くしましょうよー今までしてたじゃないですか!」


「いや、二人は俺達の住処に来たお客さんだったからだぞ。俺は魔物を買ってその素材を積極的に売って金にする予定もないしな。宿代くらいは売るかも知れないが。そんな奴とパーティー組むメリットって何だ?俺の監視か?ならば失せろ。俺がまだ二人を友だと認識して我慢してるうちにな」


公私混同はしない。プライベートでご飯を食べたり出かけたりするが冒険者として行動を共にして何かをすると言うのならば話は別だ。


エイルの許可と言うのも恐らく皆の戦力を恐れて俺を見張るための方便の可能性だってある。


料理と言うのは同じ厨房の人間であれば見て盗んだり食べて考えたりしてより美味しくして行こうと技術を盗む事はあるので何も言わない。それは料理に対して真摯な行動だからだ。だが商売として来店し、店の料理を味わうのではなく盗む為にきたやつは出入り禁止ものだ。


それと同じで友や他の思いがあって行動をしたいならまだしも、他の意図を抱える人間に背中を任せるつもりはない。何かあったときそいつを恨みたくもないしな。

だから俺はそんな微妙な立場のリエラ嬢の申し出を快諾しない。


「なんで、私じゃ駄目なんですか…私が、ハーフエルフだからですか…」


「おい、こんなところで言うな。そんなことじゃない」


ハーフエルフってのは良い顔をされないんだろ?俺とリエラ嬢がいるのは殆どギルドの前だ。中でなかったのは救いなのだがどこで誰が聞いて居るとも知れないのに、小声であったとは言え危険な行為だ。


「だって…じゃあなんで…」


なんでどうして?と子供のように繰り返すだけのリエラ嬢に俺は少し困惑した。


何故それほどまで俺と行動を共にしたがるのか、考えれば考えるほど嫌な考えばかりが頭を過ぎる。


俺は基本的に懐疑的だ。リリやクーは…なんでだろうな。やはり凄まじい直接的なアプローチを受けたり魔物と言う野生的な生命の根源に疑う余地がなかったからすんなりと信用できたのかも知れない。


だが、この子は結構抜けている所があるようなのでそんな事は考えていないのかも知れないが…説明するしかないと諦めて俺の考えを伝えた。


「じゃあ…私が何を考えてるかわからないから駄目なんですか?」


「まぁそんな所だな」


「じゃあ…これでも?」


そういってふわりと舞ったようにリエラ嬢は首に手を回し、その薄く綺麗な唇を重ねた。


突然の行動に息が止まる。

俺は思わず変な声を上げ、肩を掴んで引き離した。


「うわっぷ!な、何するんだ!そう言うのは大事な人にしろ!」


「こ、ここまでさせて…まだ、わかりませんか…?」


俯いたリエラ嬢は小さな肩を震わせ、その覚悟を見せた。


目の端に映るギルドの扉から半分ほど顔を出し、服を食いちぎらんばかりに食いしばり鬼の形相でこちらを見つめるエイル。


断れば殺す、でも承諾しても殺す。その目はそう雄弁に物語っていた。


俺はどうしたものだろうか。

思わず溜息が出る。


リリは成り行きだったとは言え命を救い、俺の安請け合いが彼女の心を救ったのはあの甘い夜に聞いた。

クー達は他の魔物娘さんたちは本能に忠実だ。強い種、美味い飯。


だがリエラ嬢は何がそうさせたのだろうか。


「一つ、聞いてもいいか?」


「なん…でしょうか…?」


「なんで俺なんだ?」


恋愛上級者なら愚策、と一笑に付すだろう。


だが俺は聞かなくてはならない。

リリ一人どころか俺は抱えすぎているとわかっている。なのにここでリエラ嬢を抱えられるのだろうかと言う不安が俺を圧し潰しかけている。


「一つは、私を私のまま受け入れてくれるからです。もう一つは…その…リリさんから話を聞いて…」


「話?どの話だ?」


「心も満たしてやるって…私は憧れたんです。まるで物語の王子様みたいじゃないですか?実際、私はミドウさんと一緒に居て、とても楽しくて満たされてました。今まではその…バレるんじゃないかと…」


「あぁ…」


リリさんよ、恥ずかしいから人に話さないでくれよ…

しかしまぁ、リエラ嬢の言う事は理解できた。


彼女は俺に近い。この世界に来てからではなく、元の世界での俺に。


彼女は求めても他者から、俺はまた失うのが怖くて自分から世界から離れた。


それを得られる可能性が目の前にある。手を伸ばし掴まなければ得られないなら伸ばすのは当然だ。


ならば俺はどうする。見捨てるのか?いいや、それは無理だ…まったく知らない相手ならまだしも俺は彼女を知っている。それを見捨てる事はできないな…


「どこまで出来るかわからないぞ?それでもいいのか?」


「一緒に居られるなら!」


「そうか…わかった。でも、一つだけ確認だ」


「はい!なんでも答えます!」


「俺はリエラ嬢…いや、リエラを残して先に逝くかも知れないがそれでも良いのか?」


「大丈夫、とは言えません…でも、子供が居れば問題ないですよね?」


そう言って俺を射抜いた瞳は、獲物を前に弓を構えたハンターそのものだった。

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