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戦料理人は異世界も喰らう  作者: 世見人白洲
第一章 森の暮らし
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第三十五話 仲良くなる為の吊橋効果

白ずんだ空がひっかりと世界を照らし始めた頃に俺達は準備を終え、住処を目指して歩き始めた。


静かな森の中を揺らす雑踏は地を鳴らし空を響かせ、脇に抱えた将軍は楽しそうに笑っている。


「これ、どう見ても軍隊だよな」


「がっはははは!面白い事を申しますな!まさに軍であります!」


「ははは…ミドウ君。戦争を仕掛けるなんてやめてくれよ?絶対だよ?」


「私はどうしたら…」


「童達は御前様の為に!」


「ミーちゃんすごい!カッコイイ!」


おかしいな…俺は料理人で、戦争屋ではないはずなんだが一同はそれぞれ勝手な事を言って笑い、怯え、感動に震えている。そしてありがとうエビちゃん、君がこのメンバー最後の良心だよ。


そんなエビちゃんを肩車し、テンガロンハットを奪われて晒されている髪を触覚のように引っ張られながら森を行軍する。


クーには既に念話を入れ、崖上で待機していると返事を貰った。


しばらく皆で騒がしく歩いていると森の切れ目まで辿り着いく。

その視線の先、地面が切れる少し手前にはハーピークイーンのクーとハピ子、その他数名のハーピーが待機している。


「待ったか?」


「いえ~今来たところですよ~?それにしてもすごい大人数ですねぇ…運ぶのが大変そうです~」


待たせちゃってごめんね!待った?いや、今来たところだよ。いや~ん紳士!の逆だ。

クーさんごめんなさい。絶対待ってたよね?言葉に棘があるものね、クーにあるのは羽だけど。


ちらりとクーは俺越しに視線を移した。


それはそうだろう、1000はいるのだから。

だがそこの所は将軍と既に打ち合わせを済ませてある、抜かりはない。


「将軍!」


「合点!整列!橋を架けろ!」


往年の夫婦のように息のあったやり取りをすると、将軍は号令を出した。


カタカタと部下達は骨を鳴らし、体を分解するとそれを一つのアーチとしていく。


「壮観だな」


「そうでございましょう!」


がははと笑う将軍はとても誇らしげにしている。


淀みなく組まれていく人骨橋を見れば、その練度の高さは容易に想像できる。

生前やアンデッドになってやっていたと言うわけではない。互いが互いを信頼し、その背を預け、行動する。簡単なようで他者を信じると言う事は非常に難しい。それを苦もなくこなす事がだ。


数分もかからないうちに橋は完成し、中層と浅層の崖に純白の橋が架かる。

橋と言っても螺旋階段のようになっており、ただただ高い崖をグルグル回るだけなのだ。


しかし、降りている途中で崩れてしまえば元も子もないので強度の確認のために軽く踏み込んで見るがびくともしない。なかなかいい橋だ。人格がある?骨格がある骨の階段だとは思えない強度なのだが生者を呪う怨嗟の声が響いている。


「ぐぅえええ!いってぇえええ!」


「ぎゃあああああ!」


「折れる!折れるううううう!」


皆かなり頑張って架けてくれているみたいだ…

ちょっと力をいれて踏み込んでしまって申し訳ない気分になる。


すると将軍はそんな姿を軟弱と受け取ったのか橋骸骨を叱責した。


「こんの軟弱スケルトンどもめがぁ!貴様らぁ!降りたら鍛錬のやりなおしだ!」


怨嗟の声は一瞬にして静まり、代わりに涙ぐんだ声が聞こえてきた。


なんだか、部下の人達が不憫でならない。だが心配しなくてもいい、将軍の体は俺が粉々に粉砕しているから君達の訓練をしようにも頭だけしかない。皆で囲んで叩くのは戦術の基本だろう?


心の中で橋達に念仏を唱えながら皆と降りる。


「そうだ、ハピ子。今日からお前の妹?になるエビちゃんだ、仲良くしてくれ」


ハピ子は自分の特等席を奪われて不満そうにしていたが魔物同士の勘なのか、エビちゃんに襲い掛かる事はせず、ずっと様子を窺っているので宜しくやってくれと伝えることにした。


妹が出来てハピ子はハッピー、エビちゃんもお姉ちゃんが出来てエッビーだろ?

大所帯になったけど、皆仲良くな?仲が悪いより良い方が一緒に飯を食ったとき幸せになれるからな。


そんな期待を込めて、見た目だけなら姉妹のような二人に声を掛けたのだがその反応は予想していたものとはちょっと違ってしまった。


「ピィ!ミドーがいい!」


「アタシがおねーちゃんなの!」


「俺はどちらかと言えばお兄ちゃんだろ」


「ピッ!ミドー!ミドー!」


「ミーちゃんはアタシの夫なの!」


何から突っ込めばいいのか、ハピ子は俺の名前を連呼し、エビちゃんはどうしても俺を旦那にしたがり、クーはそれを見て楽しそうに笑い、姫様達は鬼の形相でやり取りを見ている。


エイルとリエラ嬢は強すぎる魔物娘達が怖いのか気配を消して空気と同化しているので俺は知らない。

それが優しさってものだ。


俺は諦め階段を降りる事に専念したのだが、なにぶん崖がかなり高いので下るのも時間がかかってしまう。


そこで俺は仲良くなれるアトラクションを思いついた。


「なぁ将軍。ちょっと提案があるんだが、いいか?」


「何でもお申し付け下さい。我が王よ」


んじゃあ…ごにょごにょと話すとそれは面白い!と将軍も食いついてきた。


俺が考えたのは滑り台。それもめちゃくちゃ長いやつだ。


だがいきなり骨スライダーにしてしまって怪我をしてしまってはいけないのでちゃんとくっ付く様に伝えておこう。


「クー、ハピ子、エビちゃんと姫達もよく聞いてくれ。これから面白い事が起きる。でも一応安全面を考えて俺かエイルに捉まってくれ」


そういうとエイルそっちのけで皆は俺に捉まり、団子のようになってしまった。しかもリエラ嬢までちゃっかり俺に捉まってるのは何故だ?エイルが泣きそうになってるじゃないか、そこんとこ頼むよ?こんな中年のお守りまで出来ないよ…


背中、腕、肩、腰と全身に皆が捉まり体が大きな姫が俺を抱えその三歩後ろにアラクネ達が控え、エイルは最後尾で物欲しそうな顔をして指を咥えている。

娘の前で情けない顔をするな!それでも男か!


だがいつまでも彼の情けない顔を見たくないので俺はそっと将軍に骨伝導した。


「行きますぞ、我が王」


「あぁ、やってくれ」


将軍がやれ!と号令を掛けるとカコッと小気味良い音を立てて骨は摩擦を失った。


「ひょおおおお!」


「ぎゃああああ!」


「ピェエエエエ!」


「すごいです~」


「うわあああん!」


「ああああああ!」


凄まじいスピードで加速する滑り台はあっという間に崖の中ほどを越え、直ぐにでも地面へと到着しそうだ。


「しまった、将軍!地上の方を上に向けて射出口のようにしてくれ!地面に激突する!」


「合点!」


様々な声を上げ、底の方の骨が上向きに組み替えられるのが見て取れた。


しまった。減速方法を考えてなかった。

いや…姫様達の糸を使えば何とかなるか?


俺を抱える姫様にどこかに粘糸を使って減速出来ないかを確認すると出来る言うのでお願いした。


「そろそろだ。姫様、頼んだ!」


「お任せください!」


そういって勢い良く上向きになった滑り台の最後に進入した。


「ぐぇえええ!」


そう、粘糸はかなり伸びる、それはもうゴムのように。


おかげで俺はぐいっと伸ばされ、そして壁に吹き飛ばされた。だが痛くはなかった。


轟音を響かせ、崖の一部を叩き割ったその背中には潰されたエイルがいたからだ。


「なんか、ごめんな?」


「ミドウ君、酷くない…?」


それを最後にエイルは気を失った。


だが、俺達の中にエイルを気に掛ける子はリエラ嬢以外いないし、当のリエラ嬢もエイルの事より超危険なアトラクションに興奮していた。


「すっごい楽しいー!」


「ピィー!」


「すごいわ!もう漏らしちゃうかと思っちゃった!」


「流石は御前様!考える事が違います!」


「楽しかったです~」


俺の頑丈さを知っている彼女達は俺もエイルも気にせず、仲の良い姉妹のようにはしゃいでいた。


目論見は成功したが…


「我が王よ…我輩の頭で泣いてもよいのですぞ?」


「うるさい」

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