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戦料理人は異世界も喰らう  作者: 世見人白洲
第一章 森の暮らし
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第三十四話 そんなガラじゃない

サムいジョーク成分があります。苦手な方はご覚悟ください。

それから俺は将軍の頭の髄が溶けないギリギリまで鍋で煮詰め、手間暇かけて灰汁を取るとそこには澄み渡る夕日を落としたような透明感を湛えた見事な黄金色のスープが出来ていた。


味見にぺろっと舐めたのだが地中に埋まっていたからか、大地の旨味をぎゅっと濃縮したような旨味があった。


様々な野菜を煮込み、溶け込ませたような複雑怪奇な味はシャープでエッジを効かせた挑戦的且つ斬新なブイヨンスープ。味を調える必要のない塩分は汗じゃないことを祈るばかりだ。


そしてこれは一つの料理として完成しているので俺が手を加える必要はないが、あえて手を加えるとするならばオークグラップラーのスネ肉をじっくり焼いたシュヴァイネハクセと言う料理と一緒に喰らいつきたい。


準備が整ったので何か掬うものはないかと周りを探しているとエイルが戦闘で折れた木を使ってちゃちゃっとスプーンを拵えてくれた。そういえば役に立たないから忘れていたがエイルは俺の屋台の材料を探しに来たんだった。

すっかりそっちの目的を忘れていたじゃないか。まぁエロ爺が育ったらそれを使わせてもらおう。


「ボクも役に立つだろう?」


「あ、うん…Sランク冒険者なのにそれでいいのかって思うけどな」


「ぐぼぁ!」


エイルは突然吐血し、ピクピクと地面をのた打ち回っている。デスビーの毒でも舐めたのか?やめておけ、俺もエビちゃんにぶっといお注射を刺されたが常人にはキツイぞ?


とりあえずエイルが壊れる前に全員分のスプーンを作ってくれていたので姫達やエビちゃんに渡しておく。


そして何故か取り出した将軍の頭も金色に輝いているのは気のせいか?

きっと焚き火に照らされているせいだろう…


「よし、皆待たせたな。お待ちかねの実食だ。これは美味しいぞ!デモニックスープとは訳が違う!」


「「「「「……」」」」」


「これはちゃんと味見している!問題はない!」


「「「「「そういう問題では…」」」」」


スライムを齧った時もそうだったが皆選り好みしてちゃ強くなれないぞ?まったく。


「まぁいらないなら食べなくてもいいさ」


「そういうわけではありませぬ!童達アラクネの愛はこの程度の試練…!」


「あー!ズルイー!」


「はぁはぁ…大丈夫大丈夫…!はぁはぁ…!お母さん、私に力を…!」


「リエラ、ボクがアンデッドになったら優しく浄化しておくれよ?」


ただの美味しいスープなのに試練などと言う姫様達に荒い呼吸を繰り返し力んでいるリエラ嬢、死を覚悟したエイル。エビちゃんは素直でいい子だ。


俺がスープを突き始めるとエビちゃんが続き、姫達やエイルにリエラ嬢とスープを口に運んだ。


皆は一様に驚き、その複雑かつ洗練されたスープに舌鼓を打ち始めた。


真っ暗な夜が降り、星々が瞬く空の下焚き火を囲む。

興が乗れば誰かが己の冒険譚を語り、エイルはエルフの森を飛び出し恋に落ちた恋愛譚、アラクネ達は姫様のお転婆話を肴に、エビちゃんは相変わらず働き蜂ならぬ働き父の自慢話をする。俺の求めたものが一つ、ここにある。


「ぬぅん…我輩も仲間に入れて欲しいぞ…カモン!我が部下達よ!」


そこはサモンじゃないのか?と思うが純正のスケルトンではない将軍には魔石が存在しない。していたら既に消滅しているらしい。


将軍の生前の部下達だろう、ボコっと土の中から片腕を伸ばし、地面から這い出てきた。先ほどまでは木々しかなかったのに今は見渡す限りの骨、ホネ、ほね。


「呼びすぎだろ!どれくらいいるんだよ!」


「うーむ…わからん。1000はいるのではないか?」


「え?どうするの?俺達の住処はそんなに入らないから来てもらっても困るし、さっきの話はなかったことに…」


「待って待って!謝るから!調子に乗った事謝りますから!」


「でも呼び出しちゃったでしょ?自分を慕って呼びかけに応えてくれたのに見捨てるの?」


「それをお主が言う?」


「言う。現実は厳しいからな」


ぐぬぅ!と唸ってもどうしようもない。なんだかんだと俺も居候なのだ。


「な、ならば!我らは腕の立つ数名を残して有事の際まで地中で眠ろう!それならどうだ?」


桜の木の下には死体が…て?なかなか風情があるな。よし、決まりだ。


「お、いいね。それが出来るなら大丈夫だ!」


「ふぅ…危ない危ない」


それからは久々に表にでた喜びで焚き火を囲んで踊りまわる死者の祭典。百鬼夜行が繰り広げられた。


誰が早かったか、恐らくエビちゃんが最初におねむになり、後はバタバタと寝入っていったのだが目を開ければ土を覆い隠す程の白骨死体が森を白く埋めている。


「きゃあああ!」


ギルドの職員である彼女は朝も早いのだろう。

目を覚ませば白骨死体がそこかしこにあって驚かないほうがおかしい。


「あ、起きたか。おはよう」


「あ、おはようございます。じゃなくて!しししし死体!死体が!」


「寝ぼけてる?将軍の部下達だよ」


「あ、そうでしたね。もう驚いちゃったじゃないですか」


「がっはははは!あいすまぬ!ちょっとした愛嬌よ!起きんか馬鹿者ども!」


もう死亡して軍役とかれてるだろうに、将軍に叩き起される部下達の胸中を思うと自由と冒険を愛する俺は少々いたたまれない気持ちになってしまう。


それよりもアンデッドで飲まず喰わず眠らず疲れずじゃなかったっけ?と気になったので聞いてみたら実際に寝ているわけじゃないらしい。つまるところ悪ふざけなのだ。


「将軍は強いかも知れないけど他のスケルトンは強いのか?俺の住処にはハーピー達がいるからふざけてると遊んでくれるのかと思って骨を咥えてどっか言っちゃうかも知れないぞ?」


そういうとスケルトン達はガラガラと音を立てながら一瞬にして組み上がり、ザッ!と地面を鳴らし一糸乱れぬ整列をして見せた。


ほぉ、個々の強さと言うよりも軍隊としての強固な結びつきの強さか。


「とまぁ御覧の通りです。我が主」


「急に堅苦しくなって。どうしたんだ?」


「はっ!昨晩はご無礼、ご容赦を!一晩の語らいによって我らはミドウ様の人柄を知り、その夢を必ずや叶えんと欲し、盾となり、剣となる事をお誓い致します。我等が王(マイロード)我等が国(マイマジェスティー)!」


マイロードって、俺は王か?そんなのは柄じゃない、ついでに将軍から取った出汁も鶏ガラじゃない。

ってやかましいわ!


「あ、そういうのいいよ。俺は自由と冒険と料理と食材が大好きなんだ。縛り付けるものは何もない。眼前に広がるのは自由の荒野だ。自由は広すぎる程広く、迷うこともある。だからそれを助け合う友と家族が必要なんだよ。それでいい、それがいい」


「がっははははは!かないませんな!王よ!」


「……」


話の途中でリエラ嬢はこちらをじっと見つめてはいたが最後まで口を挟む事はなかった。なんだったんだろうか。言いたい事があるなら言ったほうがいいぞ?ストレスを溜めるのはよくない。


だが喋るつもりがないなら気にしなくてもいいだろう。

それよりも俺の呼び方がまた一つ増えてしまったが流石に仰々しすぎる気がする。


「その王ってのも何とかならないのか?」


「なりませんな。我等は自由ですので!がっははははは!」


「言うね」


俺と将軍は笑い合い、他のスケルトン達もカタカタと骨を鳴らして笑っている。その顔はやはり、骨なのに楽しそうに笑う顔がぼんやりと浮かんで見えた。


やんのやんのと話していると姫様やエビちゃん達も目を覚まし始めたので水でさっと顔を洗って目を覚ます。


「悪いがもうエント芋の団子もジェネラルスープも品切れだ。今日中に帰れると思うから悪いが皆、気張って行こう!」

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