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戦料理人は異世界も喰らう  作者: 世見人白洲
第一章 森の暮らし
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第三十話 BがあるならAもある

ハピ子で俺もなれたものだったが嫉妬の塊であるアラクネ達は蜘蛛腹に据えかねたのかリエラ嬢を持つと言って聞かなかった。


壊れてしまったが一応親であるエイルに許可の確認を取ると、ボクは知りましぇんしか言わなくなっていたので致し方なくアラクネにお願いした。


彼女はリエラ嬢をお姫様抱っこのように抱くのかと思うと蜘蛛腹からシュルシュルと糸を吐き、彼女を繭状にしてしまったのだ。


一応危害を加えたら許さないと言ったのだが、彼女達の糸は粘糸と鋼糸という二種類を自身の意思で使い分けることができ、介抱に使われたシルクのようなふわふわの糸は粘糸、デモニックスパイダーが使ったような鋭利な攻撃用の糸が鋼糸でその強度は鉄より硬いとか。


凄いな。そのうちあの極上の糸で服を作って欲しいな。編み物をしている彼女達は大層絵になるだろう。


そんな話をしたら彼女達は頬に両手を添えていやんいやん恥ずかしいと顔を真っ赤にして身悶えていた。


物騒な思考をしているのに変なところで乙女チックなんだよな…悪い子達ではないのだが、時々ぶっ飛んだ思考をするのは困り物だ。


「御前様もなかなかですよ?」


「そんなことはないだろう」


「スープ」


「あれはな、生命の神秘なんだよ」


アラクネ達はわかったようなわからないような顔をして聞いてくれていた。基本はいい子達なんだよ。皆綺麗だし、可愛らしいところも多い。


病んでなかったらなぁ…残念美女と言う奴だ。


そして今、俺はそんな彼女達の尻を眺めている。


正確には彼女達の蜘蛛の尻に生えた極小の毛だ。

道を探すのに困っていたのだが、彼女達の蜘蛛尻に生える毛は風や湿度や温度を凄まじい制度で感じる事が出来るらしい。女性の尻だけにデリケートなようだが、少し味が気になる。ちょっとだけでも舐めさせてもらえないだろうか…


そんな彼女達が川の温度と湿気を感知し、そちらに向かっているところなのだが先ほどから少し表情が固い。


「姫様?どうかしたか?」


「御前様、少しまずい相手かも知れません」


「ん?」


「デスビーです。奴等は働きバチで近寄るものに対して反射的に襲い掛かります。指揮系統のトップであるビークイーンなら奴等との戦闘をこれ以降せずに済ませられるかも知れませんが…」


「強いの?」


「ボクは戦ったら餌にされちゃうかな。数が多いし、毒が強力すぎるんだよ」


「童達も厳しいですね。昔ならともかく…」


「「「「「姫様…おいたわしや…」」」」」


不謹慎なのだが姫様とアラクネ達のやり取りは、結構好きだ。


「そうか。まぁ俺は毒が効かないみたいだし、ハチならば食べれるからな。やってやろうぜ。運よくクイーンの元へ案内してくれるかも知れないしな」


「「「「「え?」」」」」


「ハチ、食ったことないのか?」


「「「「「普通は食べません」」」」」」


「結構クリーミーで美味いぞ?」


「「「「「絶対に無理です」」」」」


「食うぞ」


姫様とアラクネ達はやめてええええええと嘆き、エイルにいたってはひひひひひと引きつった笑いを出している。


おいおい、そんなに恐がるなよ。今度は大丈夫だって!


「姫様。俺をわざとハチから離そうとしないでくれよ?楽しみなんだからさっ!」


「えっ…そ、そんなことしませんとも。御前様の願いは童の願い。童の願いは御前様の願いでご、ございまする…」


声、震えてるよ?


難しい顔してひいひい言うアラクネ達に先導されて抜けた先は川だったのだが、やはりそこもまた水嵩が減っているようだ。大きめの渓流のような川辺は直線状に苔むした後があり、元はそこまで水があった事が伺える。


うーんこのコケ、食えるのか?


さっと指で救い、匂いを嗅いでいると姫様達が寄ってきた。


「何をなさっているのですか?」


「川の調査かな。コケがここまで生えてるって事は元々水嵩がここまであったって事なんだ。後はこの水苔食えるのかと思って」


姫様とアラクネ達は目を瞑り、ブルブルと震えている。エイルにいたっては川辺の石を拾い上げて話しかけている。とうとう完全にイったかエイル。


「「「「「「流石は御前様!やはり早く孕ませていただかねばっ!」」」」」


そういって刀を仕舞っていた部分を弄繰り回すのはやめろ。今はそんな事をしている場合ではない。


何故かと言うと、川辺に凄まじい羽音を木霊させて何かが飛来しているからだ。


この聞きなれた羽音はオオスズメバチのようだがその何倍も凶悪だ。うわああああと叫びだしたくなるようなゾワゾワとして感覚が肌を粟立てる。


そして曲がりくねった川の先から姿を現したソレは、見知った姿の何倍も凶悪であった。


人の上半身はあるサイズ。全身を真っ黒に染めた姿は死神(デス)にふさわしく、真っ赤な複眼は拳大はあるだろう。そして尻からブシュっと音を立てて木の枝サイズはあるだろう針には白濁とした液体がてかっている。


想像していたよりもヤバイその姿に一瞬怯んだが、形はハチのソレだ。


俺は確信した。食える、と。


「あれは食える。間違いない」


「「「「「「えぇ~?!」」」」」」


「おやめくださいまし、御前様!貴方様を失ったら我等一族は滅亡を辿るのみ!」


「大丈夫だ。俺は死なないさ、約束があるからな」


「御前様…申し訳ありませぬ。死地へ参る夫を見送るのも妻の務め」


そういって川辺の石を拾うと俺の背中で打ち鳴らした。


いや…妻じゃないんですが…というのは野暮天だろう。

ここは気分を乗らせようじゃないか。


「うむ。姫よ、留守を頼む」


「嗚呼…御前様ぁ…!」


「「「「「きゃー!!」」」」」


見えるハチは3匹。一列に並ぶように飛んでいる。


これなら遠当てで二匹は抜けるな。


激しい羽音を鳴らしながら迫り来るデスビーに自ら突っ込むとグッと引いた拳を先頭のデスビーの腹へと打ち込んだ。


「ふっ!」


ガギィン!と金属を打ち鳴らすような甲高いが鳴り響くと羽音は確かに減っていた。


拳が刺さったデスビーは未だ羽をブブ、ブブと弱弱しく鳴らして針を刺そうとしているが、もう片方の手でその腹を押さえ込んでいるので届くことはない。


そしてそのまま引きちぎろうかとも思ったのだが、やめておく。一番後ろにいたデスビーはそこまで威力が乗ってはいないがそれなりにダメージが通っているようで羽音が弱まっている。


ならばそのまま巣へと帰投してもらって案内をお願いしようと考えたからだ。


クイーンにあったとき印象を悪くしないための善後策だ。

まだデモニックスパイダーの脚はあるから土産もばっちりだろう。


じっと眺めているとデスビーはフラフラしながらも帰るようだ。


亡骸を忘れないように両脇に抱えて後を追う。


「行こう。上手くいけば蜂蜜だ!」


そうは言ったがアラクネ達は気乗りしないようだ。エイルに至っては自らお願いしたのかリエラと同じく繭にされている。なんて使えない男だ。それでも男か?もう食っちゃっていいよ…ギルドマスターは不名誉な戦死を迎えたと報告しよう。

死亡理由は腹上死だ。アラクネとの、な。


余計な事を考えながらもデスビーの後を追うと渓流の脇にある洞窟へと入っていった。


「あそこが巣なのか?凄いところに作るな…」


「デスビーは強靭な甲殻、即死級の毒針を持つ魔物ですので普通のハチのような生態ではないかと…」


って事は刺激しても飛び出してこない可能性もある。だが、そんな巣穴に姫様達を同道させることはできないな。居てくれたら心強いが…


「皆はここで待っていてくれ。俺が一人で話をつけてくる」


「そんな…御前様、童達を置いて逝かないでたも…」


あれ?一気に時代がさかのぼったぞ?平安貴族か?

いや、そんなことはどうでもいい。


「君達の玉のような肌に傷を付けたくないんだ。わかってくれ」


「「「「「きゃー!大好きー!男前ー!もう早く抱いてー!!!」」」」」


ふっと笑って背中を見せる。服は姫様に介抱されたときに剥ぎ取られたので裸だ。コック服は結構ガタが来ていたので粘糸で解れなどを直してくれるといっていたが、本当だろうな?


まぁいいさ。いい男ってのは背中で語るもんだ。


鍛え上げられた背筋を見せながらグッっとポージングを決める。バックダブルバイセプスだ。見てくれてるか?アラクネ達よ。


そうして俺は洞窟へと侵入を果たしたのだが、中は不思議と暖かく、そして甘い匂いが立ち込めていた。


ミツバチは重なって羽だか体だかを擦り合わせる事で高熱を発し、組敷いた外的を蒸し焼きにするらしい。

やはり、彼女達は間違いなく料理人だ。きっと分かり合える。


幸いにも一本道だったので迷うことはなかった。

所々わき道に穴が開いていたが恐らくそれは子供部屋だろう。

今は興味本位で荒らしまわるべきではない。


そうこうして歩いていると一層と匂いが強い部屋までたどり着いた。


扉?はしっかりとハニカムで作られており、板ではなく蜜で固められていた。


向こうが透けて見えているのだが、ここは礼儀としてノックをしておく。


ガンガン!全力ノックだ。


「誰じゃ!そんな乱暴にノックするのは!」


向こうから聞こえてきたのは子供のような高い声。のじゃ?ロリ?ひょっとして?


「ワタクシ、森の料理人をしておりまして、このたびはデスビー印のハチミツ様と個人契約を結びたくご挨拶にお伺いさせていただきましたフジ ミドウと申します」


キレキレの営業トーク?をカマしながら密の扉を開けて中へ入ると現れたのはハチのコスプレをしたようにしか見えない少女だった。


外に跳ねるショートヘヤーの金髪はハチミツのようにしっとりとした光沢を放ち、その隙間からピコピコと動く触角。


アラクネ達と同じようにパッチリとした瞳は真っ赤でルビーのような輝きと子供のような外見からは想像も出来ない上品な落ち着きを持っている。


そしてまたしても服を着ていないのでまな板のような胸は髪が短いので丸見えで、背徳的な淫靡さがあり、貴女が女王陛下ですと思わず傅きたくなる。


体の部分は殆ど人間のそれで、下半身はハチのパンツを履いたようになっており、気持ち程度にハチの尻尾を持っている。

本当にあの禍々しいデスビーの女王なのか?詐欺だろ。と思っても口にはしない。


「よく参った。我が前に平伏す事を許そう」


「あ?ママゴトしてんじゃねーぞ。食っちまうぞ?」


偉そうな口調。世の厳しさを教えねばならないだろう、大人として。


だがそれは良くない結果を招いてしまった。


「びぃえええええん」


クイーンが泣き出すと黒の弾丸が部屋の壁と言う壁をぶち破って突入してきたではないか。


壁を壊すとか正気か?!崩壊するんじゃないかと心配したが洞窟自体の壁にはしっかりと蜜を塗りこんで補強しているようだ。


しかし、弾丸の怒りは収まっていない。耳が痛くなるような羽音を立てながら威嚇し、ブシュと毒針を出し入れしている。


「まぁまて!話をしよう。俺は今日友達になりにきたんだよ!土産もあるぞ?ほら、デモニックスパイダーの脚だ!」


そういって両手に脚を握りサイリウムライトのようにプラプラと誘惑する。


さぞや滑稽に映った事だろう。一人で良かったと心底安堵したのだが、クイーンは泣き止んでこちらをポカンと見ていた。


「友達?本当に?」


「あ、あぁ。今日から俺とエビちゃんはソウルフレンドだ。蜜ってのは花粉によって味を虹のように変える芸術だ。俺も料理人の端くれ、君達の事は尊敬しているよ!」


苦肉の策だった。ハチ(ビー)だからAがあって当然だろう?だからAB(エビ)ちゃんだ。


何とか怒りを納めてもらおうと思ったが口から出たのはすべて事実だ。俺は彼女達と仲良くしたい。


それだけハチというのは凄い生物だからな。


「わ、わかっているではないか!ふ、ふん!特別に我の名を呼ぶ事を許そう…名前もらっちゃった、キャッ恥ずかしいよぉ!」


俺はちょっとやってしまったかも知れない。

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