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戦料理人は異世界も喰らう  作者: 世見人白洲
第一章 森の暮らし
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第二十九話 俺は桃太郎じゃない

「それは構わないが…いいのか?訳ありだと思うが」


「良いのだ…」


「「「「姫様…おいたわしや…」」」」


さながら時代劇のようだった。


「いいならいいけど、腹は膨れたか?まだスープもあるぞ?」


「スープ…だと…?それは何で作ったのだ…?」


「ん?デモニックスパイダーの内臓」


「やめぬか!死ぬつもりかえ?!」


おや、ひょっとして今素がでた?流石はお姫様。本来はこっちなのかな?


「俺の国はな、毒があると知っていても挑み続けた猛者がいるんだよ。その尊い人達の上に生きている。ならばその高潔な魂は受け継ぐべきだろう?だから、なんと言われても俺は食うよ」


「よくぞ申した!ならば童が見届け人となろうぞ!」


そんな大層なものじゃないだろうに…


火にかけてある鍋を見ると蜘蛛の体液によって紫の色をしたスープは塩と胡椒で味を付けられ、シュウシュウと音を立てている。


何故俺はこんな冒険をしようかとしていると、ステータスのラミア達の従魔スキル:状態異常耐性全と悪食を信じているからだ。勿論、俺自身は悪食ではないがそう付けられてしまっていた上にスキルまで貰えているのだからこれを使わない手はないだろう。


「うーん…臭いはエグ味が強いな…じゃあいただくぞ」


「「「「「ごくっ…」」」」」


アラクネ達どころかエイルやリエラ嬢まで意識を取り戻してこちらを見ている。


フライパンを傾け、口へ運ぶとスープはシュゥゥゥ!と音を出して流し込まれた。


舌の上で踊るエグ味。焼け付くような酸味、と言うか酸だ。これは駄目だ。


「ぐぼっ!」


「大丈夫かミドウ殿!」


来るな!止まれ!と手で駆け寄るアラクネたちを制す。


口いっぱいに広がる劇毒スープを鼻から吸い込んだ息で冷ます。


「フッー!フッー!」


興奮した獣のような声をあげ、静かに嚥下すると喉に粘つく液体が残り、脳を揺らす衝撃が背骨を突き抜けた。


「ぐはぁっ!はぁ…はぁ…俺の勝ちだ…!」


ふらつく頭、覚束ない足元。俺はゆっくりと立ち上がり、天に拳を衝き立てた。


「「「「「「「キャー!男の中の男よー!抱いてー身篭らせてー!」」」」」」」


訳のわからない歓声があがり、俺の意識は闇に吸い込まれた。



ふと夢を見た。記憶さえない赤子の揺り篭に揺られる夢だ。


誰かの優しい腕の中でまどろみながらその温もりに触れている。


体に纏う柔らかく暖かい布は母の愛で満たされていた。


「おぎゃああああああ」


「お目覚めになりましたか?」


「はっ!ここはどこだ?俺はいったい何を!」


「ミドウ殿は意識を失われたのです。あれほどの激戦、童も見た事がありません。感服致しました」


「そうか、ありがとう…ところで、何をしているんだ?」


「愛する夫を介抱するは妻の務め。当然の事にございまする」


え?またこの流れなの?よくないよそういうの。もっと自分大切にして!


俺は白く透き通るシルクのように滑らかな布の上に寝かされており、頭は形が良く、お椀型をしながらもピンと張ったふっかふかな姫様の胸に抱かれていた。


「俺にはリリという女性が…」


「殺しましょう」


蜘蛛と言うのは嫉妬深い。女郎蜘蛛の言い伝え然りだ。


「物騒だな!やめろ、絶対に許さんぞ!」


「そんな…」


「そもそも姫様と出会う前からの仲だ。約束は後からした方が当然後回しだ、それに姫様とはそんな仲でもないだろう?一方的な愛は愛じゃない。俺は姫様の事もアラクネ達の事もよく知らないのだからな」


「アナタ様にはこれから童達の事を知る機会などいくらでもあるではございませんか」


「え?」


「皆のものにお情けを」


「断る」


「何卒!何卒、我等の種族存続のために!」


「他の男で頼む」


「心身ともに認めた相手でなければ我等はすぐさま相手を喰い殺すでしょう」


そういえば蜘蛛って妊娠するとオスを食べるのもいるんだっけ…マジ?食われて喰われちゃうの?


「……」


「ご心配なさらずとも我等は生涯ミドウ殿と共に添い遂げます故。ミドウ殿が旅立たれるとき、それは我等が旅立つ時でございます」


「喰うんだろ?俺は食わすが喰われるつもりはないんだ」


「喰べませんとも。いえ、食べますが。」


「付いてきたいなら付いてくればいい。だけどな、もし俺の家族に危害を加えたら俺は首一本になってもお前等を食い殺すからな」


「「「「「あぁ…なんて素敵な殿方」」」」」」


えっ?反応おかしくない?やばすぎるでしょ…もうこれは駄目かも知れない…


「はぁ…もういいから…行こうか。武器はあるのか?それとも無手か?」


何かしらがあって逃げてここまで来たのなら戦力として期待するべきではないだろう。なんだかんだと味方?には甘くなってしまう。10人いる彼女達を一人も死なせるつもりはない。


しかしそれは杞憂だったようだ。


武器ならここに、と蜘蛛の腹の部分。ぱっくりと割れてネトネトと透明な粘液が妖しくヌメる割れ目に手を突っ込み、んっ…ぁ…はぁ…と声を漏らしながらクチュクチュと中をかき回し取り出したるは一振りの…刀。


ひょっとして貴女、蜘蛛なのにオロチですか?それひょっとして伝説の天叢剣ですか?蜘蛛で蛇って嫉妬ゲージ振り切っちゃってるけど大丈夫?


て言うかなんて所に入れてるんだよ。そこを入れるのは子供だろ?!もう色々と突っ込みが追いつかない。


「あぁ…はい…大丈夫じゃなさそうだけど大丈夫そうだね…」


「どうですか、アナタ様ぁ…」


そういって謎の粘液でじっとりと濡れた抜き身の刀を顔に近づけてうっとりとしている。完全にイっている。その数10人。


俺はそんな彼女達を眺めながら、あぁ…あの刀で切られたら痛そうだなぁと、そんな事を考えていた。

エイル情報の強い、やばいってのは誤報で、違う意味でヤバイって事じゃないのかな。


「なぁ、エイルさんよ…」


「はい、私は何も知りましぇん」


「なぁ、リエラ嬢」


「チョロチョロチョロ…」


はぁ…もうこれは駄目だろうね…


画家への道を歩む気を失ったリエラ嬢を背中に背負い、俺達は足を動かした。


その背中へ射殺す視線が突き刺さる。


『『『『『あの(アマ)…私達の御前様にマーキングして…殺すっ!!!』』』』』

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