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戦料理人は異世界も喰らう  作者: 世見人白洲
第一章 森の暮らし
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第二十八話 共食い?関係ないよな

きっと街の人間が見たらこういうだろう。


悪鬼羅刹、魑魅魍魎の跋扈する滅魔の森の中層には、魔女がいる。


グツグツと煮えたぎる鍋から覗くのは黒く、鋭い蟲の脚。


「ほーら、いい感じだぞ?」


「「…」」



あの戦いの後、三人で手分けしてデモニックスパイダーの残骸を集めた。


素揚げもいいかと思ったんだが脂がなかったので魔法で水を出してもらい、脚を蟹のように茹でたのだ。勿論塩茹でだ。


本体の方は毒腺を抜く必要があるので実験あるのみだが、パカっと中を開けばトロットロに溶けた内臓があり、うにか蟹ミソのようだったので後でスープにしてやるつもりだ。名付けてデモニックスープ。どうだ?美味そうだろう?


しかし二人とも先ほどから黙り込んで虚ろな目をしている。どうしたんだろうか。


「なんだ?二人とも顔色が悪いぞ?あ!ひょっとして朝飯足りなかったか?おいおいそれならそうと言ってくれよ。そんな顔色が悪くなるまで腹を空かせてたなんて…すまん!俺は料理人失格だ!」


「「そうじゃない…」」


「でも安心してくれ。おかわりは十分にある。後でスープも作るからな」


「「なにで?!」」


「そりゃ内臓を使って」


「「やめて!」」


「やめない」


「「なんで!」」


「食べれそうだから」


「「……」」


幸せそうな顔をしてやがる。ククク…料理人冥利に尽きるぜ。


ゴポゴポと粘っこい音を立てながら脚は熱気に煽られ生き物のようにピクピクと動いている。


「「おげぇぇえ!」」


「おい!どうした!そんなに気分悪いのか?」


「「悪いかも…」」


「仕方ないな。二人は休んでろ。脚は俺が食うから。二人はデモニックスープで水分を摂れ」


「「デモニックスープ?!」」


「あぁ、蜘蛛の内臓を使ったやつだな」


「「ああああ脚!脚脚脚脚!脚を食べます!」」


「そうか?でも体調…」


「「大丈夫!ピンピンしてる!」」


「じゃあスープもイけるな」


「「お母さん。すぐ行くからね」」


大げさなやつらだ…


そんな話をしていたら脚はいい塩梅に茹で上がっている。


「どれ、ちょっと味見だ。ふんっ!」


蜘蛛の脚は硬い。包丁を通さないくらいに。


力を込めて間接を捻るとバキィン!といい音を鳴らした。


中から姿を現したのはエイリアンのように細い筋が絡み合い、ねじりあったような筋繊維。色は白となかなかインパクトがある。


「「オエェェエエエ!」」


「本当に大丈夫かよ…」


ぷらんぷらんと揺れる脚肉にむしゃぶりつく。


まるでグミのような歯を押し返す触感に、ぷりっとしながらも少しだけ雑味が混じっている。

うーん…無臭なので非常にわかりにくいが歯ごたえのある蟹カマ?マヨネーズがあればそれなりかも知れないが、蟹のように生で食うのはちょっと駄目かも知れないな。しかし、噛み切った筋繊維は口の中で生きているようにビクンビクンとのた打ち回るので触感は楽しめる。


「結構面白いぞ」


「「面白い?!」」


「食べて見ればわかる」


バキィンと音を立てて二人にも勧める。


この世の終わりのような目をして脚を受け取った二人はしばらく呆然としていたが口を小さく開くとパクっと加えた。


「どうだ?噛み切るとのたうって面白いだろ?」


「「オゲェエエエエエエ!」」


「うわぁっ!吐くなよ!もったいねぇ!」


「「もう、無理です…おうち返して…ミドウさんの料理が食べたい…」」


「食べてるだろ?」


「「違う…そうじゃない…」」


我侭なやつらだ…だがこういう反応はいい。

これを研究してこそっと出す。うめぇうめぇと食った奴等にこれはデモニックスパイダーでーす!と言ったときの反応を見るのは楽しみの一つになるな。

ククク…大和魂しかと刻めぇい!


「次はデモニックスープだ」


「「びぃええええええん!!」」


エイルとリエラ嬢は赤子のように泣きだし、地面に地図を描いた。

リエラ嬢は二回目だがエイル、お前もなかなか絵心があるじゃないか?


「はぁ。まったく…」


仕方ない。一人で寂しい食卓にするか。とスープをいじっているとまたもや森から何か大きな気配がしてくる。


凄い威圧感だ。


ただでさえ鋭い視線を更に険しくし、森を見つめると出てきたのは目線の位置よりも更に高所から自分を見下ろす女。しかし、その下半身は人間ではなかった。


「何か用か?」


「森の端で怪しい気配がしました故」


現れたのはまたもや胸をさらけ出した美女軍団。その数10名。


先頭切って話しかけてきたその女性は艶めく長い黒髪に、目元でパツンと切りそろえ、目はパッチリとしていながらもその全てが黒目だった。

スラリとしていながらも引き締まった肉体は美しく、太陽の光を反射し、漆塗りの漆器の如く煌く下半身の蜘蛛脚との対極が映える。

人間部分は人と同じサイズだが、下半身はその3倍はあるだろう。


これがアラクネって奴だろう。滅多に姿を現さないって言ってたが、おいエイル話が違うぞ。


「アラクネか?」


「お主は我等を恐れぬのか?」


「まぁいきなり襲われたら驚くかもな」


「ふっ…そうか。それよりも何をしておるのだ?」


「飯だ」


「ほう、飯か」


「そうだ。食うか?他の子達もどうだ?」


「うむ…いただこう」


「そうか。ちょっと待っててくれ。脚が足りない」


「我等の足はたくさんあるぞ?」


「ははは、面白い奴だな。俺はフジ ミドウだ」


「そうか、ミドウ殿。ご相伴に預かる。皆も良いな」


「「「「「はい、姫」」」」」


「おっと、姫様だったか。これは失礼仕った」


「!! これは驚いた。我等が文化にも理解があるか」


「いや、知らないよ。ただ、似ている文化は知っているってだけさ」


「ふっ…そうか」


「あぁ、そうさ」


そんな話をしながらもデモニックスパイダーの脚をちぎり鍋へと放り込んでいく。


「ミ、ミドウ殿はこの蜘蛛を食っているのか?」


「そうだ。なかなか面白いぞ?見たところ、姫様達は鍛えられているからわかりにくいが、少し浮いた肋骨、そして腹のくびれ。深く聞くつもりも探るつもりもないが腹が減っているなら食え。それが生きる最善だ。食える事は俺が身を持って証明済みだ。」


「あまり、婚姻前の婦女子の素肌を見るものではないぞ?」


「なら服を着てくれ」


「ははは、そうだな。その通りだ。男なぞ滅多に現れんのでな。許せ」


「もう慣れたから俺は気にならない」


「ほう。慣れ、か。面白そうだの」


「俺にも背負うものがある。姫様達の立ち位置が不明な今はこれ以上いうつもりはないぞ」


「それもそうだ。失礼した」


「気にするな。ほら、茹で上がったぞ」


蜘蛛の甲羅を皿代わりにして脚を向いて置いていく。


うーん…胡椒でも振るか。多少はマシになるだろう。


「ミドウ殿、それは?」


「ん?胡椒だが」


「香辛料か!それを分けてもらうことは出来ぬだろうか!」


「なんで?」


「その…食事の質を…」


「俺は料理人だから料理を作ってそれを渡すのはいいが調味料とかの切り売りはしないんだ。悪いな。」


「そう…か…」


「まぁそんなに落ち込むなよ。話を聞いてからでも遅くないぞ?」


「と言うと?」


「俺はある用事で浅層の川の水が減っている原因を調べに来たんだ。その問題が解決したら宴でもしようじゃないか?そのとき気に入ったなら毎晩でも皆で飯を食べに来ればいい。金は要らないよ。アラクネって強いんだろ?なら適当に獲物を一匹二匹持ち込んでくれればな。ま、飯は皆で食ったほうが美味いって話だ」


「ふっ…面白い御仁だ。だが、我等もそうやすやすと人間を信用できぬ」


信用出来ぬ!と言いながらも既に俺の出したものを食ってるんだが…ちょっと抜けてて姫様可愛いじゃないの。嫌いじゃないよ、こういう人。


「ははは、そうか。いいよ、じゃあどうするんだ?」


「我等もその問題解決に同道しよう」

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