第二十七話 食えない?いいから食え
あの後は大騒ぎだった。もっとプリンが欲しいだのエイルやリエラ嬢はもうここから帰らないだのとキャイキャイ騒いでいた。
そんな奴等も今は全員ハーピーに抱かれて眠っている。
暖かいし、もふもふしてるからわかるよ。
「は~やっぱりミドウさんのご飯は最高ですね~」
「そう、ね。はぁ…もう離れたくないわね」
ハピ子とクーは俺とリリを抱き合うように翼をかけ、ミラはなぜか俺の上に乗って寛いでいる。
とりあえず、二人にも伝えておくべき事を伝えるか。
「クー、ミラ。俺はリリと将来を共にする付き合いを決意した」
「まぁ~やっとなんですね~じゃあ早く私とも子作りしましょ~」
「ラミア族の将来も考えて欲しいわね?」
まぁそういうよな。
「と言ってもリリが16になるまでそういう事はしない。理由は危険だからだ。まぁ、そういうわけだ」
「後三年ですか~」
「すぐね」
分類上魔物になる二人の感覚はわからない…が、納得してくれたようなのでいいだろう。
「悪いな。二人とも。だがそのときが来たら二人も満たしてやる」
「お腹ですか~?」
「まぁ、たくましいのね?」
「そういう意味じゃない…心だ」
「知ってますよ~」
「初心ね」
ミラはともかくクーは本当かよ…
そんな話をしながら皆で着く眠りは、やはりいいものだ。
クーとハピ子の暖かさにミラのひんやりしっとり感。リリの温もりに抱かれていつの間にか寝入っていた。
ふと、肩に何かが吸いつく感じがして目が覚めた。
原因はハピ子。プリンを吸っている夢でも見ているのか肩に吸いついていた。
ミラは獲物を丸呑みにする大蛇の如く足を俺の足に絡みつかせて胸に顔を乗せて眠っている。寝ている姿まで艶があるとは、恐ろしい…
クーは可愛い小さな口を少しだけ開けてピイピイと寝息を立て、リリはこちらを見ていた。
「起きました?」
「今起きた」
「知ってます」
クスクスと笑うリリ。ヤンデレの香りがします…
額に軽くキスをすると顔を真っ赤にして反対側を向いてしまった。
首以外動かせないのでじっとしていると今度はリリの方からプレゼントを貰ってしまう。
額かと思ったのだが対象は唇だった。
両手を頬に添えて固定されてしまい、首まで動かなくなる。
「んっ…はぁ…ちゅ…」
艶かしい声を出すな!ああああああ!駄目駄目駄目ええええええ!
暴走を始めそうになる獣欲を朝の献立を考える事でやりすごく。
長いようで短い時間が過ぎたのだが、その頃には皆既に目を覚ましていた。
「あらら~ズルいですね~」
「そうね?」
そういって俺の脚を絞め上げるミラに胸を引っかくクー。酷いよ…痛いじゃないか…
その後リリは傷から出る血を舐め、空いた口にクーとミラが口付けをしていった。俺の全身は幸せに蹂躙された。
「よし、朝飯だ」
朝は狼肉のベーコンと香草焼きだ。野菜も必要なのでミラにラミア畑から葉物とタマネギを持ってきてもらう。
サハギンの身を細かく切り、水を足しながらオリーブとバジル、塩で味を調える。
狼肉はそのままブロックにし、筋が多いので細かく切り目を付けてから胡椒と塩を揉み込んで焼く。
さっと香草焼きと合わせて完成だ。
サラダはバイコーンの切り身とオリーブで簡単にあわせるだけ。
朝はさっぱりとね?
ぱっぱと皆で食べるとハーピーは昼間で寝ると寝始め、ラミア達も畑が終われば少し寝ると言っている。いいなぁ…
「じゃあ俺達は水源調査へ向かう」
「えーボク達ももう少し休もうよ!こんな美味しい食事を食べたら活力が沸く前に堕落しちゃうよ!」
「お前を喰ってもいいんだぞ?エイル?」
「すぐ行こう!」
「お父さん…」
「悪いがリリは留守番頼めるか?」
「…わかりました」
「必ず帰る」
「お待ちしております」
ギュっと互いに強く抱きしめ合い、その鼓動を感じる。
「いいなぁ…」
「頑張るんだよリエラ」
「なんだ?思い人でもいるのか?頑張れよ!」
そういってサムズアップしたのだがリエラ嬢はぷりぷりと怒ってしまった。なんだ?難しい年頃だな。
「はぁ…」
「ため息を吐くと幸せが逃げるぞ?」
「ならば君が幸せを運んでくれないかい?」
「俺が出来るのは料理くらいだ」
「そういうことじゃないよ」
ふーん?エイルも難しい年頃だな。
「じゃあ行こうか」
リリ成分もしっかりと補充し、中層へ入る。
本来ならば正規ルートで上がらなければならないがここにはハーピーがいるのだ。
ルートなんて関係ないのさ。
一応エイルからクー達の魔物情報を伝えるとアラクネは知性があるから滅多に現れないが強さは固体でもAランク下位。群れたらSランク級と言われており、エルダートレントはAランク下位で群れはなし。
知性のない魔物ではデスビーがAランク下位で群れるとSランク級。デモニックスパイダーはAランク中位で二体いたらSランク中位と化け物のオンパレードだ。
脅威のインフレもいい所だろう。
クーやハピ子たちに連れられて中層に入ると森は一層深さを増し、木々が暗く感じる。
濃密と言った方がいいだろうか。
凝縮された成分が淀んでいる。
「これは、なかなか…」
「あぁ、思ってた以上だね」
「ゴクッ…」
「ここで震えても仕方ない。行こうか」
クー達には早々に戻ってもらったので今居るのは三人だけなのだが、森の中からは多数の気配を感じる。
「ミドウ君」
「わかってる」
「えっ」
「来るぞ!」
そういった瞬間見ていた木々を数本、音もなく切り倒した何かが高速で飛来する。
「屈め!」
全員が一斉に地に付すと首があった位置を何かが通り抜けていった。
「なんだったんだ?」
「こりゃまずい!デモニックスパイダーだ!」
「嘘でしょ?!」
木々の隙間から八本の脚を動かしてぞろぞろ出てきたのは全身が漆器のように黒く、艶のある甲殻に覆われた蜘蛛。目は退化しているのか見当たらず、硬そうな甲殻に、牙からは緑の液体が滴り、シュウシュウと地面を溶かしている。
一応念話を使えばクー達は着てくれるだろうが、危険だ。仕留めるしかない。
「エイルはリエラ嬢の護りを優先。あいつ等は俺の獲物だ!」
元の世界ではある一部の国でタランチュラを食べる。更に一部の部族では成人の儀式としてタランチュラを捕まえて食べる。そして俺も食べた事がある。それに実はタランチュラの毒ってのはそれほど強くないんだ。
実はデ
「へっ…!美味そうじゃねーか!」
「「えっ?!」」
「待ってろよ。後であいつ等食わせてやるからな?」
「「結構です!」」
「昨日は俺の料理の虜だっただろ?」
「「それとこれとは違います!」」
だが駄目だ。これはもう決定事項なのだ。
パイルバンカーのように一足一足が地面に穴を穿ち、迫り来る蜘蛛の甲殻は恐らく鉄より硬く爪は鋭い。
相対する8匹の蜘蛛が鋭い声を上げて牙をチラつかせて威嚇をしている。
『シィエエエエ!』
おいおい、柔らかそうな腹を見せちゃ駄目だろ?噛り付きたくなっちまうぜ!
腰溜めから一息に踏み込み、万歳状態で威嚇をしていた蜘蛛にアッパーカットを入れる。
ズボッと音を立てて食い込んだ拳は背の甲殻に辺り、ギィン!と鈍い音を鳴らした。
やっぱり背は硬いか。
拳を伝い、腕にまで響くような硬さ。
腕に蜘蛛をくっ付けたまま別の蜘蛛を蹴り上げると紫の体液を撒き散らしながら上部が消し飛んだ。
残り6匹!
「「えぇ~!?」」
うるさいな。蜘蛛がそっちに意識を割いた瞬間飛び移るように地に足を付けた蜘蛛の頭上から拳を叩きつける。
メギィと音を立てながら蜘蛛は地面へと体埋めてぴくぴくと痙攣している。
次の獲物に視線をやった瞬間腕と脚に何かが絡み付いた。
なんだと視線を巡らすと蜘蛛が尻を向けて糸を吐き出していた。
その糸はピアノ線よりも細く、太陽の光を反射して何もないかのようだ。
さっき木を切り倒したのはこれだ。
そう思った瞬間蜘蛛は脚を素早く動かし、四肢を引きちぎろうとしていた。
だが
「筋力が足りねぇ!」
力任せに腕を振り回し、蜘蛛と蜘蛛をぶつけ、軽く跳躍するとその場でくるりと回転し、そのままの勢いで振り子のように蜘蛛を叩き付けると糸が緩んだ一瞬にゴムを引っ張るが如く手元に呼び寄せた蜘蛛に一撃。
グシャア!と耳に残る音が響く。
残るのは未だ片足に糸を括りつけたままの蜘蛛のみ。もう一匹はいつの間にか戦線を離脱していた。
鼻歌を歌うような気軽さで、叩きつけられて目を回した蜘蛛の元まで行くと右手を全力で振り下ろした。
天を引き裂き、大地を砕く轟音が響く。それは爆発にもよく似た破砕音だった。
周囲は煙に包まれ、大地には大きなクレーターが出来、ひび割れている。
しかしそこまでしても蜘蛛の甲殻は大きく凹んではいるが砕けてはいない。だが、中身は全て液体にまでシャッフルされているだろう事は想像に難くない。
「おーい、エイル、リエラ嬢。終わったぞ。無事か?」
「あ、はい…ボクはミドウ君に逆らわないよ」
「私もです…」
「何言ってんだ?」
さて、お待ちかねの時間だぞ?




