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戦料理人は異世界も喰らう  作者: 世見人白洲
第一章 森の暮らし
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第二十五話 おっさんギャグは年増も食わない

甘い甘い夜を過ごし、その日も寄り添いながら眠った。


朝目を覚ますとリリはまだ眠っていた。


ひょっとして今まで彼女が早く目を開けていたのは起きたときに居なくなっていないかを確認していたのではないだろうか?


すぅすぅと小さな寝息を立てて眠る彼女の髪を優しく撫でる。


「あっ…ミドウ様」


「ごめん、起こしたか?」


「い、いえ…」


本当の所はわからないが気持ち良さそうに目を細める彼女の存在を今は感じていたい。


しばらく二人でぼーっと過ごしたが、一度動かなくなると次に動くのが大変になるので気持ちを切り替える事にした。


「今日はエイルの元に行って屋台の話をしたら食材調査に行きたいと思う!」


おー!パチパチパチパチーと手を叩くリリ。昨晩の一件から互いの距離は更に縮まったと感じる。


日は十分に昇っており、今なら冒険者ギルドへ顔を出しても嫌な事は起こらないと思いたい。


「正直ギルドは嫌な事が多いから、リリには留守ば」


「一緒です」


「はい」


有無を言わせぬ迫力に、頷くしか反応は許されなかった。


支度を整えてギルドの門を開く。


あんな事がなければよかったのだが、嫌な汗が少し流れてしまう。


「あ、ミドウさーん!」


そんな俺の気を余所に大声で叫ぶのはリエラ嬢。


パラパラと残る冒険者の鋭い視線が突き刺さって非常に居心地が悪い。どういうつもりだ?


カウンターから乗り出してぶんぶんと手を振るリエラ嬢の下へと急ぐ。


「おい!どういうつもりだ、やめてくれ!」


「あっ、ごめんなさい。つい嬉しくて…その、父から話を聞きまして…」


「それはいいって。本当の事だからな。それに俺にも色々あるし」


「え?ひょっとしてミドウさんも?」


「多分想像してるのとは違う」


「そうですか…」


そんな目に見えて落ち込むなよ。イジメてるみたいだろう?


「ところで、今日はエイルはいないのか?」


「お父さんですか?部屋に居ると思いますよ。聞いて来ますね」


「あぁ、宜しく頼む」


はーいと言うと元気に階段を上っていく。まぁなんにせよ元気が出てよかった。その原因の一端は俺にあるが、そんな事は棚上げだ。


クエストボードなどを見に行きたいのだが、目つきの悪い冒険者がこちらを睨んでいるので不用意に動かないほうがいいだろう。また難癖付けられたらたまったものではない。


自ら面倒へ飛び込むつもりはない。ただし、降りかかる火の粉は払うだけではなく消火作業までするつもりだ。


暇なのでぼんやりとしているとリエラ嬢が戻ってきた。


「ギルドマスターのお部屋に案内致します」


ノーアポだったので不味いかと思ったがどうやら時間は取れたようだ。


リエラ嬢の後について前回と同じ部屋まで来る。


コンコンとノックをすると中からエイルが返事を寄越した。


「入ってください」


「失礼します」


リエラ嬢に先導されて中に入ると爽やかオーラを全開にして嬉しそうに両手を広げて迎えるハンサム(エイル)


「やぁやぁ、また来てくれてボクは嬉しいよ!」


「あ、そういうのいいんで」


「ツレないなぁ!いいんだけどね?それで、今日はどうしたんだい?」


「前話してた屋台の件で、って何でまだいるの?」


リエラ嬢は案内を終えたら仕事に戻るかと思ったがちゃっかりエイルの横に腰掛けて話を聞いていた。


「大丈夫です、受付はこの時間人が余るくらいなので」


「そういう問題じゃないだろ」


「大丈夫です。既に他の子と話は付けてありますので」


通常業務はこなさないのにそういうところの手際がいいってどうなの?と思わなくもない。


だがいつまで言ってても仕方がないので話を詰めよう。


「まぁいい。前に話したと思うんだけど俺はリリと一緒にロハスで食材を集めながらそれをその場で料理する屋台を求めてる。なかなかいい感じに出来たら街まで売りに来るかもな?それで、良さそうな屋台が欲しいんだが、屋台はなんでもいいと言うわけじゃない。それなりに拘りたい」


「うんうん!わかるよ!その気持ち!ボクもこの長テーブル拘ったからね!」


「そこでだ。木に詳しく、そう言った拘りを持つエイルに屋台作成についていい人がいないか聞きたくて今日はお邪魔したわけだ」


「なるほどねぇ。それならいい人がいるよ?」


「本当か!是非紹介を頼みたい」


「うーん、それはねぇ…」


「紹介料か?いくらいるんだ?」


「そんなもの必要ないさ。何故って?その人はこのボクだからさ!」


「帰る。行こう、リリ」


「はい」


「待ってよ!なんでさ!」


「そういう冗談は要らない」


「えぇっ!?なんで?!このテーブル作ったのもボクなんだよ?」


「え?冗談は求めてないぞ?」


「本当さ!ドワーフ達みたいな金細工や鉄は使えないけど、全部木だろう?エルフは木に住むからね。木材のみを使った加工なら得意なのさ!」


「へぇ…以外だったな。男親の趣味は日曜大工ってか」


「ニチヨウ、大工?ニチヨウと言うのはよくわからないけど、大工と言うならそうさ!かれこれ400年は木材をいじり倒してるよ!」


え?今400年って言った?ひょっとして若作りのジイさんなのか?これはご年配に失礼してしまった。


「え?ひょっとしておじいさん?すみませんでした」


「ミドウ君。エルフはね、1500年は生きるんだよ?ボクはまだまだ若造さ、でもね?それ以上言ったらぶっ飛ばすよ」


なんだよ男ってのは歳を取る毎に木のように味わい深く、深みが増していくものだぞ?なぁに女々しい事言ってんだよ。


だがその目は真剣(マジ)だった。有無を言わせぬ迫力。薄く開いた瞼から覗く眼光は緑に光り、心臓を貫くような鋭利さを湛えている。


「なんだ、じゃあ俺と一緒くらいなんだな、ははは」


「そうさ、もう僕達は同年代のマブダチじゃないか。ははは!」


嘘をつくなよクソジジイ。


と言うことはリエラも…?


そう思って俺はリエラ嬢に視線を動かしてしまった。


「畑の肥やしにしますよ?」


俺は瞬間的にリリの手を握ってしまった。


その手を彼女は優しく包み込み、にっこりと笑顔を向けたのだが、目は笑っていなかった。


四面楚歌。右も正面も全てが敵に囲まれていた。


「いやぁ、こんな美男美女と同じ空気を吸えるだけで俺もなんだか若返った気分だよ」


苦しい言い訳をしながらじっとりと汗が滲んだ手をリリはすりすりと優しく撫でてくれる。


俺の良心は君だよ…


「うんうん。そうだろうね!それじゃあその仕事はボクがやってもいいのかい?(ボク)、だけに!」


俺はあえてその言葉を無視した。


触れてはいけないこともあると学んだからだ。


「あれ?聞こえなかったかな?(ボク)


「わかったわかった!お願いするよ!だからもうやめろ!」


「そうかい?じゃあ楽しみにしておいてくれよ?3日くらいで出来るからね」


「早いな」


「ボクはその道400年のベテランだよ?そこらの連中と一緒にされちゃあ困っちゃうよ!」


そんな心強い言葉を聞きながら製作依頼をしていた時だった。


『ミドウさん~助けてください~』


のんびりとしながらもどこか切羽詰った救援要請が届いたのは。

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