第二十一話 ひょっとして脳筋?
ステータス表記を追加修正しました
そこをなんとか!断る。と言うどこかで聞いたような営業トークが続き、俺の気持ちは早くも森に帰りたい気持ちでいっぱいだ。
別に森での開放感に魅了されいているわけではない。子供達に癒されたいのだ。子持ちの仕事に疲れたサラリーマンもきっとこんな気分なんだろうな。
などと現実逃避を始めてしまうくらいにしつこい。今日はうんと言うまで返しませんって気迫に溢れている。人の迷惑を考えろ。
「何度も言うが、断る」
「そんな事言わないでさ、ね?強い人を遊ばせておきたくないんだよ!」
「だから錬金ギルドで精を出すって」
「ミドウ君は戦ってこそ輝くよ!」
「俺は料理をしてこそ輝くと自負している」
「そこはさ、ほら。戦うの実は好きでしょ?」
意外とよく見ているとは思う。戦うのは嫌いじゃない。だが好きと言うわけでもない。
この世の不条理が罷り通り、それを覆すのが暴力ならばそうする。そしてその頻度が多い、というだけなのだ。
「そもそもなんでそんなに俺を引き込みたがるんだ?ただでさえよくない関係なのに、もっと悪くなるとは考えないのか?」
「ボクの娘はね、エルフのボクと人間の間の子供なんだよ」
「ふーん。それで?」
「ハーフエルフだよ?」
急に娘の話をしだしたのだが、だからなんだと言うのだろうか。何が言いたいんだ?
そんなことを考えているとリリがちょんちょんと服を引っ張ってきたので耳を近づけると小声で教えてくれた。ナイスアシストだ!
「ミドウ様。ハーフエルフはお互いを嫌い会う亜人種と人間種の中間でどちらからも嫌われる存在なのです」
「へぇ…」
「その事実を知っているのは僕達両親と君達くらいだろう。それがボクが出来る君への信用の証さ」
なんだろう、このズレた感じは。
ふ、わかってくれたかな?と言う顔をされているのだが全くわからない。
それに最初は奴隷に落とすって言ってなかったか?俺が、じゃあそうしてくれ。と言ったら結局バレたんじゃないか?それとも俺がそんな事しないと思ってたのだろうか。良いように回されているな。早く出て行きたい。
「悪いんだが、だからなんだ?としか言えない。俺の国ではそういった偏見がなかったからな」
「うんうん。だから君が欲しいんだよ」
緑の髪のサラサラロングヘヤーのイケメンに愛の告白をされてしまった。
全く嬉しくないし、迷惑この上ない。
「あぁ、そう…帰っていいか?」
「どうしても駄目なのかい?」
「ハーフが嫌われてるのは世界が悪い。俺がここまで不快なのはギルドが悪い。明確だろう?ちなみに、
確かに生きづらいだろうが嫌い会う種族が出会い、愛を育んだ結果だろう?俺が思うにリエラは一番世界に愛されていると思うよ。ようは嫉妬だ。そんな当たり前の事はそっちの信用になれどこちらの信用にはならんぞ」
嘘偽りない考えを伝えておく。
常にニコニコと胡散臭い笑みを浮かべていたエイルの顔が一瞬固まったようにも見えたが、どうかしたんだろうか。
「そう、か。いや、悪かったね。今日は、帰ってもらってもいいよ。でもボクは諦めないからね」
「大丈夫だ。俺はこの足で錬金ギルドに向かうからな」
「ギルドってのは二つ掛け持ちも大丈夫なんだよ?」
「俺はお貴族様と違って一途なんだよ」
「うまいね」
「だろ?でもまぁそうだな。エイルもだいぶ苦心してくれたみたいだからそろそろ手打ちにでもするか?」
「本当かい?!急にどうしたんだい!」
「いつまで言ってても仕方ない。木を見て森を見ずってな。それに便宜、図ってくれるんだろう?」
「喜んでやらせてもらうよ!何をして欲しいんだい?」
「屋台だ」
ギルドと冒険者への不快感は拭えないがエイルが悪いわけではないのでいつまでも引きずるべきではないだろう。
それに登録だけしておいて冒険者としての仕事を請けなければ問題はようだし、商業ギルドというのがあると言う話も聞く事ができたのでもうここらでいいだろうという気持ちになりつつある。根負けに近いかな。
こういう熱い男は嫌いじゃないし、テーブルを見ての通り木の目利きは良いので屋台や店に関しても個人的に色々と助けてもらえればと思ったのが大きい。
商業ギルドに関してリリの情報にはなかったのは昔はただの相互扶助組合でギルドとして立ち上がったのは最近で街から離れて暮らしていたら知らないのも当然らしい。
それになんだと言っても金は必要だ。そこは割り切って置くことにしたが、もし報復だなんだと絡まれたら次は無力化ではなく一撃で仕留めると伝えた。
エイルの後ろに付いて階段を下りると喧騒が止み、ヒソヒソと何かを相談しあっているようで非常に居心地が悪い。自分のした結果なのだが、そう感じてしまうものはどうしようもない。
「はぁ…」
「すまないね」
「いや、俺がやった結果だからな」
なんとなく聞こえてくる会話はザカスをやった奴だとかリエラちゃんを泣かせただの襲っただのギルドを破壊しただなんだという話だ。
「ザカスって俺がやったやつ?」
「そうだよ。あれでも一応Cランクの冒険者だからね」
「俺は冒険者じゃないからCランクと言われても困るな」
「あんまりイジメないでくれよ」
「イジメてるんじゃなくて本当に知らないんだが。あぁ、これは説明がどうのじゃなくて俺は山奥で暮らしてたから世情に疎いだけだ。あんまりすぐに罰だなんだってのはよくないぞ」
「安心したよ。それにしても、やっぱりミドウ君は面白い。聞けば聞くほど興味が沸いちゃうな」
「話すつもりはないから安心してくれ」
「ツレないなぁ」
ははは、と軽口を叩きながら受付に行くとリエラ嬢は青い顔をしていた。
そんなんで仕事できるのか?なんてのは余計なお世話もいいところか。
エイルがリエラ嬢の耳元でボソボソと話をしているが聞き取れない。
あまり野暮天はするべきではないか。リエラ嬢の顔の色も戻ってきたし、罰則についての話なんだろうな。
「待たせてすまなかったね」
「仕事をしてくれればそれでいいさ。俺の信条は仕事と命に貴賎はない、だ。言い換えてお客様は神様ではない、と言ってるけどな。」
「そりゃ、お客様は神様じゃないだろうね」
文化が違うから理解していないと思うが、わかりやすく説明するつもりはない。大事なのは仕事に上も下もないと考えているから履き違えるなと公言したと言うことだ。
「あぁ、それじゃあ換金を頼む。後、登録も。」
「色々と面倒をかけちゃったから色を付けておくよ」
「その必要はない。後で難癖付けられてもたまらないし、正当な評価が価値を生むんだ。もしそれでもと言うなら破壊した床とカウンターをチャラにしてください、お願いします」
そう、そこを忘れてはいけない。俺とリリは無一文だ、払うことなどできない。賠償しろと言われたら困っちゃうからな!
「わかってるよ。ギルドの未来に価値にしては安すぎるくらいさ…」
別に俺は脅したつもりはないがこれは俺の失敗だろう。上手くいかないな、なんて事を考えていたら査定が終わったようだ。大熊の鑑定をしたときに準備だけでもさせてたのか?だとしたら流石に手際がいいな。
「えっと、ミドウ様、でよろしかったでしょうか?」
「あぁ」
「先ほどは、本当に申し訳御座いませんでした」
「気にしなくていい」
「でも!」
えらく食いつくな。本当にもういいのだが…エイルがハーフだと話したとでも言ったか?だとしたら誰かに話される恐怖も混じっているのかも知れないな。
「本当に気にしなくていいが、そうだな。俺は今度屋台でもやって回ろうと思っているから食べに来てくれ。そしたら、それでチャラだ」
「それで、いいんですか?」
「いいよ。ただし、絶対食べに来てくれよ?そりゃもうめちゃくちゃ腹を減らせてな」
「わかりました!ありがとうございます!絶対行きます!」
待ってるよ、話をしているとそれなりに雰囲気も柔らかくなり多少は空気が和らいだがやはり冒険者からの視線は鋭い。しかし、それはヤバイ奴から憎き恋敵のような感情に変わりつつあるようだ…
「あ、すみません。こちらが、査定の金貨2枚になります」
貨幣は10枚毎に鉄貨 銅貨 銀貨 金貨 聖貨と上がっていくらしいので金貨と言うのはかなりの価値があるようだ。平均的な家庭で月銀貨4枚と言うのだからしばらくは安泰だが使いにくいので銀貨に崩す必要があるな。
これが終わったらリリと買い食いでもするか。ずっと我慢してたからな。
「ありがとう、次はギルド登録を頼むよ」
「承りました!」
そういえばこの世界に来てからずっと森の中で生活していたから文字なんて始めて見るが大丈夫だろうか?と思い出して心配したのだが差し出された羊皮紙に記載された文字はしっかりと読むことが出来た。
理由は不明だ。だが既に違う世界に来ていることから一々驚いてもいられない。ラッキーだとでも思っておこうう。
羊皮紙の内容は名前と職業を記入するだけの簡潔なもので、リリから聞いていたステータスってのはどうしたのかと思っているとプラスチックカードのようなものを差し出され、体液の提出を求められてしまった。
「体液?!」
「えっ?!あ、け、血液とか、唾液です!」
「あ、あぁ!そうだよな。ははは!」
俺もだいぶ溜まっているのかもな…リリやラミアにハーピーと誘ってくる相手はいるが鋼鉄の理性で抑えてきたからな…
っと、そんな事を考えている場合じゃないな。
「これでいいか?」
指を軽く舐めて手を怪我した場合は料理を出来ないから出来るだけ避けたかったのだが、周りの冒険者からは腰抜けだなんだと野次が飛んできた。
人の事は言えないが荒事が好きなやつらだな…コレステロール値を下げておけよ?興奮してると血管が詰まって死ぬぞ?
「はい、大丈夫です」
そういってバーコードリーダーのような端末を操作してカードをスキャンした。ここだけ現代的で少し呆気にとられていたがリリがあれは魔道具ですと教えてくれた。
そういうのがあるなら冷蔵庫や加熱器も作れるかも知れないな。そうするともっと料理の幅が出来るので是非欲しいところだ。
「お待たせしました。こちらが冒険者認識票兼ステータスカードになります。ステータスとカードに向かって唱えてください」
ついにか…ファンタジーの王道ステータス!
「ステータス」
するとフォンと言ってホログラムのように文字が浮かび上がっている。
名前:ミドウ
Lv:74
職業:戦料理人
称号:悪食 現実主義者 狂料理人 万魔の友
直接戦闘能力:9340(生命力、回復力、魔法を用いないスキルやその他の攻撃威力の総合値)
間接戦闘能力:40/40(魔力、魔法力を使用するスキルの威力と所有魔力の総合値)
スキル
格闘術:4/5(手と脚を使った体術の威力と技術に補正)
料理術:4/5(料理の完成度と味に補正)
毒耐性:3/5(生命力を奪う異常への耐性)
麻痺耐性:2/5(体の自由を奪う異常への耐性)
ユニーク
念話:(ハーピー族との従魔契約スキル。契約を交わしたハーピーとのみ使用可能)
状態異常耐性全:(ラミア族との従魔契約スキル。全ての状態異常を防ぐ)
料理魔法:(食材・調味料の原材料を使用し、精製を可能にする)
称号スキル
悪食:(凶気的胃袋によってどんなものでも消化可能にする)
現実主義者:(精神的なダメージを軽減する)
狂料理人:(本来ならば食べれないものすら料理をすることで食材に変換することができる)
万魔の友:(知能を有する生物との交友を可能にする)
あれ…俺ひょっとして普通の魔法使えないの?マジ?すっごい楽しみにしてたんだけど…
それよりも悪食とか言いたい放題だな。なんとなく数字の内容は理解できるが魔法力40ってどうなんだ?
「リリ、俺魔法スキルが…」
「いけませんご主人様。ステータスの内容を話しては…」
「そうなの?」
「はい…詳しくは後ほど」
どうやら今はやめたほうがいいらしい。
「そうか…それじゃあリエラ嬢ありがとう。出だしはアレだがこれからもよろしく頼む」
「はい、申し訳ありませんでした。これからも宜しくお願いしますね」
そう微笑んだ彼女の顔はとても儚い。
なんだかすっきりしない王都デビューとなってしまったな。
ちなみにリリは冒険者登録をしなかった。
理由としては俺がした事で報復を受けた際、冒険者の肩書きがあると厄介事に巻き込まれてもギルドが関与してこないからだ。ならば一般人としてその保護を受けれるほうがメリットが高い。
それにリリは小さい頃…今でも13歳なので歳で言えば小さいが、昔教会で鑑定を受けてステータスを知っており魔法を行使できるので登録しても一人で出歩くことはないからと本人からも了承を得たためだ。
それじゃあ。とリエラ嬢に挨拶をし、エイルに屋台の件を頼んでギルドを後にした。




