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戦料理人は異世界も喰らう  作者: 世見人白洲
第一章 森の暮らし
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第十七話 鳥と蛇は仲良し

「やっぱり…中は赤身か…」


人魚の男バージョンのようなサハギンは足は魚だが体は人間に近く、尻込みしてしまったが無心で捌いてお頭造りにした。


その味はほとんどがトロのようだが蕩ける事はなく、多すぎない脂は優しい味わいだ。

しかも淡水魚?みたいだが流石ファンタジー、ほのかに磯の匂いが漂っている。


あれこれと準備を進めるとクー達がやってきた。


「お、来たな。結局住処を空けさせちゃったか」


「ごめんなさい。私が勝手にしてしまって」


「いや、いいよ。俺も呼んでもらおうと思ってたし、ファインプレーだ」


「ふぁいん、ぷれい?」


「いい感じって事だよ」


「それはよかったです」


「ミドウさん~」


「結局来てもらっちゃって申し訳ない、来てくれありがとう」


「いいんですよ~今日は外でご飯ですか~?」


「そうだな。なかなか乙なもんだろう?」


「そうですね~久しぶりに魚ですよ~」


「もう少しで多分ラミア達も来ると思うけど…お、噂をすれば」


赤ラミアはスルスルと森の方へ入っていくとまたしてもクーは風魔法で盗み聞きを開始した。


「長、私の勝手をお許しください」


「ふぅ…いいわよ…?話は聞いてるわ…あの人間が?」


「はい」


「あぁ…そう…」


会話が終わると多少の警戒を滲ませながらやってきたラミアは髪が真っ白で腰の部分で軽く纏められている。赤く輝く瞳に瞳孔は縦に割れていた。

アルビノ、なのだろうか?蛇の足の鱗も白く、白皙の肌は白を(かさね)てもその美しさが衰えることがない。



くっと括れた腰に、ピンと突き出した胸はそれなりの大きさだがアンニュイな感じを漂わせ、切れ長だが柔らかさのある瞳は虚ろなようにも見え、その奥に揺らめく炎は隠しきれていない。人に襲われたからわからないでもないが、憎悪…いや、強い興味の瞳か…?見定めるような力強い視線を全身にビシバシと感じる。


大人だ。クーとは違う大人の余裕のようなものが溢れている。俺はこういうのに弱い。

これはまずいぞ…俺は彼女がうわばみでないのを祈るばかりだ。


「話は聞いていると思うが、ハーピーの家族のフジ ミドウだ。ミドウと呼んでくれ」


「…ラミア族の長よ。名前はないわ、好きに呼んでちょうだいな」


好きに呼べと言って勝手に名前を付けてまた従魔契約しちゃいましたーなんて困るしな…同じ轍を踏むつもりはない。


「では、長さんと」


「はぁ…わからないかしら。サービス、してくれるんでしょう?」


「あぁ、今日は大量だからな。御代は最初に約束した話分だけだ」


「あぁ…そういう意味じゃないわ。子供、もらえるんでしょう?」


「子供?!悪いが俺は子供達を貴女達の食料に差し出すつもりはない。無理矢理ならば俺が貴女達を食べさせてもらう」


「あら、わかってるじゃない」


微妙に話が噛み合ってないがどういうことだ?


助けて!リリ助さん!


「なぁ、リリ。なんか話が…」


「ラミアさん達とどんな約束したんですか?」


簡潔に約束した流れを話すとはぁ…とリリはため息をついた。


「何かマズかったか…?」


「彼女達は女性しかいない種族ですので恐らく種が欲しいのでしょう…後はミドウ様はお強いですのでその庇護下に入りたいのだと、つまるところハーピーちゃん達と同じです」


あぁ…そういう事ね…


「あぁ?!」


「あら…アナタ、わかってなくてあんな事を言ってたのかしら?」


「そういうつもりではなかった…」


「困ったものね…でも私達は既にそういうつもりよ?」


すみません、で済む話ではないだろうな。面子と言うものもあるだろうし…


「はぁ…いいわ…困らせるつもりはないもの」


どうするか…長はともかく他四人のラミア達は捨てられた子犬のような瞳でこちらを見ている…


くっ…そんな目で見るんじゃあない!


「わかった…恥をかかせて悪かった。長、貴女の名前はミラだ」


ラミアのミラ。安直だが覚えやすくていいだろう?


「ミラ、ね…気に入ったわ。大事にするわね…」


母は強し…親かどうかはわからないが長の立場であれば他の人は娘みたいなものだろう。


やられた、とは思ったが安易に約束したりリップサービスした俺の不手際だろう。無茶な要望をされたわけではないしメリットもあるのだ。持ちつ持たれつやっていこうじゃないか。


「それじゃあいつまでも待たせても悪いし、今日は出会いと新たな家族に乾杯と行こうじゃないか?」


「そう、ね…ご一緒させてもらうわ。旦那様?」


「?!変な事を言うな!」


ほら、リリさんが睨んでるよぉ…


「あら、ごめんなさいね?」


「本当にやめてくれ…色々あるんだ。俺にも」


と言うか服を着ろ!


慣れって嫌だな…


食卓を共にしながらミラ達が襲われた話を聞くとラミアと言うのは蛇の部分を除けば美女が多いので見つかれば愛玩用などの奴隷として連れ去られる事が多いらしい。


クーやミラ達は魔物だが知性があり、ほとんど人と変わらない。むしろ一緒に食卓を囲みながら笑い合う彼女達はとても穏やかだ。そんな彼女達と言葉も交わさずに襲った冒険者達への不快感は溜まるし、話を聞くほどどちらが獣でどちらがケダモノなのかわかったものではない。


俺が女性との深い関係に傷があること、リリを待たせていることなどと説明し、街に行く事なども伝えると反応はハーピー達と同じだった。

結局、街に拠点を作れば街まで付いていくし、森で暮らすなら一緒に暮らすと。


「いいのか?それで」


「はぁ…それが、いいのよ」


ミラは話をする時、目をじっと見つめる癖のようなものがあるようだ。心の奥底を覗かれているようで落ち着かないが彼女の言葉は不思議な安心感を与えてくれる。


元の世界の現代でこそ一夫一妻制だが大正くらいまでは混浴はあったし、明治などそれが当たり前で江戸など風俗は乱れに乱れていた国の出だ。

一国一城の主であれば奥があり、正妻、妾は当然だったので妻は一人だと言い切るつもりはない。


俺の心がそれを許容できれば、だが。


「わかったよ。これから宜しく頼む。それと、悪いがそういった関係の部分に関してはリリと話をしてくれ。待たせてはいるが彼女が最初に俺に意思を示してくれた人だからな」


「ふぅ…慎重な人ね。わかったわ。それと、明日には旦那様の所に移ってもいいかしら?聞いてると思うけれど、ここの魔物は強くて大変なのよ」


「俺もクーの住処の居候だからなぁ」


「いいですよ~皆で住んだら楽しいでしょうね~」


また風魔法で盗み聞きしていたのか!悪用しなければいいがやっぱりクーはなかなかのくせ者だな。


「そうか…まぁ俺も拠点を手に入れたらどうせ皆で住む事になるだろうしな」


「あら、あっさり決まっちゃったわね。ありがとう、クーさん」


「そんな~いいですよ~」


テヘヘと笑うクーは楽しそうだ。色々とあるかと思ったがそこらへんは心配しなくても良さそうだ。


リリは最近よく俺の近くに来ては難しそうな顔をして静かにしている。邪魔しないようにしているが、何か言いたい時は羽耳がピコピコ動くので察するのは簡単なのだ。


じゃあ今日は皆でここで寝て明日ラミアの住処に行き、必要な荷物を持って帰還しようかと簡単に話を詰めるとリリがタイミングよく寄って来た。


邪魔しないように他者に気を使う、気配り上手だ。


「ミドウ様…」


「すまん、だいぶ待ってたよな。どうした?」


「いえ、あの…血を、分けてもらえませんか?」


「血?いいけど」


「ありがとうございます!」


ぱぁっと笑顔を咲かせるリリは子供のように見えた。彼女はいったいいくつなんだ?聞いちゃいけないと思いつつも気になって仕方がない。


うーん…


「ミドウ様?どうされました?やっぱりお嫌でしたか?」


「いや、歳が…」


しまった!つい考え込んで反射的に答えてしまったのだがリリは、どういうこと?と頭を傾げている。

えぇい、ままよ!


「ずっと気になってたんだが、リリって歳は幾つなんだ?俺の見立てでは24くらいだと思うんだが」


ふ…俺は悪鬼羅刹が蠢く食の世界に居たのだ。仲居さん達はそういった事にうるさい。

若く見積もりすぎるとナメてるのか?そんなガキなわきゃーねーだろ!とキレ、高すぎるとあら、子皺が…ぶっとばされてーのか!とキレられる。程ほどに大人の色気を匂わせ、且つ歳が行きすぎてもいない色めく24がベストなのだ!


どうだ!


「そんな…行き遅れではありません!」


なにぃ!?何故だ!俺が読み違えた?そんな馬鹿な…

ヤバい。リリだけじゃなくミラやクーからもクズを見るような鋭い視線を感じる。嫌な汗が止まらない…


「ご、ごめんなさい…」


余計な言葉は発しない。今は終始怒りが治まるのを静かに待ち続けるのみ。


「はぁ…私はまだ13ですよ?成人したばかりなんですから」


え?いや、13て子供じゃん…なんでそんなにしっかりしてるんだよ。体も十分大人じゃないか。どうなってるんだ異世界。


「え…」


搾り出した声にキッと鋭い三つの視線が飛んでくる。


すみませんでした…


「ひょっとして知らないんですか?」


「ん?何が?」


「人間族と亜人族以外は10を超えると人間族の大人並に体が成長して13で止まります。それが獣人族と特徴です」


あぁ、そうなの…オジさん、知らなかったよ。アメちゃんいるかい?


つまりこの世界で言えば問題はないが、元の世界の常識でいえば犯罪だ。


なんなのもう…


「私達も~似たようなものですね~」


「そう、ね…」


マジかよ。超生物じゃん。


「となるとクーとミラも若いのか?」


「うふふ~」


「はぁ…旦那様、わからないの?」


俺はなんて愚か者なのだろうか。藪をつついて出てきたのはラミアとハーピーだ。

地獄の釜の底を踏み抜いてしまったようだ…


「すみませんでした」


俺の顔は左右から強烈な攻撃を受け負傷している。片方は骨が砕けるんじゃないかと思うような太い…いえ、美しく滑るような玉のような鱗が生える尻尾のビンタを喰らい、もう片方からは空の王者である鷹よりも鋭い爪によって引っ掻かれ瀕死の状態だ。


そんな俺の頭を膝の上に抱き込み頭を撫でる母性の塊、リリさん。

俺が間違っていました。貴女は立派な女性どころか聖女様です。


頭をガッチリとホールドするとリリの顔が近づいてくる。

駄目だ!まだ13歳にヴェーゼは早い!止めろ!


と思ったらクーに引っ掻かれた傷から流れる血をペロペロと舐め始めた。


「痛く、ないですか?」


「あ、あぁ…痛く、なくなった…」


「ふふっ。よかったです」


そういってまた静かに傷口を舐める。チュッチュと淫靡な音が聞こえてゾワゾワと体に痺れが走る。


助けて!誰かー!


クーとミラは俺に折檻するとふんっと鼻息荒くどこかに行ってしまったので誰も助けてくれる人はいなかった。

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