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戦料理人は異世界も喰らう  作者: 世見人白洲
第一章 森の暮らし
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第十五話 便利な魔法で簡単調理

「まぁ何か作るよ。クー、悪いが食材使わせてもらっていいか?」


「もちろんですよ~」


「ありがとう」


「その、ありがとう…ございます」


「ありがとうございます」


「いえいえ~これからも子供達と遊んでくれればいいですよ~」


ラミア達は誰に言われるでもなくしっかりとクー達に礼を述べていた。こういった礼節を弁えているのはとても大切だ。


子供と遊ぶ事に関しては嫌そうな顔をしていたが見なかったことにする。彼女達が嫌がろうがここに来ればハーピーの方から飛びついて行くだろうからな。


話もそこそこに、クーとハーピーに抱えられて川の部屋まで戻ってくるとオーモの実やら拳大のどんぐりのような木の実、キノコ類に狼や鹿など山盛りの食材達が並べられていた。


「おぉ!皆頑張って取って来てくれたんだな」


「ミドウさんのおかげで今日は皆調子がいいみたいですからね~」


「それはいいことだな」


褒めて!とハーピーが群がってくる。血で汚れている子はおらず、皆しっかりと水浴びを済ませているようだ。

モミクチャにされながらしっかりと余すことなく可愛がっておく。


「ミドウ様!ご無事で!」


「あぁ、大丈夫だ。この子達が来ていてな。お客さんだ」


リリがちらっとラミア達を見たのだが当の彼女達は獲物の山を見て呆然としていた。


「「すごい…」」


ラミア達からしたら驚いても仕方ない。ここの魔物は強いらしいからな。それが山のように詰まれていたら誰でも同じような反応だろう。


「だが、取り過ぎても駄目だぞ?保存用に取るのはいいが肉なんてのは燻製にしたりしない限りは痛むからな。無駄にするのは良くない」


「燻製ですか~?」


クーは燻製を知らなかった。

肉を生で喰らい塩を舐めていたくらいだから仕方ないか。この子達にはこれから色々なものを食べさせてやりたいものだ。


「燻製ってのは食材を長く保たせるための処理のことだ。クーが舐めてた塩とかに漬けたり燻したりして水分を飛ばしてするんだが、それはそれで味わいがあって美味いぞ。そのうち作ってやるからな」


待てよ…?ハピ子にはよく水浴びした後に水分を吹き飛ばしてもらっているから魔法のファンタジーパワーで一瞬で作れてしまったりするのか?だが熟成のことも考えると…


「ミドウさん~?どうしたんですか~?」


「あぁ、申し訳ない。ちょっと考え事をしててな。…なぁ、クーさんや。ひょっとして肉の水気を風魔法で飛ばして乾燥させることって出来ない?」


「ん~そうですね~。風魔法だけだと難しいかも知れないですけど~私は火魔法も使えるので併せれば出来ると思いますよ~」


そうか…熟成は時間がかかるがクーの魔法なら燻すことは出来るか。となれば後は何かチップがあればいいがとりあえずオーモのピールで燻してみるか。


湖に行くのに弁当が欲しいからな。できれば万々歳だ。


「申し訳ないが後で試してもらってもいいか?」


「いいですよ~」


「ありがとう。じゃあちゃちゃっと準備するから皆、皿の準備頼むぞ。ってだいぶ待たせてたな」


声を掛ける前にハーピー達はラミア達の分までしっかりと皿を用意しており早く早くと待っていた。


リリは近くから離れたくないようなので手伝ってもらうことにする。

今日のハーピー達はお客様ではなく家族の食卓で、お隣さんとの交流会なのだ。身内に手伝ってもらう事に否はない。


「じゃあ、リリ。包丁を一本貸すから俺の真似をして切っていってくれ」


「はい、お任せください」


ふんっ!と鼻息荒く意気込んでいるが力が篭り過ぎるのはよくないぞ?


なんでもないような会話を二三交わしてリリの力を少し抜くと狼と鹿を手早く解体していく。


狼は筋張っていたので強めにボイルし、細かく切れ目をいれてキノコと炒める。


鹿は木の実と和えて焼いた。昨日とも食べたからクドイかと思ったが風味付けにオーモを使用したが皆は気に入ってくれているようなので問題はなかった。


木の実はどんぐりやナッツのように香ばしく、ふんわりと柑橘が香り、炒った木の実と鹿肉の力強い野性味が胃袋を刺激し、狼肉は森の香りに隠れるような獣の臭いが生への活力を滾らせ、歯ごたえのあるスジ肉は獣欲を剥き出しにする。

全て一口サイズなので指で摘まんで食べるのだが熱いので少し冷ましてから出す。出来ればアツアツで食べて欲しいが箸もフォークもないのに持たせたら焼けどしてしまうからな…その為にボイルをして焼き上げても硬くならないようにしっとりと仕上げている。


食べ始めるとすぐさま顔に笑顔を湛えてそこかしこからおかわりの叫びが飛び交い、洞窟内はコンサート会場の様相となった。


やっと皆の腹が満足し始めた頃、解体していて少し気になった事があったのを思い出した。


「なぁ、リリ。ちょっといいか?」


「はい、どうされました?」


「大熊を解体したときから気になっててさ、狼と鹿もなんだけどオークからは魔石が出ただろ?なんでさっきの獲物は魔石がなかったんだ?ひょっとして気付かずに料理に混ぜちゃった?!」


「魔物には二種類いるんですよ」


初耳だ。


リリ曰く、野生の動物が強い魔素と言うのに晒されて魔物化したものは魔石がなく、魔素が集まる魔素溜りと言うところから発生した生粋の魔物は魔石があるのだとか。


その違いは進化するか否か。と言うことらしいが進化云々は謎が多いので実際は良くわからないらしい。


まぁ研究者じゃないとそういったことはわからないよな。


「いつもありがとう」


「いえ、お役に立てたのなら」


おや?いつもとちょっと違うな。卑下する事がなかった。料理を手伝ってもらったからだろうか。詳しい原因はわからないが、このまま良い方向へ進んで欲しいものだ。


「さて、ラミアさん方や。腹はどうだ?」


「お、美味しかったわ。ありがとう」


「ありがとうございました」


「そうか、お土産だがクーと少し試したいからちょっと待っててくれ」


「わかったわ」


「お願いします」


「と言うわけで食べたばかりで申し訳ないが協力してほしい」


「はい~楽しみですね~」


しっかりと食べて元気なクーは嫌な顔をせずに協力してくれるのでありがたい限りだ。


魔法は便利なもので、指定した範囲のみに影響を与えると言う使い方が出来るらしいので岩の上に肉を置いて実験を開始した。


「ほら、そこだ!もう少し!」


「うぅ~難しいですねぇ」


頑張れ頑張れと俺はクーを応援することしか出来ないのが歯痒い。


感覚しか言葉に出来ないので風や火の調整に失敗して丸焦げにしたり変に水分が残っていたりと何回か挑戦したが割とあっさりと成功してしまった。流石と言うべきかクーは魔法の扱いに長けているようだ。翼だけじゃなく風魔法で気流を操作するらしいので当然らしいが、なんか悔しいじゃないか…


「できちゃったな」


「次は子作りですね~」


「そっちはできないな。そもそも俺が居なくても卵産めるんだろ、何言ってんだ」


「そういう問題じゃないんですよ~?どちらでもできるんですから、可愛がって欲しいじゃないですか~」


「駄目だ」


も~強情ですね~と膨れるクーは見目麗しく、性格は子供っぽい。そんなギャップにドギマギとしてしまうが、譲れないものは譲れない。下種なやり取りは嫌いじゃないが行為自体は神聖なものだ。そこを冒涜するつもりはない。


「そういえば~後数日で卵産めますよ~」


「早いな。そんなに体調良いのか?」


「美味しいものいっぱい食べさせてもらってますから~」


嬉しい事を言ってくれる。


自分が料理人だと言う矜持はあってもやっぱり素直にそういってもらえるのは嬉しくてたまらない。


隠していたつもりだったが顔が笑っていたんだろう。クーがふざけて翼で顔をつついてきた。


「も~何ニヤニヤしてるんですか~?」


「何でもない」


「うふふ~そうですか~」


クーにイジられてしまったが、心は充足感でいっぱいだ。


「そんなことより燻製が成功したんだ。オーモで風味を付けてラミア達に持たせてやってもいいか?」


「いいですよ~」


「ありがとう」


礼を述べるとクーはニコニコと笑っている。溢れ出る母性に俺の精神は幼児退行を起こしかける。


くだらない策略を巡らせる輩は大嫌いだがこの程度なら可愛いものだ。クーの場合は策略を考えているのかも知れないが嫌味がないから大丈夫なのだろう。


ラミア達に群れの人数を聞くと長を入れて5人と言うので残りは三人分。


「少ないんだな」


「私達は元々滅多に人が来ないところに居るしね。女しか居ないから少ないのよ」


なるほど。種がないのか。デリケートな話なのであまり突っ込んだ事を聞くのはよしておこう。


「そうか。そうだ、これ。言ってた土産だ。皆で食べてくれ。」


二人には山盛りの蔦でくくった燻製肉を抱えきれない程渡した。どれくらい話し合いが長引くかはわからないが数日なら持つだろう。


それじゃ、楽しみにして例のアレ!行きましょうか!


「それで、悪いんだが湖まで案内頼めるか?」


「いいわよ。ちょうど帰り道の方だし」


「ありがとう」


「私も行きます!」


リリも行きたがっているのだがどうしたものかな…ずっと洞窟に押し込めておいても気が滅入るだろうから何とかしてあげたいが…


「子供を数人連れて行けば大丈夫ですよ~」


心配しすぎて悪い事はないがそれに囚われても仕方ない。それに自由意志だ、尊重するべきだろうな。


「それじゃあ申し訳ないが子供を数人、リリの護衛に付けて欲しい。リリもそれでいいか?」


「はい!」


「いつもの子と別の子数人に伝えておきますね~」


最初こそリリとバシバシやっていたがクーと従魔契約してから他の女性…と言っても皆そうなんだが、リリは対立することなく上手くやってくれている。諦めたのだろうか?だとしたら少し申し訳なくはあるなが…


「ハーピー達が居るからと油断はしないでくれ。もし危険だと判断したらまた逃げてもらうからな?」


「はい…!」


静かだがリリの瞳は以前とは違う力強さを秘めていた。


これならば腰を抜かして逃げる事すらままならないなんて事はないだろう。


「それじゃ、準備ができたら出発だ!」

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