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戦料理人は異世界も喰らう  作者: 世見人白洲
第一章 森の暮らし
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第十四話 お隣さん家の食料事情

クーは風魔法で哨戒に当たっていたハーピーからの連絡を受けたようだ。


「お客さんって言うと、あれか?ラミア?」


「そうです~いいタイミングですね~」


「本当にね…」


些かタイミングが良すぎる気もするが縄張り関連なら連日でもおかしくはないのか?

反撃を受けて怪我でもしていたら別だがクー達は実力に差がありすぎて遊んでいるだけの感覚のようだったしな。


「今は見張りの子達が牽制してるので~行っちゃいましょ~」


リリもきたがったがお留守番だ。


大熊戦で元の世界では感じた事がなかった危機感を味わった。

魔法があり強大な魔物が闊歩するこの世界に対して大きな武器である情報をほとんど持ち合わせていない。

俺は所詮人。大切なものなど胡坐をかいていれば小さな手からするりと零れ落ちていくだろう。

夢物語の英雄のように全てを護る事が出来るなんて思い上がってはならない。だからこそリリをラミアの前に連れ出すことは出来なかった。


情けない奴だと言ってくれてもいいと説得すると悔しそうな顔をして瞳に涙を溜めながらだったが一応は説得に応じてくれた。

お守り代わりとしてコック服を持って行かれたので俺はまた半裸男だ。ラミアじゃなくても半裸男が現れたら警戒すると思うんだがなんとかならないだろうか…と言うかお守りってこの場合俺が貰うんじゃないの?俺がおかしいの?もうわからないよ…


心配事が山盛りで気落ちする俺とは対照的なノリノリのクーに運ばれて住処の入り口まで行くとハーピーが二人のラミアの周囲を飛び回っている。


襲っていると言うよりは遊んで欲しくてちょっかいをかけていると言った方がいいだろう。


「いつもあんな感じ?」


「あんな感じですよ~」


ラミア達は想像通り腰から下が蛇のようになっており肌は透き通るように白く、蛇の足は滑らかな鱗が妖しく艶めき立ち、体はしなやかで女性らしい膨らみがその美しさを際立たせている。髪は二人ともリリと同じく肩口でサイドテールにされおり鈍色の緑と赤は太陽の光を反射して煌いている。


一応分類は魔物だからそういった文化がないのかもしれないがもう少し恥じらいを持って欲しい。


ハーピー達もそうだが服を何とかせねばならんだろう…


そんなハーピーを含むハレンチ魔物達の微笑ましい光景にほっこりし続けるわけにはいかない。とりあえず何しに来たのかくらいは聞いておかないといけないか。


「おーい、子供達ー。戻ってこーい」


『『『ピェエ』』』


「よしよし、住処を守ってくれてありがとうな」


ハピ子のように撫でてと両脇と正面から抱きついて頭を摺り寄せてきたので順繰り頭を撫でていく。


幸せそうな顔だなぁ。


こっちまで嬉しくなってくるじゃないか。


でもラミア達に対応するのが先だからまた後でな?とハーピー達を剥がした。


俺じゃなくてハーピーに用があって来てると思うんだがクー達はやりたがらなかったので窓口係として俺が表に立つことになったのだがラミア達は小声で何か話している。

クーが風魔法で声を拾えますよ~と言うので盗み聞きなんてと思ったがお願いした。


「ねぇ、なんでハーピーの住処に人間?」


「わからないわよ…」


「どうしよう?」


「どうしようかしら」


何やらお困りの様子。


知性があるとは聞いていたが話し合いの解決も期待出来そうだし、そろそろ用件伺いしても大丈夫だろうか?


「どうも初めまして。この度ハーピー達と従魔契約を結んだフジ ミドウだ。ミドウと呼んでくれ」


「ハーピーと従魔契約ですって?!」


「どうしよう?ねぇ、どうしよう?」


赤い髪のラミアは少し強気で緑の子はあまり主張をしないタイプみたいだ。

長いから赤ラミアと緑ラミアと呼ぶ事にするが見ていたときから赤ラミアの肩に掴まってずっとどうしようどうしようと言っている。もう少し自分の意見を持った方がいいぞ?と言うのは余計なお世話だろうな。


「わかってると思うけどその気だったら君達は既に生きていない。だけど俺もハーピーも戦う気がないからな、無理に戦おうとせずに話し合いで解決したんだが」


「し、仕方ないわね。襲わないでよ?」


むしろ襲ってきたのはそっちでは?と思っても言わない。

でも実は凄く言いたい…!


「襲わないよ。クーは聞いた事なかったみたいだから聞かせて欲しいんだけどいつも何しに来てるんだ?」


「食べ物をちょうだい!」


「お願いします!」


素直すぎる…それくらい切羽詰ってると言うことなのだろうか?


「食べ物はないぞ。クー…ハーピークイーンから聞いたがタイラントマッドグリズリーなら既に倒したから自分達で狩りに行っても大丈夫だと思うぞ?」


「ここの魔物は強すぎるのよ…」


「あはは…」


「え?じゃあ今までどうやって生きてきたんだ?」


「私達は流れなの。元々は別の森で暮らしてたんだけど人間達が襲い掛かってきたから長に連れられてこの森にきたんだけど、どこを歩いても凶悪な魔物ばっかりで狩りなんてとてもじゃないけど出来ないわ」


「私達は薬草育てたり川で魚を取って食べてたりしたので…」


「はぁ~…お前達よかったな、襲ってた相手が温厚なハーピーの群れで。じゃなかったら今頃骨までしゃぶり尽くされてるぞ?」


「どこが温厚なのよ!私達は挨拶に来たら襲われて、ご飯を分けて貰えないかとお願いしにきても襲われたんだから!」


「本当に怖かったですよ?」


なんていうか、悲しい擦れ違いって奴だな…

クーは縄張り争いって言っていたが喋れるってのを風魔法で勝手に盗み聞きして確認したのみで後は子供達がじゃれ付いてただけのようだ。

ラミア達からしたら自分達より強い魔物が飛び回ってるんだから襲ってきたと思われても仕方ないが…


「あー…それは悲しい誤解と言う奴で…」


「死にそうなのよ!食べるものがなくて!誤解じゃすまないわよ!」


「もう長も私達も限界が近いんですよ」


赤ラミア達も必死だな。まぁここは滅魔の森のほぼ中層、ラミア達の群れが生きているほうが奇跡に近い。


クー達とは話てあったしお隣さん?になるんだ。俺自身の住処を手に入れるまで仲良くやってて欲しいし、手助けするとしよう。


「よし、わかった。俺は料理人でな。そっちがいいなら料理しに行くが、どうする?」


「大丈夫なんでしょうね?」


「食材もお金もないですよ?」


「大丈夫かどうかは自分達で確かめろ。仮に俺が最高に美味い料理を作れますって言って信用できるか?そういうことだ。御代はハーピー達と仲良くしてほしいって事と、何か面白い草を育ててたら分けてもらいたい。薬草育ててるって言ってたし、詳しいんだろ?」


「その通りね。私達は毒も聞かないし、臭いでわかるから」


「詳しいですよ。ずっと薬草と一緒に育ってきましたからね」


「じゃ、そういうことで。でもこの話はお前達が勝手に決めてもいいのか?俺は人間だし、いきなりそっちの住処に行くとよくないんじゃないか?」


「そうね。この話は悪いけど一度持って帰らせてもらうわね」


「すみません」


「構わんよ。むしろ知らせずに行って変に緊張状態になられても困るしな」


「じゃあ帰らせてもらうわ。出来れば、また来た時に襲ってこないようにしてもらえるとありがたいわ」


「ありがとうございました」


「襲ってた訳じゃなくて遊んで欲しいんだよ。可愛いだろ?」


「怖いものは怖いの!」


「やっぱり怖いです」


「そうだ、ラミアって魚じゃなくて肉も食えるのか?」


「お肉?!もちろんよ!」


「私達はあまり戦うのが好きじゃない種族ですので魚が大半なんですけどね」


「そうか、それがわかれば十分だ。おっと、そういえば腹を空かせてたから来てたんだよな?忘れてた。腹を空かせてる奴がいるのに黙って返すつもりはないからな。狩りに行って来るからゆっくりして行けよ。ちゃんとお土産も用意するぞ?」


「お土産…」


「お腹空いた…」


「ミドウさん~もう少しで子供が狩りから帰ってくるので~行かなくても大丈夫だと思いますよ~?」


「え?そうなの?」


ビシっと決めたつもりだったのだがクーは元気になったハーピーに狩りに行かせていたらしい。子供達は二桁以下しか近くには居ないが残りは狩りに行かせてたみたいだ。

ポヤポヤしているように見えて抜け目ないな、流石はクイーン。その能力を少しで良いから別の所でも発揮してください。


「オーモのお肉美味しかったので~子供達は色々持ってくると思いますよぉ?」


「そうか…ありがとう」


出来れば自分で狩りがしたかった!と思ってもそれは我侭だろう。クー達も昨日は腹いっぱい食べたようだがそれでも一食だ。残念だが今回はもらった食材で作るとしよう。


だけどやっぱり異世界の面白食材探しに行きたい…それに肉ばっかりだから魚も食べたくなってきたしな。


「なぁ、クーさんや。どっかに魚が取れる場所、知らない?」


「ん~。ちょっと聞いてみますね~」


「宜しく頼むよ」


クーは何を考えてるかわからないような惚けた顔をしている。恐らく集中しているんだろう。


良い所知ってるといいな。と思っていると思わぬところから耳寄りな情報を得ることができた。


「私達良い所知ってるわよ」


「でも、サハギンとかリザードマンがいるから危ないかも」


「サハギン?リザードマン!?教えてくれ!」


「ちょ、ちょっと!放してよっ」


「わ、わわ!」


さぁさぁ!早く!と詰め寄って赤ラミアの肩をがっしり掴んでしまった。その肌は少しひんやりとしていて心地良く、手の平に吸い付く様な肌はまるでエナメルのようでクセになるような味わいある肌だった。


「も、申し訳ない。」


「なんなのよ、もう…怖いじゃない…」


「はぁ~びっくりしました」


「お詫びにサービスするからさ」


「「サービス…長にも伝えておきます」」


「ん?よくわからんが、宜しく伝えておいてくれ。それで?どこにあるんだ?その宝石箱は!」


「ミドウだっけ?宝石箱ってなんのこと?」


「だからその湖だよ。サハギンとかリザードマンがいるんだろ?俺見た事ないんだよ!美味そうな響きじゃないか!」


「「「えぇっ?」」」


俺は何かおかしい事を言ったのか?クーすらもラミアと往年のマブダチの如く息のあった返事をくれた。


「食材だろ?立派な」


「食べないわよ…」


「普通は魚で…」


「私も~流石にそれは~」


「食うんだよ」


「嫌よ」


「ちょっと無理です」


「困りましたね~」


「食べてみたら美味しいかも知れないだろ?俺は食うよ。絶対な」


「私は絶対嫌だからね!」


「私はお肉をお願いしたいです…」


「私も~肉が好き~」


許せねぇ…絶対後悔させてやる。待ってろよ、サハギンとリザードマン達よ。

お前達の不名誉は俺が返上してやるぜ!

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