第十一話 謎の一つは不名誉だった
とりあえず俺はハピ子が皆が腹を減らしていると言うから料理を作りに来たんだ。
俺が喰われる為に来たわけじゃない。
「深い事情は話したければ話せばいいが、今は腹を満たす方が先決だろう?お前達の腹は料理の方で満たしてやる」
「やっぱり、ミドウさんは面白いですねぇ~」
「ま、料理人ってのは我が道を行くと言うか、変人が多いからな」
そういって二人で笑いながら食料庫に連れて行ってもらったんだが食料庫の中は…空だった。
正確には俺が倒したタイラントマッドグリズリーとオーモの実がそこそこの量転がっているだけ。
「これだけ?」
「はい~これだけですぅ~」
「なんで?と言うか何喰って生き残ってたんだ?」
「私達も強いって自覚はあるんですけどねぇ。あんまり縄張り争いが好きじゃないって言いますかぁ…食べ物はその、テキトーに~?最近は子供達も出歩かないように言ってたんですけどぉ、ついに食料がなくなってしまいまして~。その結果ミドウさんに会えたのは良かったですけど~」
「テキトーってクーさんよぉ。優しいのはいい事だけどお前達は生きていて、ましてや群れなんだから、もうちょっと、な。で、相手は?」
「ラミアですぅ」
「何かやったのか?」
「私達は何もしてませんよぉ?中層から降りてきちゃった魔物が強すぎて~食料不足になったんじゃないですか~?でもぉその問題も解決ですね~」
「なんでだ?」
「ミドウさんが倒しちゃったからですよぉ」
「そ、そうか。ならよかったな」
どうやらあの大熊が問題だったようだ。そりゃそうか。ハーピーの長ですら凶悪と言っていたんだ。
地上にいたら凄まじい暴虐の嵐、飛べても雷を落とされる。うん、ヤバイな。
そりゃあんなのが闊歩してたら迂闊に出歩く事もできないよな。あんなピーピー言って眠る子達の不憫さを思うとオジさん、涙が出ちゃうよ。
「ならさっさと食べるか。水ってあるか?」
「洞窟内に沸き水があります~。案内頼みますね~」
「ピィ!」
クーが一声かけるとハピ子が元気に返事をしていた。
「じゃあまた後で。ハピ子、宜しく頼む」
「はぁい。また後で~お料理楽しみですぅ」
「ピィ!」
じゃあな。と挨拶を済ますとハピ子がまた俺を抱えて飛んでくれた。重いのにありがたい事だ。
今度はどこまで移動するのかと思ったらすぐ隣の部屋に入った。
歩いていけるじゃねーか!
でも飛ぶのは面白いので言わない。
「ありがとな」
「ナでて!」
そういって頭を押し付けてくる。完全に懐かれてる…娘が出来た見たいで本当に可愛い。
お礼代わりによしよしと指通りの良い髪が生える頭を撫でておく。
沸き水と言うから染み出たものかと思ったら小川が流れていた。
部屋は涼しく、水も清潔そうだ。
「いい住処だな。川もあるし、綺麗だし。ハーピーって綺麗好きなのか?」
「そうだゾ!」
そう言うとハピ子はいきなり川に飛び込んだ。
あぁ…ここ君達のお風呂でもあるのね…溜池じゃないから水は綺麗に保たれてるんだろうけどさ。
俺も入らせてもらおう。散々粗相を受けたからな。
「俺も入っていいか?」
「ピィ!」
良いって事だろう。
ズボンを脱ぎ、洗っておく。
川の水は冷たく、心地良い。横になって足を伸ばせば対岸に出てしまうがU字のように少し川底が低い。
「あぁ~きんもちいぃ~」
風呂ではないから芯が温まる心地良さとは違うが冷えた水が体の痛みを取り除いてくれるような気がして蕩けた声を出してしまった。
「気持ちイいナ!」
「おい、腹の上に乗るな」
さっきまで離れていたハピ子がいつの間にか腹に乗っかって顔を摺り寄せてくる。
顔が近いって!
そんな事を言っても多分こいつは理解しないだろう。希望があるのはクーだけだが…期待しないほうがいい気がする。
言っても理解しないし、聞いちゃいないから諦めて二人で親子のように十分水に浸かるのもそこそこにした。
あ、体を拭くものがない…ハピ子はどうするんだろうかと思って眺めていると風魔法か何かを使って水を飛ばしていた。
「お前ズルいな!俺にも頼む!」
大人気ない、なんて言うのは勘弁してほしい。
俺は魔法がまだ使えないんだ。使えるかもわからないが。
「ピェ!」
ハピ子は近くまで寄ってくると小さく鳴いた。するとスプラッシュと言わんばかりに体についている水気が吹き飛ぶ。すごい爽快感だ。癖になったらどうする!これからもお願いします!
この後の行動は理解している。
「よしよし、ありがとうな」
俺を新しい境地に導いてくれたハピ子には大奮発して頭を胸に抱えて撫で繰り回し、ついでに羽もワシャワシャと軽く揉んでやる。
「ピェェェ…」
「なんだ?!どうした!」
…刺激が強すぎたようだ。へたり込んで…いや、デリケートな話なのでやめておこう。兄弟諸君の想像力にお任せするとしよう。
余程恥ずかしかったのかピヨピヨと泣くハピ子と一緒にいると可愛そうなので平らな板と火を起こす材料、料理を置ける何かをクーに伝えて持って来て欲しいと頼んでおく。立ち直るには時間が必要だしな。
本当なら自分ですべて準備したい所だがこの洞窟はハーピーでなければ移動が大変なのだ。それに探しにいっていると肉も痛むだろうからな。
食器に関してもそうだ。料理によって皿と言うのは変える。熱いものが冷めにくいように、料理の色合いと皿の絵柄と色合いで食欲をそそるように、より美しくなるように。今は諦めることが多すぎて悔しさで唇を噛み切ってしまった。
「いかんな。今は出来るもので最高を出すだけだ」
頭に浮かぶのは一緒に寝てたハピ子達ハーピーとクーとリリの笑顔。
それを得る為の妥協は許さない。
「塩が欲しい…」
何かないかと考えているとクーがいつの間にか部屋に来ていた。
「頼まれ物は~後で子供達が持って来てくれます~」
「それを伝えに来てくれたのか?ありがとうな」
「いえいえ~それで、塩ってなんですかぁ?」
塩を知らないだと…?魔物だから当然か?ひょっとして…
「今までどうやって飯食ってたんだ?」
「もちろん、獲物を捕らえたら~そのまま爪で引き裂いて~」
「あ、もういいです」
聞くに耐えない!こんなに綺麗で可愛い子達が獲物の腹を割き、血に塗れながら生肉を喰らう?怖すぎる…
「そうだ。塩ってのは…んーなんて言うか、しょっぱい岩?」
「はぁ~…よくわかりませんがぁ肉を食べながら舐める水晶なら~ありますよ~?」
肉を食べながらペロペロと水晶を舐める彼女達を想像して背筋がゾクゾクとしてしまう。
なんと言う淫靡な光景なのだろうか背徳的すぎる!
料理は想像力も大事になるからな。俺が想像力豊かな変態なのではない。必須能力だ、いいな?
クーにその水晶を持ってきてもらうとクーに進められるがままに舐めてみるとまさに岩塩だった。
しょっぱいのだが、甘味が強い。オーモの実と併せれば十分使えるものだ。
だが、これ…クーが舐めた奴じゃないよな?滑らかに穿たれた窪みがあるんだが…聞くのは怖いが聞かずにはいられない。
「なぁ、クーさん。これ、今壁から持って来てくれた新品…だよな?」
「いいえ~?それはぁ私がよく舐めてる~」
「いい!わかった。新品をくれ、っな!」
「えぇ~?それでは駄目なんですかぁ?私がいつも舐めてるので~肉の味も染み込んでて~美味しいですよねぇ?」
「そういう問題じゃないんだ。はい、頼むよ!」
「んっ…ちゅっ…はぁ…」
「やめんか!」
クーに岩塩を渡すと翼で器用に受け取ると俺が舐めていた部分を舐め始めた。顔はほんのり紅潮し、垂れ気味の目と合わさりその顔は非情に蕩けている。
なんでこの世界の女性は魔物を含んでこうも挑戦的なのだ?
世界よ、俺を試しているのか?いや…待てよ?俺、もう30歳じゃねーか!結婚するまでしないと言い続けては愛が重いと女性に裏切られてきた。
つまり俺は魔法使い…だから異世界に…?くそがああああああ!でも最高の誕生日プレゼントをありがとう、神様。