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戦料理人は異世界も喰らう  作者: 世見人白洲
第一章 森の暮らし
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第九話 ここは食材の万魔殿や!

戦闘描写あります。苦手な方はご注意ください。

「なぁハーピーよ?お前、俺の言った事覚えてるよな?」


「ッピ!」


都合が悪くなると定期的に言葉を忘れやがるな。中途半端に賢いからか?可愛いから許しちゃうけど。


「俺達がお前達の住処に行く事を伝えて欲しいんだが」


「オ腹すいタ!」


「住処に行けないほどか?」


「ピィ!」


なるほど。

だからこいつは俺にくっ付いて体力の消耗を防いでいたという事か。


それだけじゃなさそうだけどな!でもいつまでも腹を減らせたままってのも据わりが悪いな。


「お前なかなか元気に騒いでたからまだ大丈夫だと思ってたが食材見つけたら何か作ってやるからもうちょっと我慢してくれ。リリも腹減ってるよな?申し訳ない。」


「いえ、私は慣れていますので」


「慣れているだけで腹はへってるだろ?それは大丈夫って言わないんだよ」


「ごめんなさい…」


「謝るような事じゃないんだけどな」


俺も若干腹が減っているから血をわけて動けなくなるのは困る。獲物を仕留めれば皆で食卓を囲めるからな。目いっぱい腹を空かせて皆で最高に美味しい食事をしようじゃないか!


気を取り直してハーピーにいい場所を教えてもらいながら森を進むとやんわりと柑橘類の匂いが漂ってくる。


「お?いい香りがするな?」


「ココはすっぱイ実が生エてル。ソレを食べにエサがクるゾ!」


「ひょっとしてオーモの実でしょうか」


「リリは食べた事あるのか?」


「私もあまり食べた事はないですが、熟れた果汁はほんのり甘くて美味しかったですよ」


「それはいい事を聞いた。見た目がわからないからリリに任せてもいいか?」


「はい。お任せください!」


リリの気分転換も出来るだろうし、いいタイミングだ。


「肉肉肉肉!」


「わかったわかった!獲物を見つけたらな!」


ハーピーは相変わらず騒がしく、腹が減って更に喧しくなってきた。


これはなるべく早く腹を満たしてやる必要がありそうだ。


大物狙いでいきたいところだが他のハーピー達の食材も確保しないといけないし、軽く食べたら応援を呼んでもらおう。時間がかかると食材が悪くなるから住処の場所の確認も必要か。


「ところで、ハーピー達の住処ってどの辺りなんだ?」


「崖!」


「崖?まぁ飛べるならそういった場所の方がいいのはわかるんだがもう少し具体的に…」


「ミドウ様。恐らくハーピーは浅層と中層の境界線の崖に巣を作っているのだと思います」


「境界って崖になってるんだ?」


「はい。謎の一つなのですが一部に上にあがる為の階段がありそれ以外は切り立った崖のようになっています。ですので中層から浅層に強い魔物は滅多に来ませんし、実力のない冒険者が浅層から中層に行かない為の目印になっています。もっとも、中層の境界線付近はハーピーのように特殊な生態系の魔物が多く生息し、中層と違わず強力な魔物が多いらしいですが…」


「リリは物知りだな。わかりやすく教えてくれてありがとうな」


「いえ、そんな…」


リリはその都度様々な情報をくれるので助かっている。


「ハーピーさんや。お前さん達の住処は近くなのか?」


「ピェ!近いゾ!」


近いと言う事は中層に近くなっていると言う事。これは大物が期待できそうだ!


魔物の来訪を期待するも虚しく静かに土を踏みしめる音だけが続いていた。


リリと洞窟を出たのが早かったのが幸いし、未だ太陽は頭上で煌々と輝いているのでまだ暗くなる心配はしなくてもいいだろう。


結構時間が経っていると思っていたがそれ程ではなかったようだ。あまりに濃密な出会いが多く、そんな気持ちになっていたという事か。


センチメンタルな気分に浸りながら散策しているとリリが何かを見つけたようだ。


「ミドウ様!見て下さい!あれがオーモの実ですよ」


オーモ?生え方が違うがそのままオレンジじゃないか…


地面から生える細長い枝からゴロゴロとたわわに実っている。ただ、やっぱりインパクトは少ない。


異世界初の果物はオレンジ。もっとヤバ気な…いや、知っているものでよかったと思っておこう。


それで、味はどうだ?


枝からもぎ取り表面を水で軽く流すと包丁で三等分に切り、実と皮を分けて渡す。皮も食べれるからね。実だけ渡すなんて事はないぞ?


つまり食え、と言う事だ。


「はい、二人とも」


「ありがとうございます」


「ピェ!食べれナイ!」


「お前は食べさせてやるからちょっと待っててくれ」


「ワかった!」


ハーピーは相変わらず俺にくっ付いているし、何より手には羽が生えてるから物を掴むのは基本足になるから食べるのにも一苦労だろうから仕方ないことなんだ、リリ。

頼むからそんなに睨まないでやってくれ。俺の顔の横にハーピーの顔があるから俺を睨んでるみたいで怖いんだ…


そんな視線から逃げるように心の中でいただきますと唱えてオーモの実を食べる。


ハーピーはすっぱいと言っていたがそんな事はなかった。


リリの言う通りほんのり甘く、さっぱりしていて酸味は弱い。

これなら肉を柔らかくしたりするのにも使えるな。

匂いも強くないので良い風味付けにもバッチリだ。


しかしピールはハーピーの言った様に非常に酸っぱい。


この酸っぱさはレモンだ…レモンピールとしての使い道もあって一つで二役こなせるオーモの実は思わない収穫だ。


「これはいいぞ!うん、果実は美味い!お前今まで皮も丸ごと食ってたんだろ?ほら、実は美味しいから食べてみろ」


ハーピーの口にオーモの実を入れてやる。


「ピッ!オいしイ!もっともっと!」


この欲しがりさんめ!好きなだけくれてやる。だがな、俺の肩口にボタボタと果汁を零すのをやめろ!


「おい!」


「もっと!」


駄目だこいつ。人の話を聞いちゃいない。


とりあえず落ち着くまで食わせるしかないか。


次のオーモの実を取ろうとするとリリがこっちをじっと見つめていた。

静かだとは思ったがその目は親の仇を見るように濁り切り、手は黙々と果実を口に運んでいる。


ふぅー…ヤバい、ヤバすぎる。完全にトランス入ってしまっている。


何も見なかった。俺は何も見ていない!瞼を閉じ、視界に何も入れないようにする。


「う、美味いか?」


誰に問いかけたわけでもない。


しかし、その返答は思わぬ来客によって応えられた。


「グアアアアア!」


「なんだぁ!?」


「きゃあ!」


「ピェ?!」


目の前に現れたのは額から鋭い角を伸ばし、雷を鳴らしている赤い体毛の4メートルはあるだろう大熊。

見るからに強そうだ。


君達、ソナーはどうしたんだい?野生の勘は?

食事に夢中になって忘れていたのか?

俺も色々な事に気を取られすぎたから非難などできない。


リリは地面にへたり込み、ハーピーはビビってまた俺の背中を濡らしている。ひょっとしてそんなに強いの?それとも驚いたショック?


考えるのは後だ。


「ハーピー!危険だ、離れろ!」


「ッピッピッピ!」


本能に従ってかハーピーは離れ、中空に停滞して時計のアラームのように一定の鳴き声を上げている。危険信号か何かだろうか。


という事はBランクの魔物ですら危険な相手と言う事になる。

リリから聞いていた話ではハーピーは群れになるとAランク中位程の脅威だというので応援を呼んでもらうべきだろう。


「リリをつれて住処まで行け!そしたら応援を連れてきてくれ!頼むぞ」


「あっ…あ…」


リリは割座から立ち上がる事もできない。この場にいるのは危険すぎる。

糧を得る為に危険を冒すのは当然で覚悟もしている。だがそれは俺の覚悟であって他の者がどうかはわからない。

今わかるのはリリにこれは重過ぎると言う事だけだ。そうでなければ敵前で腰を抜かすなんて事は出来ない。そんな事をすれば抵抗しないので食ってくださいと言っているも同然だ。やるならば徹底的に、だ。


「リリ、悪いがハーピーと行け」


「そ…な…」


熊の強烈な威圧を受けて息も絶え絶えなのに渋っている。厳しいようだが現実を見てもらう他ない。


「戦う力を付けろなんて事は言わない。だが威圧を受けて動けなくなるようでは死ぬだけだ。ハーピー、行け!」


反論も同意もいらない。


ハーピーが凄まじい速度でリリを掴み飛び去るのと同時に熊が襲い掛かってくる。

熊は50km前後で走るらしいが目の前の熊は100kmは出しているだろう。


「グガアアアア!」


強烈な咆哮。


地面を爆ぜさせる熊の四肢はまるで丸太のようであり、黒曜石のように艶めく爪は長く刀のように鋭利で人の腕程もある。


「うおおおお!来いよ!お前に勝って喰ってやるぜえええええ!」


生きるために食べ、食べるために生きる。生存するため自分に活を入れて熊に突っ込む。


「ガアアアアアアア!」


「うおおおおおおおおお!」


熊の瞳が金色に輝き一層バチバチと音を鳴らしながら角の雷が激しさを増していく。


来る!


速度の乗った右腕が振るわれた瞬間、体を捻り回避すると同時に熊の横っ面に一撃を入れるがその体は大地に根を張る大木の如くズッシリとしておりビクともしない。


「これは、マズいな…」


そんな事をつぶやく余裕すらないが思わず零れてしまう。

熊の一撃は地面を割って大きなクレーターを作り、凄まじい風圧を生み出した。


殴られた熊は鼻息荒く、興奮は絶頂寸前だ。


「フーッ!フーッ!ガアアアアアアア!」


劈くような咆哮を上げると角が光を放つ。


「がああああああ!」


晴れ渡っているのに突如落雷に打たれた。これが魔法って奴か…


冷静に見えるだろうが雷に打たれた体はプスプスと黒煙をあげているし、目の前は明滅し足は生まれたての小鹿のように震えている。ダメージが大きすぎる…もう一撃喰らう訳にはいかない。


落雷のダメージと体の確認をしているとその隙を見逃す手はないと謂わんばかりに猛スピードで走り来る。


簡単にやられてやるつもりはない。だが…体は思うように動いてくれない。


頼む、動いてくれ!活を入れるために足元を見遣るとあるものを見つけた。


まだ、諦めるわけにはいかない。


うまくいくかは正直賭けだ。

でもやらなければここで熊の糧になるだけ。


覚悟を決めるべきだろう。手も足も出さずにやられるなんて笑い話にもできない。


やってやるさ…!


「グルガアアアアア!」


まだだ…まだ早い…!


突進してきた熊の角が発光し激しく音を鳴らし始める。


来い!来い!来いっ!!


…今だ!


「これでも、喰らってろ!」


落雷が来る瞬間、オーモの実を突き刺す。


「グギャアアアアア!」


レモン電池。

詳しい理論は知らないがそういったものがあるのは知っていた。


実際にやった事がないのでわからないが電圧が高かったのかそれともファンタジー要素と混ざり合ったのか。ショートさせるのを狙ってみたがその結果、角は破裂し額にも大きな裂傷が走っている。


予想以上の成果を得ることが出来たが喜んでばかりはいられない。ダメージで怯んでいる今しかチャンスはないだろう。ゆっくりしていれば熊は体制を立て直すだろう。

熊の外皮と筋肉は硬い。ならば内部に攻撃を与えるしかない。


距離を詰めて腹部に指先を添えて気合を一拍吐き出す。


「ッハ!」


腹に添えた指先から一気に衝撃を与える、寸勁という奴だ。


振動は血と肉を伝わり毛皮の下から熊の体を破壊していく。


「ガッ!」


思った通り単純に殴りつけるよりは攻撃が通っているようだ。


体をくの字に曲げ、口から血を吹き出して頭の位置が下がった。狙い通りだ。


額の傷は深く、肉が割けて頭蓋骨が見えている。確実に仕留めるならばこの傷を狙うしかない!


「まだああああ!」


筋肉を限界まで引き絞った一撃は額を目掛けて振り下ろされ、グジュッと嫌な音を立てて拳が熊の頭にめり込む。


ゴツンと拳が頭蓋骨に接触した感触。ここだ!


「ハッ!」


内部に手を入れた状態からの寸勁は熊の頭蓋骨を伝わり脳を破壊する。


グルリと白目を剥き、口からは血泡を零し続けているが油断は出来ない。

即座に後ろに飛びのき様子を見ていても熊が再び動き出す気配はない。


やったか?!はフラグだが、殺っているようだ。


死を間近に感じる戦いだった。この世界にはこんなのがゴロゴロしてるのか?鍛えないと、不味いかもな…でも、今はもう体が言う事を聞かない。


「あぁ~…しんどい…もう、動けん」


地面に投げ出した体はこんがりとミディアムレアに焼き上げられ、皮膚はあちこち剥がれ落ちて血が流れている。


リリとハーピーの確執やら大熊の襲撃、そしてこれからを考えると精神的肉体的な疲労で意識が飛んだ。

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