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戦料理人は異世界も喰らう  作者: 世見人白洲
第一章 森の暮らし
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プロローグ 夢にまで見た異世界

初めまして。初投稿になります。

拙作ではありますが楽しんでいただけたらと思います。

本作品は純粋な料理物ではなく、冒険7割・料理3割となっております。

私自身料理を飯の種にしていた事もあり、ご要望がありましたらある程度は技術に基づいた過程を盛り込みますが基本はファンタジー料理で何でもありだと思っていただけると助かります。


それでは、お楽しみくださいませ。

俺は藤 御道(ふじ みどう)。齢二十九。趣味で開いた店は片田舎の森の中に構える料理屋『不死の肴』。そこのオーナーにして料理人。従業員は自身のみ。


料理屋の立地は最悪と言ってもいい。通常なら、と前置きが付くが。


そして料理をする上で信条にしている事がある。

『お客様は神様ではない』『食べれなさそうでも何とかして食べる』だ。


出生国は凄い国だ。一見毒がある食材でも試食を繰り返し、食べれる場所と処理の方法を見つけてきた。どれほど多くの命が現代で安全に食べる事が出来る食材のための礎となったか。先達は偉大だ。尊敬してやまない。


そんな心を忘れないため、俺は食べれそうと思ったものはとりあえず食べる。毒で死にかけた回数など三桁は超えるだろう。頑丈に生んでくれた母への感謝も忘れてはならない。


なまじっか頑丈なおかげでだいぶ無茶をしたのもいい思い出だ。


食材を手に入れるためには死地を越えなければいけないことも山ほどあった。そのため一般的な料理人には必要ないような戦闘力も身についているおかげで店で暴れたり偉ぶったりしないという事だ。


そんな事を繰り返しているうちに世界を飛び回り殆どの食材を食べた。古代の鯨の化石からスープを取ればどんな味がするかも試し、深海魚の魚肉を求めてマリアナ海溝を素潜りしたこともある。水圧で体の骨格が軋んだが水底は暖かく穏やかだった。


普通の料理人は卸業者から食材を卸すだろう。でも俺は満足出来なかった。

何故そこまでするのかと聞かれれば料理とは冒険だ。冒険することが大好きで、そして何よりその過程で得た話を肴に好きな人達とバカ話しながら飯を食う事が最高の調味料だからだ。


でも俺は現代に少し…いや、正直に言おう。まったく退屈していた。

そんな折に見つけてハマったのが異世界ファンタジー小説。朝起きてから開店準備を始める前に少しずつ読んでいる。


「やっぱり異世界物は夢があっていい。男なら冒険しないとな。」


スッキリしない頭を振って手元の本に目を落とす。


『異世界に行ったら』そう銘打たれた小説はサブカルチャーとしてポピュラーな題材。


大抵はスーパーチートな力を手に入れて無双したり、なんでもありな話が多いが日常をのんびり過ごしている話も好きだ。料理と一緒で選り好みはしない。


だが最近は小説を読むことで困った事になった。

そう、異世界の食材に興味が沸きすぎてしまった。


「異世界の魔物食材ってどんな味なんだろうな…食ってみたいなぁ」


ゴブリンから始まりドラゴン果ては神まで現界する世界に思いを馳せる。小説は倒しても食べるのはオークやドラゴンくらいだが、他にも食べられそうなものはいっぱいあるよな?食べれなさそうだとしても何とかして食えるようにするのが大和魂ってものだろう?

うーむ…残念だ。


そんな夢想は日課になりつつある。


そして俺がこんな辺鄙な場所に店を開いた理由がこれだ。人が来ない。つまり、まったく忙しくなく、やってきても男ばかり。過去に色々あって異性を信用することが出来なくなった事も理由としてはある。そして働きたい時に働く、実にストレスフリーだった。異世界に思いを馳せるまでは、だが。


しかし、現実は無情だ。夢ばかり見ていても仕方がない。


「さて、開店までにまだ時間はあるし今日も食材集めに行ってきますか」


白の戦闘衣装(コック服)を身に纏い腰に二本の包丁と反対側に洋パン、背中に中華鍋を背負い頭にはコック帽…ではなくテンガロンハットを被る。


百八十センチの身長に、スラリとしていながらも体は岩のように鍛えられ腕の太さは女性の首ほどもある。後ろに撫で付けた髪は獅子の鬣のようであり深い眼窩から覗く切れ長の瞳は鋭い。全身から放たれる威圧感は重く、人間と言うよりは野生の獣のようである。


「よし、開店前の一仕事してくるかぁ!」


バシッと寝起きの両頬に気合を入れて重い足取りでスイングドアへと向かう。俺はこのスイングドアが大好きなんだ。ハードボイルド感が出るだろう?


カランカランと音を鳴らしドアを開けて外に出る。噎せ返るような木と土の香り。

太陽が頭上に煌々と輝き、時間は正午と言ったところだろう。


「スゥ…はぁ~。これだよ、この匂い。何がおきるかわからないこの緊張感」


今日も一日が始まる。外に出れば気を抜いてなど居られない。どこに危険が潜んでいるかわからないのだ。


脛までカバーしてくれる愛用の特注ミリタリーブーツの感触を確かめながら森の川辺を目指す。


今日はの献立はどうしようか?現物を見てからだな。そんな事を考えながら木の合間を縫って進んでいた。

だが、慣れた森なのに普段とは違う空気。少し不穏だ。

生物達の気配がない。逃げているだとかではなく、まったくしないのだ。


「…森の様子がおかしい。良く無い感じだ」


野生の勘と言うべきか。こういう時は自分の勘を信じたほうが後悔がない。


何かに精力する人種と言うのは験を担ぐ。俺も例外ではない。そも、ここは万物に魂宿る八百万の神々がおわす国。

山の神が荒ぶっているのだろうか?今日はこれ以上森に入るのは控えた方がいいようだ。


思い立ったが吉日だ。来た道を辿り、店へと急ぐ。


木の隙間から少し開けた場所が見えた。円形に森が開かれている店の建つ広場。

森や山で焦りは禁物。心は急ぎ、体は落ち着くべきだと自分に言い聞かせ逸る気持ちを抑えつつ慎重に近づく。


視界が開け、そこには見慣れた店があるはず…だった。


「おいおい…マジか…」


自然と漏れた言葉。

見慣れた店の姿はなく、ただ少し開けた広場だけが風に吹かれていた。

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