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視線の先  作者: 東雲 葵
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意外な一面

 歴史の授業が終わってすぐにスマートフォンを取り出せば、ミサンガにはどんな種類があるのかを検索する。基本のみつ編みをはじめ、四つ編み、四つ組み、市松模様、斜め編み、V字編み……調べてみればみるほど多種多様な編み方が出てきた。あまりに種類が多いため、上岡へと声を掛けようと席を立とうとしたところで、萌花はふと我に返る。


――友人の恋路のために、自分がここまでする必要はあるのだろうか。


 上岡に近づいて、高嶋の情報を仕入れて、澪に伝える。それは友人の恋の手助けといえば聞こえはいいが、結局のところ上岡から他人たかしまの個人情報を得てそれを友人みおに伝えようとしている。それは、何となく良くないことのように思えた。結局、行動を起こすのは澪本人だ。萌花は自分が必要以上に他人の情報を得る事を、良いとは思えなかった。


 考えすぎかもしれないが萌花には何となく後ろめたい気持ちがわいてしまい、結局その日は上岡に声を掛けずじまいだった。どのミサンガを教えてもらおうかまで考えたというのに、もったいなかった気もしたがそれ以上に上岡経由で高嶋の話を得るのが申し訳なく感じたからだ。なにより、自分ばかりが動くのも何となく納得がいかない。動くのであれば澪も何かしら行動を起こすべきだと、萌花はそう感じていた。


 萌花は気晴らしもかねてまた百円ショップへと向かう。授業中にミサンガのことばかり考えていたせいか、気づけば手芸用品の辺りに足を運んでいた。刺繍糸一つとっても、様々な色がある。黒や濃い紫や緑など暗めの色を揃えたものや、ピンクや薄紫などパステルカラーを揃えたもの。もちろん、基本となる色が揃えられたものも存在している。


 どんな色があるのかを見ようと刺繍糸のセットに手を伸ばしたところ、同じタイミングで他の誰かが手を伸ばして来て思わず手を引っ込めてしまった。


「あ、すみません……」

「いや……って、古元さん。アンタもこういうの興味あるんだ」


 別に謝るような事ではないのかもしれないが、つい口をついて謝罪の言葉が出てしまった。帰ってきた答えに思わず驚いてぶつかった相手のほうへと顔を向ける。萌花の横にいたのは上岡だった。思わず目を丸くするが、上岡は特に気にした様子もなく先日と同じように刺繍糸を手に取っていた。


 興味があるのかと問われ、萌花は少しだけ困った顔をしてしまった。興味が全くないわけではないが、上岡に声を掛けようとしていた理由としてはいささか不純な気がしているからだ。困ったように眉を寄せた萌花を見て、上岡は申し訳なさそうに肩をすくめて見せた。


「悪い、別に困らせるつもりはなかったんだが……」

「あー…あの、こういうのってのがミサンガのことなら、興味はあるの。ただ、興味持ったのが最近だから、どう答えたものかと思っただけで…」


 上岡の申し訳なさそうな表情を見て、萌花はとっさに返事を返してしまっていた。少しだけ上岡の表情が嬉しそうに変わり、彼は先ほど見ていた刺繍糸のセットの中から一つを選んで萌花へと手渡してきた。それは基本色、赤・青・緑・黒・白の色の糸が入ったセットだった。


「最初は、この辺の色使って練習するといいと思う。好みの色で、ってのももちろんありなんだけど似た色だとどの糸をどこに通したか分からなくなるとかざらにあるし」

「あ、うん……ありがとう」


 楽しそうに説明してくれる上岡の様子とは対照的に、突然アドバイスをもらい理解が追いついていない萌花。ミサンガを作っている上岡の姿を見たのはいつも斜め後ろの席からだったから、彼がこんなにも楽しそうにしていることなんて萌花は知らなかった。知らない上岡の一面に戸惑いと驚きと、新鮮さを感じていた。はっとした様子で自分と萌花の温度差に気づいて、上岡は少しだけ恥ずかしそうに俯いた。


「あー……作りたいじゃなくて、作ってほしいって方だったんなら、ごめん。そんときは、作ってほしい糸の色の指定とデザインを伝えてくれると……」

「作りたい、で合ってる。だから、あー……上岡がよければ、作り方教えてもらえると、嬉しい」


 申し訳なさそうに自分の思い違いだったのではと、ミサンガを頼むときの話をし始めた上岡の言葉を萌花は遮った。首を横に振って最初の説明であっていると伝え、彼にミサンガの作り方を教わりたいと頼んでみた。もちろん、最初の計画のことがありやや悩みもしたが、先ほどのミサンガ作りを楽しそうに話す表情にもっと上岡のことを知ってみたいと萌花自身が感じていた。


 萌花から教えてほしいと言われると、上岡は今までで一番嬉しそうな笑顔を見せた。友人は多そうに見える上岡だが、やはりミサンガを作るとなると男子はあまりやらないのだろう。女子なら教わりに来そうなものだが、依頼の話に移行したところを見るともしかしたら作りたい女子は少ないのかもしれない。そんなことを考えながら、上岡の表情を眺めていた。


 結局萌花は上岡に見立ててもらった練習用の基本色の刺繍糸セットを一つ買った。上岡は全ての刺繍糸のセットを買っていたが、萌花はいざ作るとなるとどのデザインのミサンガがいいかぱっと思い浮かばずそちらにばかり気をとられていた。デザインを決めかねているため明日学校で詰めて話したいと伝えると、上岡は快諾してくれたようだった。


 帰宅してからスマートフォンでミサンガのデザインを再確認する。いざ教わるとなるとあれもこれもと目移りしてしまうが、やはり最初は基本の三つ編みや四つ組みだろうと決めて翌日を楽しみに眠りについた。





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