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視線の先  作者: 東雲 葵
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恋愛模様

 百円ショップに寄って上岡と話をし、萌花の疑問は解消されたはずだった。しかし、あの日の後も萌花は上岡を目で追っていた。いや、気がついたら視線が向いていた、というべきか。すでに上岡の様子を眺める事が萌花にとって日課になっていた。

 

「もーえちゃん、何してるのー?」


 ぼんやりとしていた萌花は背後から声をかけられた。両肩に手が乗せられ、声の主がすぐ後ろにいることが分かる。そのまま上を見る要領で頭を倒し、声をかけてきた人物の顔を見上げた。見上げてみれば案の定そこにはニコニコとした表情の友人、篠島澪しのじまみおの姿があった。


「べつに、ぼーっとしてるだけ」


 特にこれといったことも無く、やる気のなさそうな声で萌花は答える。萌花本人は意識していなかったのだが、澪からするとどうやら違ったようだ。萌花に対して彼女はニマニマとした表情を変えずに、頬を指先でつんつんとつついてくる。こういうときの澪はとても厄介であることを、萌花は身をもって知っていた。


「またまたぁ、最近翔吾君のことばっかり見てるじゃんかー」


 澪からの指摘に、萌花は思わず目を丸くして驚いてしまった。意識していたわけではないのだが、萌花はぼんやりとしているときは、大体上岡のほうを見るのが癖になってしまっていたようだ。本人にはそんなつもりはまったく無いのだから、驚きで言葉も出てきてはくれなかった。

 萌花のそんな様子に澪はますます調子付いて、肘でつつきながらどうなのかと囃し立てる。不快、というほどではないが澪のおもちゃにされるのは何となく癪で、萌花はふと思い出した事を口にしてみた。


「……私のことより、澪の恋路のほうはどうなっているのよ」


 その一言に、今度は澪が動きを止めてしまった。先ほどまで萌花をからかっていたというのに、澪はいざ自分の恋話になると顔を赤らめて俯いてしまう。もじもじとして、非常に乙女らしいのだが先ほどまでの様子との違いに萌花は付いていけない。しかし、そんなことはお構いなく澪は自分に振られた自分の恋話をぼそぼそと小さな声で話し始めた。


「そ、それは……その……。アプローチは、してる……つもり、なんだけど……」


 澪は恋をしている。相手は同じクラスの高嶋泰治たかしまやすはる。萌花は前から相談を受け、アドバイスをしていた。しかしアドバイスも空しく今のところ二人の仲はまったくと言っていいほど変化が無い。相談されてから四ヶ月、まったく進展が無い様子を見ると自分のアドバイスが悪いのかだろうかと、萌花も頭を抱えてしまうところである。


「もうじき文化祭だし、それを機会に告白してみたら?正直、あんたの好きな人は話を聞いてると直接言わないと気づきそうにないし……」

「で、でも〜…そこを何とか、もえちゃん〜……」


 澪に告白したほうがいい、と何度目かになるアドバイスをしているときにふと自分達に向けられる視線に気づいた。体は話をしている澪のほうに向けながら、視線を感じる方向へと目だけを動かす。こちらへと視線を向けているのは上岡だった。萌花と視線が合わないところをみると、どうやら澪のほうを見ているらしくその表情は僅かながら普段浮かべている表情よりも柔らかなもののように見えた。そのことに驚いたが、直後に五限目の授業の開始を知らせる鐘が鳴り、澪も上岡も自分の席へと戻っていった。


 席に戻って歴史の授業を聞き流しながら、萌花は四ヶ月前に相談されたときの事を思い出していた。萌花と澪は去年、一年生のときからの付き合いになる。澪から高嶋が気になっていると話を聞いたとき、萌花はまず高嶋がクラスのどの男子だか思い出せなかった。萌花は勉学が学生の本分だと思っているせいかまったくと言っていいほど恋愛に興味が無いのだ。萌花が顔を思い出せず悩んでいる様子をみて、もしや萌花も高嶋のことが好きなのではと泣き出されてしまったことは今では笑い話になっているが当時は本当に焦ったものだった。


 そんなどうでもいい相談されたばかりのときの事を思い出しながら、そういえば高嶋は上岡と仲が良かったな、ということにいまさら気が付いた。上岡なら、自分達の知らない高嶋の話を何か知っているかもしれない。そう思い至ったが、そもそも萌花と上岡には共通点がなく、接触するためのネタが無い。どうしたものかと考えながら、上岡へと視線を向ける。


「あ……あれだ」


 誰に言うでもなく、萌花は小声で呟いた。視線の先にはミサンガの糸の色分けをしている上岡の姿があった。彼がミサンガを編む事を得意としているのなら、それを口実にすれば良い。近づく口実を見つけた、その事実に柄にも無く嬉しさを感じて口元に笑みが浮かんでしまう。その日の歴史の時間は、上岡からどんなミサンガを習おうか、それを考えるだけで時間が過ぎていった。



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