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視線の先  作者: 東雲 葵
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ミサンガ

 あの日以来、萌花は上岡を目で追いかけることが増えた。初日には見えなかった授業中の行動が気になり、暇があるごとに上岡へと視線を向けて数日。観察を続けていたが未だに彼が何を行っているか見当をつけられていなかった。


 ある時、萌花は必要なものがあって近所の百円均一ショップに行った際、上岡を見かけた。必要なものはもう手にとってあり、普通ならば無視して買い物を済ませてしまうところだが、この日は違った。上岡の向かった先を視線で追う。すると、彼は萌花の居た位置から二つ向こうの棚の先に消えた。付近を通りながらどんな物があるエリアなのかを確認する。


 ーー手芸用品。


 予想外のエリアに消えたことに驚きつつも、萌花はなるべく不自然でない形で上岡を観察する。彼が手に取ったものは刺繍糸のセットだった。割と目立つ原色系の色合いのもの。それを見たときにふと、萌花は上岡を観察して居たときに感じたことを思い出した。


 上岡の持ち物にはミサンガが多い。数種類のカラフルな模様のミサンガをカバンの持ち手に付けている。付けている本数は大体五本程度あり、二日から三日くらいでそのうち一本が入れ替わっていることに気付いた。また、上岡の友人もミサンガを複数持っているようだった。萌花ははじめ、それらは友人間で揃って買っているのかと思ったが、買っているのだと考えるとかなりの出費になるだろう。だが、今上岡が手に取ったものは刺繍糸。ミサンガは比較的編み方を載せているサイトも多い。そして、そのサイトでは大体刺繍糸で編むことを前提としているのだ。


 つまり、上岡は刺繍糸でミサンガを作成できるのではないか。そして、あの歴史の授業の時に行っていたのはミサンガ作りだったのではないかと結論が出た。まさか、百円均一の店内で謎が解けるとは思わなかったが、気になっていたことがわかりスッキリして思わず顔がにやけてしまった。


 そんなことをしていたら、萌花は真正面から上岡とぶつかりそうになってしまった。お互いギリギリで気づいたため、ぶつかりはしなかったが萌香は大きくよろけてしまった。


「あー……古元さん、悪ぃ」

「いや、こちらこそ……」


 よろけた萌花を上岡が慌てて支える。バツの悪そうな様子で謝る上岡に、萌花は申し訳なさそうに笑って首を振ってみせた。いまのは考え事に耽っていた自分の落ち度でもあるのだから、お互い様だった。

 萌花が平気そうなことを確認した後、上岡は少し慌てた様子で刺繍糸を自分の後ろに隠した。もちろん、萌花はそれをバッチリと見てしまっていて、視線はその隠したものへと自然と向かってしまっていた。


「あー……別に、隠さなくても。この間、授業中に糸いじってたでしょ、上岡君」

「え、なんで知って……あぁ、俺の後ろの席だっけ、古元さん」


 バレていたなら、と刺繍糸を背後から出してくる上岡。その手には原色系の物だけでなく、暗めの色、パステルカラーなど複数の色の入った物まであった。上岡の持ち物にパステルカラーのミサンガは見当たらない。


「ピンクとか、薄紫とか、使うの……?」

「女子に頼まれたりして、たまに……」


 意外だった。どうやら上岡がミサンガを作っていることを知っているのは男子だけではなかったらしい。萌花が驚いた顔をしているのを見て、なんとなく居心地の悪そうな上岡。それに気づいて、萌花は少しだけ表情を緩めて笑ってみせる。


「ああ、ごめん。ちょっと意外だっただけだよ。誰かに言ったりする気もないから」


 じゃあね、と小さく付け足して萌花は上岡の横をすり抜けてレジに向かった。自分の支払いを済ませて、一度振り返って上岡を見る。彼はまだ列に並んでいて、萌花の視線に気づく様子もなかった。

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