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俺、元魔王軍従業員。幼馴染み、元勇者  作者: くま太郎
第一章 日本編
8/26

再会

今回、あるなろう作家様をモデルにしたキャラが出てきます(本人の了承済み)。

  九月、まだ夏の勢いは衰えずに朝から太陽が猛威を振るっていた。こげ丸のお気に入りである川沿いの散歩道にも太陽が容赦なく照り付けている。

 陽向と一緒にこげ丸の散歩に来ている幸守も、あまりの暑さに辟易していた。

 数日前から日曜日になったら、一緒にこげ丸の散歩へ行こうと陽向から誘ってきたのだ。それ自体は凄く嬉しかったが、あまりの暑さに喜びも半減していた。


「今日も暑いな。向こうにいた時ならソゥ様にお願い出来たんだけど」

 ソゥは幸守達が転生前にいた世界の女神で太陽を司っている。なので、タイミングをみて上手く頼む込めば、日差しを和らげてくれる事があった。あくまでソゥの機嫌が良く、彼女の地雷を踏まなければの話であるが。


「ゆー君、魔族なのにソゥ様と話せたの?」

 陽向は前世で魔族は邪悪な種族で、太陽神ソゥの光を嫌うと教えられた。今ではそれが戦時中のプロパガンダだと分かっている。しかし太陽神ソゥはエルフの神官でも滅多に会う事が許されない高位の女神だ。しかもソゥと魔族の相性があまり良くないのはれっきとした事実である。


「俺が修行していたのは闇神エスクリダオンの神殿なんだよ。エスクリダオン様はソゥ様の兄にあたる。だからソゥ様の知遇も得れたのさ」

 幸守と陽向が前世の話をする事は稀である。敵同士だった事もあり、お互いに気まずいのだ。


『お主は知らぬであろうが、主は前世で一角の人物であったのだぞ。鬼王様や精霊帝様とも親しい間柄なのだ』

 なぜかこげ丸が肩をそびやかす。当の幸守はバツの悪そうな顔している。幸守は陽向に前世では神官と工房の経験がある戦闘能力の低い魔族だったとしか言っていないのだ。


「鬼王ジョウ・シュロス様に精霊帝カ・シーダ様?あの四英傑の?」

 四英傑の言葉を聞いた途端、幸守が苦笑した。陽向が住んでいたリュミエールでは数十年前から五英傑を四英傑に変更しているのだ。


「神殿絡みでちょっとな……さて、行くぞ」

 幸守はそう言うと気持ち強めに歩きだした。


『主、よろしいのですか?……主、お散歩コースが違いますぞ?こっちはもしや青空動物病院の方角ではございませぬか?』

 青空動物病院は、こげ丸のかかりつけ医である。


「おっ、察しが良いな。お前も久し振りに先生の顔を見たいだろうと思ってな」

 幸守にしてみれば、気まずい話題から変わってくれたで、ここぞとばかりに畳み掛ける。


『確かに青空先生は腕も良く、我らペットにも優しいお人です。某も慕っております。久しくお会いしてないので、お顔を見とうございます……まさか予防接種ですか?主、お注射は嫌でござる。ワンコには優しくして欲しいのであります』

 元は強力な魔狼であったシャアガーであるが、今は普通の犬である。注射が大の苦手なのだ。


「前に“ワンコをお散歩に連れて行くのは飼い主の責務だ”って言ったよな。予防接種を受けさせるのも、飼い主の責務なんだよ……陽向、頼む」


「ゆー君、今度ランチに連れて行ってね。我命ず。光の精よ、我が意志に従い、彼の物を操れ……(マニュピリ)る・(リュミエール)

 陽向が魔法を唱え終わると、幾つもの光がこげ丸の足にまとわりついていく。


『あ、足が勝手に……陽向殿、貴女は勇者でござりませぬか?ワンコに優しくてくだされ』

 こげ丸は必死に抗議をするが、その足は青空動物病院に向かっていく。


「元勇者ね。今の私は中学生でゆー君の幼馴染みなの。知らない?日本では勇者も称号を自由に変えて良いのよ」

 陽向にとって一番大事なのは、幸守の幼馴染みという称号である。むしろ他者から嫉妬の目で見られる原因となった勇者の称号は誰かにあげたいくらいなのだ。


「こげ丸、二丁目のペスは注射を我慢出来たらしいぞ」

 ペスは二丁目の茂野さんが飼っているセントバーナードである。シャアガー時代なら鼻にもかけなかった相手であるが、体格への羨望もありこげ丸が勝手にライバル視している。


「くっ、某はかつて魔狼の中でも最強と称された者。お注射やペスには負けませぬぞ」

 こげ丸はそう言うと、自ら動物病院に向かって歩き出した。


 ◇


「はい、こげ丸君良く頑張ったね」

 白衣を着た青年が優しくこげ丸に声を掛ける。青年はこげ丸のかかりつけ医の青空獣医師だ。眼鏡が良く似合う理知的で優しい顔をしている。


『………』

 しかし、声を掛けられたこげ丸は痛みを我慢する為に、必死で歯を食いしばっており返事を返す余裕がない。


「先生、ありがとうございました。さあ、こげ丸行こう」


「そうだ、幸守君。君の友達でピエロを目指している子。そう、山参のお孫さんの昴君、何かあったの?」

 青空先生の話によると、昴が橋の上からじっと町を眺めていたとの事。いつもの明るい笑顔は消え、目には涙が浮かんでいたという。


「青空先生が三枚目ピエロの事を知ってるなんて以外だね」

 優しい性格と見立ての確かさで青空獣医師は飼い主から絶大な信頼を置かれている。特に若い女性からの人気が高く、病院はいつも診察待ちのペットと飼い主であふれていた。


「昴の爺ちゃんが猫を飼っていて、青空先生に見てもらっているんだよ。その縁で青空先生は昴の事を覚えているんだろ」

 山参家のペットは年老いた猫だ。日がな一日窓辺でごろ寝をしている。外に出る事が滅多にないので、昴が猫を飼っている事を知っている者は少ない。


「ゆー君、気になる?」

 陽向はそう言いながらスマホを弄る。陽向自身は昴にあまり興味がない。それに戦場で命を賭して戦った陽向からみれば、同い年の悩みは甘えにしか映らないのだ。


「気になるけど、昴は自分から弱さを見せるのが苦手なんだよ。実際に見てないから人違いだって誤魔化されるのがオチさ……雀からラ〇ンだ。弁当を忘れたから届けてくれか。しょうがない奴だな」

 しょうがないと言いつつも、可愛い妹に頼れた事が嬉しいらしく、幸守の顔はにやけている。


「雀ちゃんは、バレー部の練習だよね。私も学校に用事があるから一緒に行くよ」


「助かる。神選は、生徒と一緒の方が入りやすいし」

 神選学院には芸能人やお金持ちの子供が大勢通っているので、チェック体制が厳しい。身内が通っている幸守でも、すんなり中に入れてはくれないのだ。でも現役で通っている陽向がいれば、話は違う。最悪、陽向に届けてもらう手もある。

 しかし、この時、幸守は気付いていなかった。陽向が小さくガッツポーズしている事を。


 ◇

 私立神選学院。今の理事長になってから数多の人材を世に送り出しく急成長をとげた学校法人である。幼稚園から大学まで保有しており、エレベーター形式で進学出来るとあり、当然幼稚園のお受験戦争はかなり厳しい。幼稚園に入る為の試験は独特で理事長の面接だけである。批判も多いが理事長により才能を見出された生徒が芸能界、スポーツ界、政財界で活躍しているので咎める者はいない。


「相変わらずでかいな。うちの中学とは大違いだ」

 授業料も高額であるが、卒業生からの寄付も大きいと言う。


「ゆー君も神選学院に入学すれば良いと思うんだけどな……手続きが済んだから入るよ」

 入るよ良いと言うが、幸守が神選(ここ)に来ているのは、陽向の計画なのである。


「随分早くないか?前に来た時はもっと時間が掛かったぞ」

 幸守は以前にも雀の忘れ物を神選学院に来た事があったのだが、その時は優に三十分は待たされた。

 答えは簡単である。陽向が事前に手続きをしておいたのだ。雀が弁当を忘れたのも、陽向の仕込みである。


「早いなら問題ないでしょ。さっ、行くわよ」

 神選学院の校内は広いが、在校生の陽向がいたお陰で幸守はすんなりと弁当を届ける事が出来た。


「来た道と違わないか?それにここは、どう見ても部外者が来て良い場所じゃないぞ」

 さっきまで活気に満ち溢れた生徒の声が聞こえていたが、ここは静謐に支配されている。壁にも掲示物の類がなく、造りも豪華だ。


「ゆー君、ここに入って……夏海です。お話していた彼をお連れしました」

 陽向が声を掛けたのは理事長室と書かれた部屋。


「夏海君、ご苦労様……貴方はもしや?」

 部屋から出て来たのは三十代半ばの男性。まだ若いが犯しがたい威厳があった。 

 初対面のはずなのに、彼は何故か幸守を見て驚いている。そして幸守も彼に見覚えがあった


「ゆーく……大空さん、こちらにいらっしゃるのが当学院の理事長をされている神谷(かみや)(まなぶ)です」

 神谷学は結城(ゆうき)幸牙(こうが)と共に異世界に召喚された経験がある。勇者となった幸牙は異世界に残ったが、学は日本に帰り親が経営していた新選学院を継いだのだ。



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