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俺、元魔王軍従業員。幼馴染み、元勇者  作者: くま太郎
第一章 日本編
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心霊番組とヘタレ?幼馴染み

  歩良達は幸守から業を取られてから、数日間学校を休んでいた。元々、学校をサボる事が多かったので、誰も気にしていない。担任も電話を掛ける事すらしなかったという。

 しかし、歩良達は誰も予想しない姿で登校してきたのだ。制服のボタンを襟元まできちんと留め、背筋を伸ばして颯爽と歩いている。

 そして担任に会うと深々とお辞儀をしてみせた。


「先生、今まで申し訳ありませんでした。今日から勉強を頑張りますのでよろしくお願いします」

 その目はどこまでも澄みきっており、担任は度肝を抜かれたと言う。ここまでは幸守の予想の範囲内である。

 しかし、事態は予想外の方向に転がってしまったのだ。

 昼休み、幸守がいつものように山参とだべっていると、歩良達が教室にやって来た。前までならドアを乱暴に開けて我が物が入って来たのだが、今日は物音を立てないように優しくドアを開け遠慮がちに入って来たのだ。


「馬路君、色々ごめんなさい。これ良かったらご家族で食べてもらえますか?東木の家、和菓子屋だろ?草木が親父さんと一緒に作ったんだぜ」

 歩良はそう言うと頭を下げながら、箱菓子と茶封筒を差し出してきた。馬路がそれを受け取ると、歩良達はほっとしたのか安堵の溜め息を零す。


「東木君、家を継ぐの?」

 馬路と東木は幼馴染みなのだ。しかし、東木が厳しい修行に反発し、悪い仲間とつるむようになってからは、疎遠になっていた。


「ああ、中学を出たら修行の為、県外の和菓子に就職するんだ。他の奴等は工業高校に入れるように頑張る……明は神選に行くんだろ?(ともえ)の尻に敷かれそうだな」

 巴という名前が聞こえた途端、馬路の顔が真っ赤に染まる。耳まで赤く染まっており、あたふたと慌てている。

 そしてここにも慌てている者がいた。

(歩良達も希望したら、倍率上がるよな。大丈夫、内申なら俺の方が良いし……しかし、なんで工業高校にしたんだ?)

 あの日、歩良達は不思議な光に包まれ“それぞれの進むべき、道を教えます”と導きを受けたのだ。若い女性の声であったが、不思議な威厳に満ちていたという。

 声の主は陽向である。陽向は達歩良を導き正の気を得ると同時に、ライバルを増やすことで幸守に揺さぶりをかけたのだ。


 ◇


 その日、幸守が家に帰ると、雀が夢中になってテレビを見ていた。画面に映っているのは今人気のアイドルプリエ・アムールだ。プリエ・アムールには幸守の親友愛星竜弥が所属している。


「兄貴―、竜ちゃん無茶しないかな?」

 雀の言葉と同時に歌が終わり、竜弥がアップで映し出される。


「お前等、俺以外の男を見たら承知しねえからな」

 愛星竜弥は傲岸不遜な言動で人気の俺様系アイドルだ。見た目も不良っぽく、好き嫌いがはっきり分かれるタイプである。女性人気は高いが男性のファンは少ない。特に同年代の男子からは毛嫌いされていた。


「やらかしたね……竜ちゃん、大丈夫かな」

 雀は小さい頃から、竜弥に懐いておりいつも心配している。


「やらかしたな……多分、夜に電話が掛かってくるだろうな」

 幸守の予想とは裏腹に、電話が掛かって来たのは番組が終わって一時間後だった。


「ゆーき、ネットが荒れてるよー。やっぱり僕はアイドルに向いてないんだ」

 今をときめく俺様系アイドル竜弥だが、その実態は弱虫で泣き虫なヘタレなのだ。本性を見せるのはごく親しい身内の人間だけである。特に同い年なのに、妙に頼りになる幸守には泣きつく事が多かった。


「またエゴサーチしたのか?……事務所が、そのキャラでいくって決めたんだからしょうがないだろ。見た目は強面なんだから、もっと堂々としいてれば平気だって。お前が凄めば大抵の奴が怯むぞ」

 竜弥を叩いてるのはネットの住人が殆んどである。彼等も竜弥個人が憎いのではなく、自分を馬鹿にしてくる不良連中への憂さ晴らしで叩いているだけなのだ。


「無理だよー。好きでこんな顔に生まれたんじゃないもん……僕は、ゆーきみたく強くないんだって」

 竜弥がここまで言うのには、ある事件が絡んでいた。幸守と竜弥が小学校五年生の時の事である。当時、アイドルの練習生だった竜弥がナイフを持った高校生に絡まれたのだ。

 それを撃退したのが幸守である。幸守はその時に手に入れた咎を使い、こげ丸を転生させる魔力を手に入れたのだ。


「なんて贅沢な事を……親御さんから頂いた大事な顔だぞ。それで何の用事だ?まだ仕事中だろ?」


「うん、実は今度心霊番組に呼ばれたんだ。そこで僕が一人で心霊スポットを探索する事になってさ……怖いからゆーき付いて来て。カメラを持つAD役でお願い」

 元神官の幸守は霊を恐れない。逆に竜弥は怪談を聞いただけで、逃げ出すくらいお化けの類が苦手だ。


「いや、番組的まにずいだろ。お前等のグループ人気が凄いからチェックが厳しいって聞くぞ」

 テレビに携わっている人間が身内にいる為、幸守はテレビ局の内情に詳しい。


「幸次郎さんの番組だから大丈夫だよ。ねー、お願い。今度、高級フルーツをあげるから」

 高級フルーツと聞いた瞬間、幸守の口元が僅かに緩む。幸守の好物は果物なのだ。何よりビビりの親友を心霊スポットに送り出すのは忍びない。下手したら化けの皮が剥がれて、人気が失墜しかねないのだ。


「父さんも了承してるのなら、大丈夫だ。それでどこでロケするんだ?」

 幸守は神官時代に、除霊を行った事が何回かある。そも時、出来るだけ情報を集めるようにしていた。生前信仰して神によって、アプローチの仕方が変わってくるのだ。強制的に浄化する事も出来るが、それだと輪廻が滞ってしまう。

 無論、この世界の神と前世の神は異なる存在だし、信仰心を持っていない可能性もある。しかし、どんな未練を残しているかが分かれば説得がしやすくなる。


「殺人事件のあったホテルだって。それで経営が悪化して、オーナーが自殺。事件も何件かあったみたい……スタッフが盛ってるだけだよね。そんな所があったら、もっと噂になってるし」

 必死に言い繕う竜弥だが、その顔はかなり青ざめていた。


「さあな。変な噂がたつと、土地も売れなくなるからな。情報規制を掛けているんじゃないか?まっ、なんかあっても俺がなんとかしてやるから、お前はキャラも守る事に専念しろ」

 人気アイドルの竜弥に何かあれば、父幸次郎にも飛び火してしまう。幸守は親友の為、そして父の為にADの代わりをする事を決めた。


(でも、変だな。事務所は竜弥がヘタレだって知っているはず。なんでこんな仕事を受けたんだ?父さんに聞いても無駄だよな)

 幸守の父幸次郎なら、何がしからの事情を知っているだろう。確かに幸守は竜弥の親友である。だからと言って、芸能界の裏事情を息子に教える訳がない。



 ◇

 心霊スポットに向かう為か、ロケバスは異様な雰囲気に包まれていた。

 番組スタッフに加えて、霊能者を自認する者が五名ほど乗っていたのだ。僧服を着ている者もいれば、白装束に身を包んでいる者もいる。共通しているのは、全員異様な雰囲気を放っているという事だ

 その雰囲気にスッタフや出演者は、独特の緊張を強いられている。そんな中幸守は、平然と霊能者達の品定めをしていた。

(表に出て来る霊能者に本物は少ないって聞いたけど……あの程度の力で、良く金を貰う気になれるよな。悪霊に憑かれている人もいるし、何かあったら俺が祓うか)

 幸守の見立てでは、霊能者を自認しても大丈夫なのは五人中一人だけである。中には霊を視る事すら出来ない者もいるのだ。


(……へぇー、随分と咎を溜めている奴がいるな)

 幸守が見ているのは前の席に座っている少年。少女のように可憐な容姿をしているが、常人にはあり得ない程咎を溜めていた。少年は隣に座っている同年代の少女と親し気に会話をしている。少年も少女もそこそこ有名なのだが、竜弥以外のアイドルに興味がない幸守は誰なのか知らないのだ。

 幸守が少年の咎を値踏みしていると、急に車内がざわつき始めた。スタッフは愛想笑いを浮かべ、霊能者達はこれ見よがしにパフォーマンスをしだす。

 人気アイドルグループ『プリエ・アムール』がバスに乗って来たのだ。メンバーの他に、マネージャーやスタイリストを引き連れちょっとした小集団である。


「皆さん、今日はよろしくお願いします」

 マネージャーが挨拶すると、メンバーもそれにならって頭を下げた。

(竜弥の奴、サングラスなんて掛けてどうしたんだ?)

 竜弥は自分の強面顔にコンプレックスを感じており、それを助長するようなアイテムを身に付ける事は滅多にない。


「よお、幸守隣良いか?マネージャー、こいつ俺の連れなんだ。今日はこいつの隣に座っていくから」

 竜弥はそう言うと、幸守の返事を待たずにどかりと座席に腰をおろした。


「確か大空プロデューサーのご子息ですよね。今日の撮影に協力してくれると伺ってますし、問題ないでしょう」

 全員が座ったのを見計らい、バスが動き出しす。そしてバスが出発をするのを見計らっていた者が小声で幸守に話しかけてきた。


「ゆーき、あの人達って本物なの?本当に霊能者なんているの?」

 竜弥の声は微かに震えており、サングラスの中の瞳には涙が浮かんでいる。竜弥がサングラスを外さない理由は、恐怖による涙を隠す為なのだ。


「弱い霊なら祓える奴が一人、霊を視れるのは二人。残り二人は一般人以下だな。霊能力であくどい商売をして、守護霊に見放されたって感じだ」

 弱いと言っても、レイスやリッチを知っている幸守基準である。


「へっ?それって幽霊がいるって言ってるのと一緒だよ……ゆーき、まさかお化けが見える人なの?」

 見えるどころではなく、幸守は祓う事も霊を遮断する結界を張る事も出来る。今も竜弥との会話が聞かれないように音声遮断の結界を張っていた。


「答えを聞きたいか?……それより、右側の前から三番目に座っている男が誰だか分かるか?」

 幸守の視線が例の少年に注がれる。面倒な事にならない人物なら、根こそぎ咎を取るつもりなのだ。


「いらないよ……やっぱり知らないんだね。置糸(おきいと)晴武(せいぶ)。今、人気のアイドルだよ。確か僕達の一個上で神選学園の高等部に通っているんだって。千鶴さんと知り合いかもね……女の子関係で良い噂を聞かない人だから、千鶴さん大丈夫かな?」

 幸守の幼馴染みである竜弥は、昔から千鶴に懐いていた。

(女に手が早いか……だから、あんなに咎が溜まっているんだな。霊能者の皆様は気付いているか分からないけど、何体もの生霊が憑いてやがる)


「姉さんの好みは、真面目な男だ。鼻にも掛けないさ」

 それ以前に千鶴には様々な加護が与えられているので、置糸のような人種は近付く事すら出来ない。


「だよね……昴も千鶴さんに、真面目な所を見せれば良いのに」

 山参昴は小さい頃から、千鶴に恋していた。かれこれ十数年に及ぶ片想いである。


「クラウンは努力を隠すのが美徳とか言ってるからな。一人前のクラウンと認められるまでは、ジョークで本音を隠すんだとよ。手先は器用な癖に、不器用な性格だよな」

 その所為で昴は弟の友達枠から抜ける事が出来ないでいる。

 ちなみに竜弥は雀が好きで、幸守は陽向を好きなのだ。この三人の幼馴染みは、揃いも揃って恋に不器用なのである。


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