ゴーレムドライブ
リクエストが一番多い作品でしたので 嫌われ者の次は何をメインにしよ
竜弥と昴は困惑していた。彼等の友人である大空幸守が五英傑と呼ばれる伝説の魔族だと聞かされたからである。
幸守自身から魔族であった事を聞かされていたし、その証拠も見ている。しかし、幼馴染み兼親友である幸守が、伝説の存在だと言われても実感出来ずにいたのだ。
しかし、目の前の光景がそれを証明していた。
「凄い人だかりだ……ゆーきって、本当に伝説の存在だったんだね」
唖然とした顔で竜弥が呟く。彼の言う通り、幸守を大勢の竜人が囲んでいた。
王家の墓に行く前に旅支度をしようと町に出たら、大勢の竜人が幸守の元へとやって来たのだ。
何しろ幸守は伝説の五英傑の一人で、闇を司る神ダンドリオン教の神官でもある。
ここワーカミにもダンドリオンを信仰する者は少なくない。彼等にとって、幸守もまた信仰の対象なのだ。
「泣いている人もいるぜ……しかし、野郎が多いな。ゆっきーらしいちゃっ、らしいけけど」
宗教上の理由であったが、神官時代の幸守は必要以上に女性と接しようとしなかった。
その為プラータは女性を嫌っているという都市伝説が生まれてしまったのである。
「陽向ちゃん凄いよね。兄貴の隣をしっかりキープして、挨拶にきた人みんなに愛想良く対応しているんだよ」
雀の視線の先にいたのは、幸守の元にやってくる信者の応対をしている陽向である。
転生前の陽向は愛想のあの字もない女性であった。しかし今は親が経営している芸能事務所で接客やマネージャーの代理をこなしているのだ。
行儀の良い信者の応対位は朝飯前なのである。
なにより五英傑の一人であるレイアのお膝元で、幸守と仲をアピールしておきたかったのだ。やる気も桁違いなのである。
「もう買い物に行く必要ないんじゃね?俺もあれ位、人気があったら嬉しいんだけどな」
クラウンを目指している昴は、ストリートパフォーマンスをする事がある。祖父の方針で、縁もゆかりもない場所で行っているので見てもらえるだけで御の字であった。
そして信者は幸守に挨拶する時、お布施代わりに様々な物を置いていっていたのだ。幸守の脇には旅に必要な物がうず高く積み上げられていた。
「勘違いしてはならぬぞ。主は一人々に治癒魔法を掛け、付与魔法を施しておられるのだ。しかし、決して金銭は受け取らぬ。故に信者は自分が持って来られる物を、主に捧げるのだ」
こげ丸が得意満面な様子で解説をする。金剛狼であった頃のこげ丸は気位が高く、人と話すことさえ稀であった。
しかし今のこげ丸は大空家の飼い犬である。飼い主に褒められる事を極上の喜びとしている。その証拠に両目で千鶴と雀をしっかりロックオンし、尻尾をブンブンと振り回しながら“某を誉めてくだされー”とアピールしている。
「こげ丸、私達だけでは食べ切れそうもない量だぞ」
千鶴がこげ丸の頭を撫でながら問い掛ける。シャア―ガ時代であったら不届者だと言って噛み殺していたである。
「食べ切れない物は、一旦協会に預けます。その後、貧しい人へ施すのです。主達、咎狩りの神官は、その場に立ち会いませぬが」
施しを行うのはダンドリオン様であって、神官ではないという考えでございます。こげ丸は、切なそうなそう言い足す。
しかし、その顔とは裏腹に腹ばいになり、もっと撫でて下されとアピールしているこげ丸であった。
◇
一通りの物資が揃ったので、幸守達は早速街を出た。
「倉庫か。随分便利な魔法があるんだな……幸守、王家の墓場までどれ位掛かるんだ?」
必要分の食糧は幸守の倉庫に仕舞ったので、移動もスムーズに出来ている。
「徒歩だと丸一日は掛かるかな。その前に寄って行きたい場所もあるし……こげ丸、場所は分かるか?」
丸一日というのは旅慣れた幸守基準である。勇者の経験がある陽向ならともかく、舗装した道路を歩き慣れている雀達だともっと掛かるであろう。
(本音を言うと、歩く野間鍛錬の一つとなるんだけどな……でも、今日は実戦を間近で見る事になる。心労を考慮すると、無駄に疲れさせるのはまずい)
筋肉痛緩和や靴擦れ防止の加護を与えているが、それで心労は和らげる事は出来ない。
「お任せ下され。某の鼻は既に砂の匂いを捕らえております」
こげ丸は親指を立てる様にして、尻尾をピンと立てながら返事をした。
「砂って……ゆっきー、サンドバッグでも作るのか?」
昴の問い掛けに幸守は深い溜め息を漏らした。
「昴、格闘技の経験なんてないだろ?それより自分に合った武器を見つけるのが先決だよ。素手の技を鍛えるのは後だ」
長く生きているだけあって幸守も一通りの武器を使えるし、素手での格闘術にも長けている。
無論、一番得意とするのは魔術であるが。
「主、着きましたぞ」
こげ丸が連れて来たのは、広大な砂地。肌理も細かく幸守の求める理想の砂である。
砂地を見ると同時に幸守の目が紅く変化した。同時に膨大な量の魔力が周囲を包み込む。
「流石はシャアガーじゃの。儂が求める物を分かっておる……砂よ。我が命にて、傀儡と化せ……出でよ、サンドゴーレム」
膨大な量の魔力が砂地を包み込む。ここがもし日本やリュミエールなら騒動が起きていたであろう。しかし、ここは竜の住む国ワーカミである。
桁違いの魔力に驚く者はいても、恐れる者はいない。
「凄い……巨大なサンドゴーレムが三体も」
陽向が驚くのも無理はない。現れたのは優に3mを越す巨大なサンドゴーレムなのだ。
猿人の魔術師なら人間大のゴーレムを操る位しか出来ないのである。
「確かに凄いけど……ゆっきー、細かい所に拘り過ぎじゃね?なんで、ゴーレムがスニーカー履いてるんだよ」
昴の言う通り、幸守の作ったゴーレムはスニーカーを足に履いており、きちんと衣服を身に着けていた。
「それにこのロゴはナイケ……ナイケの偽物のロゴだよ。ここ異世界なんでしょ。バレないと思うし、売らなきゃ問題にならないんじゃないかな」
竜弥の言う通り、スニーカーには偽物と同じロゴが入れられていた。
驚く幼馴染みとは真逆の親友達は、容赦ない突っ込みを入れていく。
「この方が動かしやすいんですー。そんな事を言う人は乗せてあげませんー」
転生前の幸守は三百年生きた魔族であった。
しかし、今はどこにでもいる高校生なにである。友人達とのおふざけを全力で楽しんでいた。
「幸守、遊んでないで早く行くぞ。それにお前はもう高校生なんだぞ。もう少し大人になれ」
すぐさま、千鶴の駄目だしが炸裂する。異世界であるが、平和な日本と変らぬ光景がそこにはあった。
「……分かったよ。俺と陽向が戦闘を行く。姉ちゃんは契約を済ませているから、昴と同じゴーレムに乗って。雀は竜弥と同じゴーレムに。こげ丸、背後の守りは頼んだぞ」
幸守の言葉に合わせてゴーレムが跪き、手を差し伸べる。
「胸に展望デッキが付いている……竜ちゃん、お話しよ」
竜弥は現役のアイドルだ。普通なら雀の方が緊張するだろう。
「う、うん……お願いします」
愛星竜弥は人気グループプリエ・アムールの一員で強面の俺様系アイドルである。
しかし、その実態は臆病で純情な少年。好きな娘とまともに話せないレベルなのだ。
「千鶴さん、凄くないっすか?俺、テンション上がりまくりっすよ」
山参昴、彼も違う意味で純情であった。好きな娘と話すのが、照れ臭くてまくし立てる様に喋っている。
「もうゆー君はお節介なんだから……私は二人っきりで話せるから嬉しいけど……ねえ、なんで岩じゃなく砂なの?」
陽向の言う通り、砂で作られたサンドゴーレムより、岩で作られたロックゴーレムの方が強力である。
そして素材さえあれば幸守ロックゴーレムどころかミスリルゴーレムも作る事が出来るのだ。
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