竜妃からの依頼
長らく更新出来ずに申し訳ありませんでした。
幸守が案内されたのは厳重な警備の敷かれた部屋。周囲を厳めし竜人の騎士が警備していた。
(……随分と警護が多いの。しかも全員何かを警戒しているのか、体に力がはいっておる)
コアタはすでに帰ってきており、緊急事態は終わった筈である。それにも関わらず騎士は臨戦態勢を取っているのだ。
幸守は思考を悟られぬ様、敢えて穏やかな表情をつくる。そしてノックをしようとした瞬間、ある声を聞いてその手を止めた。
聞こえて来たのは緊迫した雰囲気にそぐわない華やかな笑い声。そして扉越しに喫超えてくる幸守の名前。
(レイアの奴は何を言ったんじゃ?でも、笑っているから大丈夫だと思うんじゃが)
幸守がドアを開けるのをためらっていると、案内してきた騎士がドアをノックした。
「レイア様、幸守殿をお連れしいたしました」
同時に室内の笑い声が途切れる。幸守の背中を冷汗が伝っていった。
◇
ワーカミの皇妃レイア・イディー、かつて幸守ことプラータと共に邪神シウメースを倒した五英傑の一人。その力は今でも世界で五指に入ると言う。
まさに生きる伝説である。その私室に招待されたのは幸守の姉千鶴と妹の雀。そして幸守の幼馴染みでかつてこの世界で勇者ジゼル・エクレールであった夏海陽向の三人である。当然といえば当然であるが三人とも酷く緊張していた。
「皆様はお客様なのですから、楽にしなさって下さい。お茶会に招待したのは、ユキモリ・オオゾラの事を聞きたかったからですし」
レイアはそう言って穏やかに笑うが、千鶴と雀は王族と言うだけで緊張してしまうし、陽向に至っては、息をする事さえ憚っていた。何しろ相手は昔話や演劇の中でしか知らない文字通り伝説の存在なのである。
そんな中、陽向は意を決したかの様に口を開いた。
「あの、失礼なのは分かっております。でもお聞かせ下さい。レイア様とゆー君……幸守さんはどういったご関係なのでしょうか?」
いくら元魔族だとは言えレイアと既知の仲だとは信じられない。しかし、レイアの口から幸守の名が出たのだ。
「そうね。隠してもいずれ分かる事だし、教えてあげる。リュミエールや猿人の国では、四英傑と言われているみたいだけども、正確には五英傑なの。異世界の勇者幸牙、精霊帝シ・カータ、鬼王ジョウ・シュロス、そして私レイアの四人。そして残る一人は魔族の神官プラータ。ここまで言えば分かるかしら?そう、貴方達の知っているユキモリ・オオゾラの事よ」
陽向達の表情が一瞬にして強張った。五英傑の一人という事は苛烈な戦いを勝ち抜いてきたという事になる。
しかし、彼女達の知っている大空幸守は争い事を嫌う優しい少年なのだ
「……嘘ですよね?だってゆー君は自分の名前はタラプだって」
陽向が我を忘れて、レイアに問いただす。もし、この場にワーカミの騎士がいたら陽向の無礼を咎めたであろう。
「タラプもプラータもある意味正解よ。タラプはプラータを逆さにしただけだしね。五英傑の中でプラータだけが庶民の出だったの。しかもエスクリダオン様に仕える神官、この意味分かる?」
闇を司る神エスクリダオンは魔族だけでなく、多くの者から信仰されていた。性格は公正無私で、誰に対しても優しい。
「幸守は名前、家族、地位を捨てなくてはいけないと言ってました……活躍しても与える物がないという事ですか?」
レイアの問い掛けに一番先に反応したのは千鶴であった。その顔には深い悲しみの色が浮かんでいる。
「ええ、でも大活躍したプラータに対して報いない訳にはいかない。そこで当時の魔王はプラータに何が欲しいか訊ねたの」
レイアはわざと言及しなかったが、当時のプラータは咎狩りを役目にしていた。人に顔を知られたらまずいのである。
プラータは邪神を討ち倒すという大功をあげたが、その所為で全てを失ったのだ。
「それで、兄貴は日本に来る事を望んだんですか?」
雀の答えにレイアがゆっくりと頷く。そして雀もまた兄の過去を聞き悲しんでいた。
「その通りよ。プラータは勇牙と仲が良かったの。勇牙から異世界二ホンの話を聞いていつか、行ってみたいと言ってたわ。転生すれば家族を得れるしね。でも今のままじゃ魔力が強すぎて異世界に渡れない。そこでプラータは翼、牙、角を千切る事で自分を弱体化させたのよ。陽向さん、デビルネイルって剣を知ってる?」
蝙蝠族である幸守が空を飛べなかったのは、自分の翼を千切り封印した為である。それでも魔力が強く、転生の魔法陣に注ぎ込む事でようやく渡れたのだ。
「勇者ユウガ様が使った伝説の剣と聞いています。名のある魔族の爪で出来ており、呪われていると。私も持つ事がかないませんでした……まさか?」
勇者勇牙の使ったデビルネイルは許された者しか触れる事が出来ず、王族でも触れたら火傷を負ってしまう。その為、リュミエールの学者の中にはユウガの死因はデビルネイルの呪いと唱える者もいた。
「そう、あれはプラータの爪よ。魔法を使えないユウガの為に、プラータが自分の爪で作ったの……さて、ここからは私の質問。向こうでのプラータの話を聞かせてもらえるかしら?……特に陽向さんからね。ここからは女子会。礼儀が無用よ」
その後散々幸守の事を聞きまくったレイアは、臣下に本人を連れて来る様に命じたのだ。
◇
幸守は困惑していた。部屋に入るなり、泣きながら雀が抱きついてきたのだ。
「雀、レイア様の前だぞ……千鶴姉もどうしたの?」
その上、千鶴が優しい笑顔で頭を撫で始めたので、幸守はますます困惑していく。そんな中、不機嫌そうな顔をした陽向が幸守の前にたった。
「ゆー君、五英傑ってなに?全部、レイア様から全部聞いたわよ。なんで私に教えくれなかったの!」
陽向はそう言うとプイっと脇をむく。その所為でますます混乱する幸守。
そんな幸守の耳に聞こえて来たの楽しそうな笑い声。その笑い声で幸守は、この状況を作り出した犯人が誰なのか知った。
「えっ?全部ってどこまで?ってか、誰が……レイア様―!」
幸守が睨むも、レイアはどこ吹く風で笑い続けている。
「プラータ、怖い顔してどうしたの?むしろ感謝して欲しいわよ。この国はベルニーから輸入した五英傑の関する書物が沢山あるのよ。いずれバレるわ」
レイアが農業で国を繁栄させた様に、鬼王シュロスは書物を出版する事で、国の文化を高めた。
シュロス自身も物語を紡ぐ事を好み、多くの本を出している。幸守が漫画やラノベを日本から持ってきたのはシュロスに贈る為であった。
「まあ、リュミエールにはしばらく戻らぬから良いんじゃが……雀、俺は大丈夫だから。千鶴姉も、頭を撫でなくても大丈夫だって。陽向、この事はリュミエールに内密で頼む」
もっとも、そんな言葉で女性陣が納得する訳もなく、雀は幸守から離れなかったし、陽向の不機嫌は直らなかった。
「幸守、昴と竜也にはなんて伝えるんだ?お前から言い難いなら私が言うぞ」
姉だけあり、千鶴は幸守の性格を熟知している。
「プラータさえ良ければ、私から伝えます。そして貴方方にお願いがあります。王家の墓を守ってもらえませんか?報酬は旅費とプラータの翼です」
お陰様でなろうコン一次通過しました。遅くはなりますが、更新再開します