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俺、元魔王軍従業員。幼馴染み、元勇者  作者: くま太郎
第ニ章再び異世界へ
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ママを求めて三千里?

 御者を命じられた男は騎士団の中でも有数の使い手であった。今まで、何十体もの魔物を倒してきた腕自慢の男である。その為、御者を命じられた時は大いに不満であった。なぜ、自分程の者が子供のお守りをしなければならないのかと……。

 そして今も不満を抱えていた。何故、自分がこんなに怖い思いをしなければならないのかと。


「小僧、速度が落ちとるぞ。道を照らしてやってるんじゃから、速度を落とすでない」

 殺気に満ちた声が聞こえて来たのは、馬車の上からである。今まで幾度も命懸けの戦いを潜り抜けきた騎士を怯えさせる凄まじい殺気であった。

 もっとも、その殺気のお陰で魔物は馬車に近付こうとすらしない。


「馬を疲れさせる訳にはいきませんので……」

 異世界からやって来たという少年は、馬車の上に立ち魔法で夜道を照れしてくれていた。騎士の言う通り、道が悪く油断すれば馬車が横転しかねない。

 不思議な事にどれだけ馬車が揺れても、少年はバランスを崩す気配すらみせないのだ。


「馬には回復魔法を掛けておる。遅れればリュミエールが亡ぶぞ」

 幸守は魔法で夜道を照らしながら、馬と騎士に回復魔法を掛けている。魔法を掛けながら、幸守は違う事を考えていた。

(この小僧でも騎士団では強い方らしいの……しかし、そうなると矛盾が生まれる)

 竜は幼くても、それなりの強さを持っている。そして事件を起こした冒険者は、幼竜より強いはずだ。件の冒険者は騎士団に捕まったという。しかし、御者をしている騎士はどう見ても幼竜より弱い。

 幸守の叱咤が利いたのか、馬車が夜道を駆けて行く。先の見えない夜道はまるで幸守達のこれからを暗示しているかの様だった。


 ◇

 フォールに着いたのは、まだ日が明けきらぬ早朝であった。早朝と言う事もあり、人影はまばらである。

 ちなみに御者をしていた騎士はフォールに着くと同時に気を、気疲れと安堵で気を失ってしまった。


「みんなは宿屋に行ってって……まずい。随分弱っておる」

 馬車を降りた同時に幼竜の鳴き声が聞こえてきたのだ。その声はか細く弱々しい。


「幸守、私も一緒に行く。あの子泣いてるじゃないか」

 千鶴は長女という事もあり母性本能が強い。言葉遣いこそ男っぽいが、料理も得意で小さい子をあやすのが得意だ。


「千鶴姉、何言ってるの?僕には鳴き声しか聞こえないよ」

 雀は姉の言葉に驚いていた。確かに弱々しい鳴き声ではあるが、泣いている様には聞こえない。


「何言ってる。“ママ、モイ姉ちゃん”って泣いてるのが聞こえないのか?」

 雀だけでなく、昴や竜也も釈然としていない。この場で幼竜の声が聞こえているのは幸守、千鶴、こげ丸だけである。


「幼い竜は人語を話せない。でも、千鶴姉はニーベモイと契約したから竜の声が分かるんだよ。分かる様にしても良いけど、まずは泣き止ませるのが先決だ」

 幸守はそう言うと、泣き声のする方へ走って行った。


 ◇

 それは異様な光景であった。2メートル弱の竜が檻に入れられているのだが、高さが足りないらしく苦しそうに首を折り曲げている。


「ゆっきー、何を言ってるのが分からなくても、これはアウトだって俺でも分かるわ。こいつ、怯えてんじゃん。しかし、生きた牛や豚を檻入れるかね」

 昴の言う通り、檻中には牛や豚が放たれていた。幼竜は怯えてしまい、隅っこで震えているのだ。


「餌のつもりなんだろ……小僧、儂の声が聞こえるか?」

 幸守は魔力を使うと、昔の様なしわがれた声になってしまう。それが不気味に思えた様で、幼竜の目には涙が浮かび始めた。


「幸守、お前が怯えさてどうするんだ!?……僕、ちょっとお話しても良いかな?私ニーベモイさんのお友達で千鶴って言うのよろしくね」

 千鶴は優しく幼竜に話し掛ける。幼いと言っても、その迫力は凄まじく雀は近付く事すら出来ない。


「お姉ちゃん、モイ姉ちゃんのお友達?僕、お家帰りたいよー!パパやママに会いたい。モイ姉ちゃんに会いたい」

 幼竜はそう言いと火が付いた様に泣き始めた。自分の話を聞いてもらえて、抑えていた不安が一気に爆発したのだ。


「怖かったんだね。でも、もう大丈夫だよ。お名前はなんて言うのかな?」

 幼竜が少し落ち着いたのを見計らって、千鶴が話し掛ける。ゆっくり優しく、微笑みながら。


「コアタ、七才だよ」

 コアタは指を七本立てながら、そう答えた。そして七才と言ったの同時にコアタのお腹が鳴る。何しろ、もう三日も何も食べていないのだ。


「コアタ、俺がきちんと家に連れて行ってやるよ。ワーカミには何回も行ってるから大丈夫だ。でも、その前にご飯を食べないとな……陽向、台所を貸してくれる家を探して。姉ちゃんは料理をお願い……来たか。竜也、昴、コアタを守ってくれ。こげ丸行くぞ」

 物々しい恰好をした騎士の足音が聞こえてきたのだ。幸守は竜也と昴がコアタの前に移動したのを確認すると、騎士達の方へと歩き出した。


「お前は何者だ!?竜の前で何をしている」

 幸守に声を掛けてきたのは騎士を連れた壮年の男性。強気な言葉を使っているが、その声は微かに震えていた。

 騎士達もコアタを警戒しているのか、抜剣したまま近付いてくる。大の大人が剣を抜いて向かってきた所為で、コアタはますます怯えてしまった。


「やれやれ、最近の若造は礼儀を知らぬの。儂はリュミエール国王の第二婦人シオ・リュミエールに頼まれて来たんじゃぞ。つまりは王族の名代じゃ。先に名を名乗るのが礼儀じゃろ……こげ丸」

 幸守が声を掛けるや否や、こげ丸が騎士達に飛び掛かっていく。正確に言うと騎士達が持っている剣に飛び掛かったのである。

 そして、こげ丸は瞬く間に騎士達の剣を奪い取った。不敵な面構えをしてみるせるが、尻尾をブンブンと振り回して褒めて褒めて状態なのは飼い犬のさがといえよう。


「なっ?いつの間に?お前等は我等と争うと言うのか!シオ様の名代も嘘であろう。こんな若輩者を寄こす訳がない」

 確かに幸守達を名代と言うには若する。疑われても不思議ではない。何より御者をしていた騎士が馬車の中で眠っているので信じてもらえないだろう。


「証拠はないが、面白い事を教えてやろう。ここいる幼竜は、あの竜妃レイア・イディーの息子じゃ。つまりはワーカミの王子だ。お前等は一国の王子を牢に閉じ込めたばかりではなく、碌に飯を与えなかった……ワーカミと戦になっても、おかしくない所業だぞ」

 騎士達は幸守の言葉を聞いて、一斉に顔を青ざめさせた。ワーカミに住んでいるのは竜である。ドラゴンは一匹でも、猿人の小隊に匹敵する力を持つという。そして竜妃レイア・イディーと敵対するという事は、鬼族や精霊とも敵対する事になるのだ。


「それは誠か?お前は竜の言葉が分かるというのか……申し遅れた私はこの町の騎士を束ねているミハエル・ヘリオンだ。ドラゴンが何も食べてくれなくて、正直困り果てていたところなのだ。情けない話だが、もうかれこれ三日も寝ておらぬ」

 ドラゴンを保護したのは良いが、大きすぎて屋内に入られなかったそうだ。またドラゴンが何を食べるのか知っている者がいなかったらしい。肉を好むとの伝説を聞いた者がおり、様々な肉を檻に入れたが全く手をつけなかったそうだ。困り抜いて生餌を入れたらドラゴンが怯えてしまい、途方に暮れていた所との事。


「ゆーき、本当に生餌なんて食べるの?」

 ドラゴンを始めてみる竜也の目か見てもコアタは、牛に怯えている。王宮育ちのコアタは生きている牛を見た事がなかった。絵本でなら見た事はあるのだが、想像以上に大きく怖くて仕方なかったのだ。


「昔は食べたらしいぜ。正確に言うとマナを補給する為に、魔物を捕らえていたんだよ。しかし、それは効率が悪いって事でレイアが作物をマナの多い土地で育てる方法を奨励したんだ。コアタ君のくらいの年だと、調理された牛や豚しか食べた事がないと思う。ミハエルさん、俺達が乗って来た馬車に野菜が積んであります。持ってきてもらえますか?」

 事実、コアタの中で牛さんはミルクをくれる動物なのである。生肉ましてや生きた牛を食べろと言われても、困って泣くしかないのだ。


「……そうだったのか。ドラゴ……コアタ君には悪い事をしたな。誰か野菜を持ってきてくれ」

 数分が大量の野菜と果物が幸守達の前に届いた。それを見たコアタの嬉しそうに目を輝かせる。


「兄貴、コアタ君に果物あげるね。カボチャやジャガイモは生で食べれないし」


「ちょっと待って……我、作物に祝福を与える。マナよ、宿れ……これで良し。野菜は姉ちゃんに料理してもらってから出せばいい」

 コアタはマナの宿された果物と野菜を夢中で食べた。


「お兄ちゃん、お姉ちゃんありがとう……ママやモイ姉ちゃん怒ってないかな」

 お腹が膨れた途端、コアタは叱られるの恐れてしょんぼりと落ち込む。


「俺が一緒に謝ってやるよ。背中に乗せてくれば、道を教えるし……ところでコアタは、どうやってここまで来たんだ」

 ワーカミには幼いドラゴンが外へ出ない様に結界が張られている筈なのだ。流石に国中に張る訳にはいかないので、穴もある。しかし、王宮育ちのコアタが人の目を潜って抜け出せるとは思えない。


「あのね、あのママとモイ姉ちゃんを探していたら、ワイバーンのおじさんが連れて行ってくれるって言ったの。でも、途中ではぐれちゃったの」

 コアタはレイア達が幸守に会い行った日に、二人の後を追ったのだ。


(ワイバーン?なぜ亜竜がコアタを連れ回す。王家の者を連れて行けば、問題になるのは分かっているだろに)

 幸守が頭を悩ませているとコアタが顔を近づけてきた。


「お兄ちゃんの匂い、お城で嗅いだ事あるよ……ねえ、早く帰ろうよ」

 幸守達はコアタの背中に座布団を敷き、ワーカミへと旅立って行った。


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