表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺、元魔王軍従業員。幼馴染み、元勇者  作者: くま太郎
第ニ章再び異世界へ
20/26

冒険者への嫌悪

幸守は一人で悩んでいた。ワーカミまでは馬車を使っても三ヶ月は掛かる。しかも幸守じぶんと陽向以外は旅に慣れていない。

(どうやってみんなを食わせていく?リュミエールからの支度金だけでは到底足りぬ)

 姉の千鶴や妹の雀が身体を拭きたいからと言って、部屋を追い出された幸守がやって来たのは、昴達に宛がわれた部屋だった。


「ゆっきー、便秘のゴリラみたいな顔してどうしたたんだ?」


「昴、ゆーきーはこれからの事を考えているんだど思うよ?そうでしょ」

 そんな幸守に近付いて来たのは友人の山参昴と愛星竜弥。


「誰が便秘のゴリラだ!?金の工面をどうするか考えていたんだよ」

 旅で一番必要なのは現金である。幸守は魔族の国で流通している金は持っているが、猿人の国で使える金は持っていない。


「流石にこの国がくれるんじゃないか?無一文で放り出したら、それこそ他の国に責められるだろ」

 昴の言う通り、リュミエールからある程度の支度金は出るであろう。しかし、旅では何が起きるか分からない。


「旅はトラブルが付きものなんだよ。誰かが病気や怪我で動けなくったら路銀が尽きる可能性が高い。何よりリュミエールに頼りきってしまったら、国の命令に逆らえなくなるだろ?なんとか自分達で稼ぐ手段を考えないとな。最低限、ワーカミで使う金も工面しなきゃまずいんだ」

リュミエールとワーカミの外交が途絶えているので、リュミエールの金がワーカミで使える可能性はかなり低いのである。


「この世界って冒険者ギルドとかないの?魔物を倒さなくても、薬草とか採取すれば稼げないかな?」

 幸守は竜弥の提案を聞くと深い溜め息を漏らした。それは呆れたからでなく、嘆きの溜め息である。


「冒険者ギルドか……あるよ。でも、冒険者にはなりたくないんだよ。第一、知らない森や山に入って薬草を探すのは、不可能に近いんだぞ」

 依頼者が自分では採取が困難な物だから冒険者ギルドに依頼するのだ。当然、薬草などの植物の採取依頼は、普通の人間が行けない場所に生えている物が殆んどである。


「薬草って生えている場所が決まってるもんな。簡単に採れる所に生えていたら、金は出さないし。何より知らない山や森から探すのは、きついよな」

 昴は実家の山で薬草を採った事があるから、困難さは容易に想像出来た。無事に帰って来れたら幸運な方で、下手したら行方不明になりかねない。


「そうなると魔物退治にするの?魔族は外すとして……ゴブリンとなから、僕達でも倒せないかな?」

 確かにゴブリンなら竜弥でも倒す事は可能であろう。


「ゴブリンに手を出すのは禁止だ。魔族を敵に回す事になるぞ。魔族にとってゴブリンは守るべき隣人なんだよ……契約外の魔物を倒すしかないか」

 ゴブリンは純粋で陽気な種族として、魔族全般から愛されているのだ。冒険者が憂さ晴らし等で、ゴブリンを殺したら魔族が仕返しに行く事も珍しくないのである。


「ゆーき、冒険者の事嫌いなの?」

 竜弥は冒険者というワードが出る度に、幸守が嫌悪感を露にしている事に気付いていた。


「あいつ等、素材が欲しいって理由だけで魔族を狙うんだよ。角や翼目当てで殺された知り合いも少なくないんだ。金と名誉、それだけで生きている連中さ」

 幸守自身、冒険者に命を狙われた事は一度や二度ではない。嫌悪感は持っていても、好感を抱いた事など一度もないのだ。


「それって、無益な殺生じゃん。象牙を取る為だけに、像を殺すハンターみたいなもんだろ!」

 病弱な弟のいる昴は無益な殺生をする者を嫌っている。


「まあな。そろそろ終わったと思うから、部屋に戻るよ。いざとなれば売れる物もあるし……誰か来た?」

 幸守が呟くと同時に部屋の扉がノックされた。幸守がドアを開けると、陽向が立っていた。


「ゆー君、ここにいたんだ。シオが呼んでるから、一緒に来て」

 シオ・リュミエール。リュミエール国王の第二婦人にして、勇者パーティーの元魔法使いである。


 幸守と陽向が呼ばれたのは、シオの私室であった。普段は貴族のご婦人方とお茶を飲んで他愛もないお喋りをする為に使っている部屋である。

ソファーも絨毯も部屋にある物全てが一流品ばかりである。シオはこの部屋で貴族の奥様方に自分の力を誇示しているのだ。


「時間がもったいないから、単刀直入に言います。城の東方にフォールと言う町があります。今すぐそこに行ってもらえますか?馬車を使えば明日の朝には着きますので。勿論、馬車は国で準備致します」

 既に夕陽も落ち、もう夜になりかけていた。つまりシオは夜通し馬車で移動してフォールに行って欲しいと言っているのだ。


「今から?……昔のよしみで話くらいは聞いてあげるわ」

 陽向は元リュミエールの人間なので一晩でフォールまで移動するのが、どれだけ大変な事か分かっている。それでも話を聞く気になったのは、シオの表情に焦りの色を見たからだ。


「フォールに駐留していた冒険者が幼竜を捕まえて、ブラックマーケットに売ろうとしたよ。幸い、騎士が食い止める事がくれたけど、幼竜が何も食べようとしないの。ただでさえ黒竜妃レイア・イディーに睨まれているのに、飢え死になんてさせたらリュミエールは滅びてしまうわ。今頼れるのは貴方達だけなの」

 竜族は家族を大切にする。もし幼竜が捕らえれていると分かったら、一族全員が襲撃して来ても不思議ではない。


「……陽向、行こう。今すぐ馬車の準備をお願いします。陽向は姉ちゃん達に伝えて。俺は昴達の部屋に行く。それとシオ様、馬車に子供の好みそうな野菜を積んで下さい」

 幸守はそう言い終えると、シオに一瞥もくれずにドアへと向かった。一国の妃に対して、無礼極まりない態度である。


「それなら受けてもらえるのですか?」

 しかし、シオは幸守の無礼を咎めなかった。幼竜には猿人の言葉を理解せず、ただ泣いているばかりだという。

しかし、リュミエールに竜の言葉を理解出来る者はいないのだ。しかし、陽向ジゼルの幼馴染みだと言うゆきもりは明らかにレイア・イディーと面識があった。何より彼の姉はニーベモイの契約者である。


「きちんと報酬はもらいますからね。それと素人でも扱える武器も何種類かお願いします」

幸守はリュミエールの行く末には興味はなかった。ただ一人で泣いている幼竜の事を思うと、胸が締め付けられて苦しくなるのだ。


 それから一時間後、幸守達は馬車の中にいた。幸守と陽向以外はかなり不服そうな顔をしている。


「慣れない馬車はお尻を痛くするから、このクッションを敷けば良いよ」

 幸守はそう言うと全員にクッションを手渡した。同時に馬車自体は国の用意した物なので、揺れは少ない。

 幸いな事に御者は離れた所におり、幸守達の会話が聞こえる事はないだろう。


「ゆっきー、人が良すぎね?出発明日でも良いだろ」

 昴はクッションを受け取りながら、愚痴を漏らす。


「捕まった竜は人間にすると小学校一年生か二年生くらいだと思う。そんな子が檻に閉じ込められて、寂しさとひもじさで泣いているんだ。一刻も早く駆け付けたいのが、人情だろ?」

 フォールが提供したメニューを聞いて、幸守は怒りを通りこして、呆れてしまった。彼は生きた豚や牛を幼竜の檻に押し込んだというのだ。


「兄貴、なんで冒険者は、その子を捕まえたの?他の竜に襲われるかもしれないんでしょ?」

 

「竜の鱗は防具に使えるんだよ。ゲームにもドラゴンメイルって出てくるだろ。それ幼竜の肉は柔らかくて高値で売れるんだよ。ドラゴンステーキってやつさ」

 雀達の顔が一斉に青ざめる。あの時レイアやニーベモイは会話をしてみせた。ドラゴンには高度な知能がある証拠である。


「それじゃ、その子は自分が食べられるかもしれないと言う恐怖に怯えているのか?親から離れるだけでも、不安な年だろ」

 千鶴が怒っているのを見て幸守は安心した。いや、千鶴だけではなく全員が怒ってくれている。

 

「でも、今焦っても意味はないよ。馬車でも快適に眠れる魔法を掛けるから、ゆっくり休んで」

 全員が眠りについたのを確認して、幸守は今まで抑えていた怒気を露わにした。それは離れた所で馬車を操っていた御者にも伝わっていた。

 彼は幸守達がドラゴンの問題を解決したら、拘束する様に言われていたのだ。

 しかし、それがどれだけ愚かな事か、身をもって感じていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ