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俺、元魔王軍従業員。幼馴染み、元勇者  作者: くま太郎
第ニ章再び異世界へ
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加護は大切です

カハラ・ノードをレイア・イディーに変更しました。お気づきの方も多いと思いますが、カハラ・ノードは故牧原のどか先生をモデルにしたキャラです。気にしすぎと言う方がいるかも知れませんが、あのままでは作者が書けないので

召喚された数名をワーカミに向かわせるというシオの提案はすぐさま採用された。今、ワーカミと険悪な関係になってしまえば、周辺の国々から見放される危険性が高いのである。ただでさえリュミエールが起こした戦争の所為で、魔族との関係が悪化しているのだ。リュミエールの城には同盟国から連日の様に非難の手紙が届いていた。もし召喚を使った事が明るみに出れば、同盟が破棄されてしまう危険がある。

その所為かシオのライバルである第二婦人レジェサイドからも反対意見は出されなかったという。

一刻も早くワーカミとの仲を修復したいリュミエールサイドは、陽向の意見を全面採用したのだ。結果、大空家の三名に加えて、昴と竜也の二名も旅に同行する事になったのだ。

そして旅の相談を行う為、昴と竜也も幸守達の部屋に来ていた。


「ゆっきーが元魔族ね。夏空さんが元勇者ってのは、まだ納得できるけど……それでこっちの世界に元カノとかいるの?」

 昴の質問に皆が呆れて溜め息を漏らす。皆が昴を白い目で見る中、陽向だけは幸守の態度を注視している。


「昴、最初の質問がそれ?」

いつものように、竜也が突っ込みを入れる。昴と竜也は幸守が元魔族だと聞いても態度を変える事はなかった。


「俺は元神官だ。治癒魔法を使う時以外は、女の人の手に触れた事もなかったよ」

 幸守の答えを聞いて部屋がざわつく。雀は驚きの表情を浮かべ、千鶴は呆れ顔になっていた。ただ陽向だけは、安堵の表情を浮かべていた。


「えっ?じゃ、ゆっきー三百年物の童貞?魔法使い超えて賢者じゃん」

 幸守は女性経験どころかキスすらした事がない。幸守だけでなくエスクリダオンの神官は全員女性経験がないのだ。


「昴、露骨過ぎ!雀ちゃんもいるんだから。でも、恋をした事はあるんでしょ?きつくなかった?」

 竜也のグループは恋愛禁止である。だから、竜也は雀に想いを寄せていても気持ちを伝える事が出来ないのだ。


「魔族の神官は物心がつく前に、魔力変換の術を施されるのさ。そうすると恋心だけでなく性欲も魔力に変換されるんだ。だから辛いと思った事はないな」

 幸守が咎を魔力に変換出来たのも、この術があったからである。


「ゆーきの記憶が戻ったのは、小四の時なんだよね。それなら納得だよ……は、話は変わるけど、これからどうするの?」

 幸守の余計な事を言うなという視線を感じた竜也が強引に話題を変える。もっとも、この部屋にいる全員が小四以前から幸守が陽向に恋していた事を知っているのだ。


「まず俺と正式に契約コントラートしてもらう。普通加護を与えるのは、対価を要求するんだけど今回は特別に無償にしておくよ」

 契約しても、それなりの対価を支払わなければ加護は得れない。何を要求するかは契約者によって違う。宝石等物を要求する者もいれば、哀しみや憎しみ等の感情を要求する者もいる。


「……なあ、ゆっきー。やっぱり旅に出たら魔物や魔族を殺さなきゃ駄目なのか?さっきの話だと魔族にも家族やダチがいるんだろ……俺、ゆっきーのダチを殺したくないよ」

 肺腑から絞り出したかの様な声で、昴が呟く。昴は弟が病弱な事もあって、無益な殺生を忌み嫌っている。


「無駄な心配するな。こっちのダチはお前なんかじゃ、かすり傷一つつけられないさ……でも、その考えを忘れるなよ。みんながこっちの世界によばれた原因は、その考えを持てる奴が少なかったってのもあるんだよ。陽向、さっき来た魔法使い、加護を取り消されてただろ?」

 幸守の問い掛けに陽向が頷く。それを確認した幸守が続きを話そうとすると、千鶴が話に割って入ってきた。

 

「幸守、今取り消されたって言ったわよね。無くなったじゃなく取り消されたって」


「流石は姉さん、魔族にも家族愛や友情があるんだよ。だから身内に害が及んだら、加護を取り消せるようにしたのさ」

 魔族側から襲った場合や過失なら不問にされるが、故意で殺したケースは速攻取り消しになる。悪質な場合は三親等の人間がブラックリストに載せられ、生涯契約禁止になってしまう。


「随分と生々しい契約だな。でも、言われてみればそうだよな。俺もチヅ……爺ちゃんや竜也がボコられたら許せないし」

 昴は千鶴さんと言い掛けて、強引に誤魔化す。当の千鶴以外全員に勘付かれる寂しい結果になってしまった。


「昔、凄い問題になったんだぜ。お前の加護で身内が殺されたって、裁判になったりしたし。身内じゃなくても、ご近所さんや子供の友達の親御さんを自分が与えた加護が原因で怪我をさせてしまったって、神殿に懺悔に来る人も少なくなかったんだぜ。種族によっては猿人との関わりを断ったところもあるし」

 幸守は役割上、神殿にいる事が少なかったがそれでも何度も懺悔を聞いたり仲裁に奔走した事がある。


「そう言えばゆーきって、種族何なの?」

 竜也の問い掛けに幸守に視線が集まった。


「俺は蝙蝠こうもり族だよ。今は飛べないけど、昔は大空を自由自在に飛び回ったもんさ」

 幸守が空を見ながらポツリと呟く。蝙蝠族は空を飛べる以外は、猿人と身体能力が大して変わらない。五英傑まで登り詰めたのは、幸守の魔力が高かった事もあるが神殿での鍛錬が大きかった。


「蝙蝠だから幸守なんだ……それじゃ、ゆーきは血を吸わきゃ駄目なの?」

 竜也の発言に全員が無口になる。幸守は大切な存在だが、血を吸わせる事が出来るか考え始めたのだ。


「俺の一族はフルーツバットから進化したから、吸血行為はしないよ。その前に蝙蝠の中で血を吸うのは三種だけなんだぞ。その中で人の血を吸うのは一種しかいないんだぜ。蝙蝠イコール血を吸うって言うイメージは、迷惑なんだよ。それと蝙蝠族は、ヴァンパイアとも無縁だからな」

 幸守のヴァンパイア嫌いはこれに起因する。ヴァンパイアが吸血蝙蝠を使い魔として使役する為、蝙蝠族がヴァンパイアと同一視されてしまうのだ。その為か蝙蝠族の評価はあまり良くない。


「兄貴、果物好きだもんね……冒険か。戦いは怖いけど、ワクワクするな」

 雀の言葉に幸守は、戸惑いの表情を浮かべていた。


「雀、お前は城に残らないか?この世界にはでかい虫がわんさかいるぞ。人間より大きいゴキブリとか馬を襲うカマキリとか……城にいれば遭遇する危険性はさがるぞ」

 雀達の存在はレイア・イディーだけでなく鬼王や精霊帝にも伝わっている。今回召喚された人間を人質にしたり、女性が無理矢理襲われる事があったりしたら、リュミエールは一夜にして滅ぶであろう。今でさえ周囲の国から疎まれているのだ。かつての英雄達が治める国と対立したら、周囲の国全てが敵になる。


「やだ!あそこにいた人達、嫌な目したじゃん……兄貴、お願いー。この通り」

 雀は大袈裟に幸守を拝んでみせる。その際に上目遣いで見る事を忘れない。


「……仕方ない。虫除けの加護を作ってやる。オリジナルの加護だから大切にするんだぞ」

 オリジナルの加護を作れる魔族は多くない。その為、オリジナルの加護を持ってる人間は歴史上でも数えるくらいしかいないのである。それも敵対している魔物を倒したり、高価な宝飾品を捧げた者のみに与えれるのだ。絶対に甘えただけでもらえる物ではない。ひとえに幸守がシスコンだからである。


「さっすが兄貴。だから大好き」

 雀はそう言うと、幸守に抱きつく。久し振りに雀に甘えられた幸守は、喜色満面の笑みを浮かべた。


「主、ずるいですぞ。某もオリジナルの加護を作れるのです。雀様に良い子、良い子されるチャンスだったのですぞ」

 雀に甘えられてご満悦の幸守を見てこげ丸が愚痴をこぼす。


「ゆっきー、俺は虫除けの加護はいらないぞ。山で虫に慣れているし」

 自信満々な昴の言葉を聞き、さっきまでトロトロに溶けていた幸守の顔が一変する。


「良いのか?こっちの宿には蚤やシラミが普通にいるんだぞ。笑えない病原菌を持った蚊もいるし。とりあえず契約を結んで、俺が考えた加護を授ける。戦闘方法は道中で教えていくよ」

 幸守はそういうと、それぞれが持っている契約書に手をかざしていった。途端に契約書は淡い光を放つ。そして光が消えると、契約書にタラプの姿が浮かび上がった。


「これが昔のゆっきーか……加護しょぼくね?」

 昴が契約書の裏面を見て愚痴をこぼす。裏面には幸守が与えた加護が書かれていたのだ。

 虫除け・生水飲料スキル・靴擦れ予防・日焼け防止・筋肉痛緩和・手豆予防・食あたり防止・熱中症予防・低体温予防・火傷防止・危険察知・契約者連絡スキル・。レイア・イディーのいるワーカミまでは馬車を使っても三週間は掛かる。昔とは違う幸守の賑やかな旅の始まりである。


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