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俺、元魔王軍従業員。幼馴染み、元勇者  作者: くま太郎
第ニ章再び異世界へ
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契約相手は

 元の世界に戻った幸守の戦闘能力は、飛躍的に上がっていた。こっちの世界にはマナがふんだんにあるので、咎を使わなくても魔力を得られるのだ。正の力で攻撃されてもダメージを受ける事は殆んどないだろう。

 それでも往時の五分の一程度しかないのだ。今リュミエールにいる人間で彼と対等に渡り合えるのは、陽向くらいである。

 何しろ五英傑の一人で最強の魔族と言われた男だ。神官時代は泣く子も黙るプラータと言われていた……それも今や昔。最強の魔族プラータは十代の少女に尋問されていた。

 幸守の目の前に立っているのは、大空家長女の千鶴と次女妹の雀。そして幸守は椅子に座らせられていた。

 幸守がその気になれば、簡単に目の前の少女達を殺す事が出来る。神官時代なら猿人に尋問されるのは屈辱だとためらいなく殺したであろう。

 しかし今の幸守は、自分の姉妹に逆らえないのである。口では絶対に勝てないし、大切な姉妹に暴力を振るう気は微塵もなかった。


「……転生した理由は分かった。それでこっちの世界のご家族はどこにいるんだ?父さんや母さんの代わりに、私がご挨拶に伺わないとな」

 千鶴の目は優しさで溢れていた。転生していても、千鶴にとって幸守が可愛い弟である事には変わりないのだ。何より長女としての責務がある。


「無理だよ。どこ住んでるか分からないし。第一、顔どころか名前すら分からないんだよ」

 幸守が若干拗ねた口調で答える。もし、昔の知り合いが今のやり取りを見たら、顎を外さんばかりに驚くであろう。プラータ時代の幸守は他人に気を許すという事がなかったし、タラプに名を変えてからも異性と仲良くする事は皆無であった。ましてや拗ねた態度など三百年間見せた事がないのだ。


「兄貴、それどういう事?」

 雀が幸守の肩をがっしりと掴む。その目は心配の色で溢れていた。


「魔族には色んな種族があるんだけど、どの種族でも高い魔力を持った子供が生まれるとエスクリダオン様の神殿に捧げられるんだ。捧げられた子は神の使徒となり、家族との縁を切る。そして名前と戸籍を抹消されるんだよ」

 エスクリダオンの神官は三つの物を持たないという。名前、家族、地位の三つである。ただ戒律を重んじエスクリダオンから与えれた使命を全うする事に全てを捧げるのだ。


「……酷い!そんなの横暴だよ。兄貴が可哀想過ぎるよ」

 幸守の話を聞き終えた雀の瞳から涙が零れ落ちる。彼女にとって幸守は優しくて大好きなお兄ちゃんなのだ。

 

「仕方ないんだよ。魔力の高い子は、後々戦乱の火種になりかねないんだ。きちんと教育が出来れば良いけど、担がれやすい性格や横暴な性格になったら、国の平穏が乱れてしまう。それに、今の俺には大切な家族がいるから平気だよ」

 幸守は涙ぐむ雀の頭を優しく撫でる。雀の涙は自分の為だけに流された物なのだ。幸守はそれが堪らなく嬉しかった。


「取りあえず、この世界の事は幸守に聞けば大丈夫なんだな」

 千鶴はゆきもりがこの世界に詳しいと聞いて安心していた。すずめの手前冷静を装っていたが、王から聞かされた話は彼女の理解の範疇を超えていたのだ。


「姉上殿、某も頼って良いのですぞ。普段は大空家の可愛らしいペット。しかし、その正体は、魔狼の中でも最強と言われる金剛石ヂアマンテローボ。それが某こげちゃんなのです」

 幸守が頷こうとした瞬間、こげ丸がどや顔で会話に横入りしてきた。


「そうだ。こげ丸、お前元の体に戻らないか?」

 こげ丸の元の体は幸守が厳重に封印してある。いぬのままでも、充分強いが金剛石ヂアマンテローボに戻ればリュミエールの軍を蹴散らす事が出来るのだ。


「嫌でござる。本体に戻ったら、ブラッシングやワシャワシャをしてもらえなくなるではないですか!ワンコは飼い主に可愛がられるのが、アイデンティティーなのですぞ」

 こげ丸は幸守から顔を逸らして断固拒否の態度をとる。


「……王都に金剛石ヂアマンテローボが現れたら、パニックになるか。食費も馬鹿にならないしな……姉さん、雀、俺が北の魔王テルセイロと話をつけてくるから安心して」

 こげ丸がいれば、姉妹が危険にさらされる事はないし、幸守一人ならテルセイロの所まで三日もあれば辿りつける。


「馬鹿な事を言うな!テルセイロは邪悪な魔王なんだろ?……うん、誰だ?」

 突然のノックにより会話が中断されたのだ。千鶴がドアを開けるとそこにいたのは陽向であった。


「みんな、王様から呼び出しだよ。契約の儀式を行うから、魔術実験室に集合だって……シオ、あそこにいるのが、ゆー君。どう、納得した?」

 陽向の声に応じるかのように、ローブを着た女性が姿を現す。三十代前半の妖艶な女性である。幾つもの魔道具を身に着けており、高貴な地位にいる事が一目で分かった。


「……信じられない」

 シオと呼ばれた女性は幸守を見たまま呆然と立ち尽くしている。


「信じなくて結構。きちんと約束は守って下さいね。リュミエール王国の第三婦人シオ様」

 陽向は皮肉を込めながら、シオに声を掛けた。女性の名はシオ・リュミエール。かつて陽向とパーティーを組んだ魔法使いであり、今はリュミエール王の第三婦人である。


「そうじゃないわよ……あの糸目の少年、凄い魔力を持っているのよ。魔法使いの私より強い魔力を持った犬までいるし……分かったわ、きちんと約束を守るわよ。申し遅れました。私はシオ・リュミエールでございます。転移の疲れが残っておいででしょうが、これより契約の儀式に参加してもらいます」

 シオが幸守達に向かって深々と頭を下げた。現在彼女は大半の加護を失っており、ここで幸守やこげ丸に暴れられたら、太刀打ちできない事を分かっていた。事実、シオは幸守の魔力に圧倒されて、大量の冷汗をかいている。

 そしてもう一人冷汗かいている者がいた……幸守である。

(まずいな。まだ契約を解除していないから、みんなの契約証にプラータの名が表示されてしまう)

 今リュミエールは魔族と戦争中だ。そんな中、契約相手に高位の魔族が表示されたら、何を言われるか分かった物ではない。


 魔術実験室には王侯貴族に加え、大勢の魔術師が集まっていた。皆、国の行く末が掛かっているだけに真剣である。


「今から皆様に契約証をお渡しします。念を籠めて下さい。そうすれば契約相手が浮かびあがりますので。ランクはPRパーフェクトレアLRレジェンドレア・SSR・SR・R・N・の六つに分かれています。しかし、これだけで契約は終わりではありません。契約相手と直接会って、認められなければ正式な契約にはならないのです。まず、チヅル・オオゾラこちらへ」

 シオが千鶴に契約証を手渡す。王の合図で、千鶴が契約証に念を籠める。

 次の瞬間、魔術実験室は歓喜の渦に包まれた。高位の契約相手が続々と現れたのだ。

大空千鶴 レッドドラゴンニーベモイPR 老いた魔族タラプSR


「パーフェクトレアとスーパーレアの二つだと?しかもドラゴンだぞ」

 ドラゴンが契約相手になる事は滅多にない。彼等は平和を好む種族で、戦に明け暮れている猿人を軽蔑している。

 皆が興奮している中、幸守だけが渋い顔をしていた。高位の契約者に認められれば、戦闘能力が飛躍的に上がる。それは同時に戦場に立たせられる事を意味するのだ。

(君、優しい猿人だね。僕、気に入っちゃった……か。救いはワーカミがリュミエールと離れている事くらいだな)

 ワーカミまでは馬車を使っても、三週間は掛かる。それだけの時間があれば、対策を練る事は容易だ。

 そして次々に契約相手が判明していった。

大空雀 金剛石狼シャアガーPR  老いた魔族タラプSR

愛星竜也 逢魔が時の精霊カーネアPR 老いた魔族タラプSR

山参昴 青鬼ビルゾ・タメーンPR 老いた魔族タラプSR


 本来ならプラータと表示されるはずであるが、全員タラプ名義に変えられていた。これはアイリーン様の仕込みである。

これなら五英傑の一人プラータである事を明かさずに、この地で生き抜くのに必要な加護を与える事が出来るのだ。

(既知の魔族に介入してもらえば、移動中に戦を終える事が出来る……問題は旅に耐えられるかだな。場合によって雀は陽向と一緒にリュミエールに残ってもらうか)

 幸守が対応策を考えている間にも、次々に契約相手が発表されていく。


茂野撫子 ハーフラミア カーサ・キャンディッドSSR   

猫柳乙女 ハーフワーウルフ エスパーダ・ポネLR 

置糸晴武 リッチ メート ル・ボヌールLR 

源朝香  レディヴァンパイアペスコソ・レーヴルSSR  

 残りの日本人の契約相手を聞いた幸守にある疑念が浮かび上がる。確かに高位の者ばかりであるが、半魔とアンデッドしかいないのだ。


「次、ユキモリ・オオゾラ。こちらへ」

 幸守の予想では契約の該当は無しと表示されるはずだった。しかし、意外な名前が表示されたのである。

 この契約システムはコウガとマナブの意見を参考にして、エスクリダオンが創り上げた物なのだ。システム上、下位の者と契約が結ばれる事はないのである。


大空幸守 黒竜レイア・イディー ORオリジナルレア 鬼王ジョウ・シュロスOR 精霊帝シ・カータOR


「よ、四英傑が契約相手だと……」

 王の発言で魔術実験室が、水を打ったかの様に静まり返った。奇跡的に契約が結ばれれば、戦況をひっくり返す事は出来るのだ。しかし、無礼を働けば召喚した自分達の責任になる。しかも、契約相手に選ばれた少年は、お世辞にも容姿が魅力的だとはいえない。

 そんな中、最初に口を開いたのはシオであった。


「王様に進言がございます。勇者ジゼルに護衛の任務を与え、数名を契約の旅に向かわせてはいかがでしょうか?レイア・イディーとの契約は無理でも、二ーべモイと契約が出来れば、ワーカミと同盟を結べる可能性があります」

 シオは当初陽向を城から追い出そうと企んでいたのだ。王が若い陽向に夢中になり、自分がないがしろにされるのを恐れたのである。

 それを後押したのは、他ならぬ陽向だ。陽向はシオと久し振り再会するなり、こう言ったのである。


「私が邪魔でしょ?協力するから私を城から放逐しなさい……名目は、一緒に転移してきた猿人の護衛が問題ないわね。条件は一つだけ、大空家と行動を共にさせる事……絶対にゆー君と離さないでね」


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