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俺、元魔王軍従業員。幼馴染み、元勇者  作者: くま太郎
第一章 日本編
12/26

企みと入学式

その日、大空家を一人の男性が訪ねて来た。白髪で顔には深い皺が刻まれている。何より生気が乏しく、酷く疲れた顔をしていた。


「幸次郎、久し振り。しばらく厄介になるよ」

 男性の名は結城幸太。幸守の父幸次郎の従兄だ。年齢はまだ四十代前半だと言うが、どう見ても六十過ぎに見える。


「大丈夫ですよ。自分の家だと思ってゆっくりして下さい……それより幸牙の手掛かりが見つかったって本当ですか?」

 幸次郎と共に出迎えをしていた幸守の顔が青ざめていく。幸牙は幸太の弟だと言う。幸次郎が言っていた行方不明になったという従弟は幸牙の事だったのだ。


「ああ、幸牙の携帯が見つかったんだ。お袋も喜んでいる」

 幸守が幸牙と親戚である事に気付かなかったのには訳がある。大空家や結城家では幸牙の話はご法度になっていたのだ。結城家では幸牙が生きていると信じて遺影すら飾ってない。


(向こうの世界の人間として一言謝りたいというのは身勝手な話か……もし、姉さんや雀が異世界召喚なんてされたら、絶対に許さないし)

 無論、幸守は幸牙の召喚に関わっていないし、異世界召喚は五英傑全員の力で使用禁止とした。

 しかし、幸牙の力に助けられたのは揺るぎない事実だし、幸牙は自らの意思で日本に帰らないと決めたのも事実である。

 それでも“幸牙は幸せな人生を送ったので許して下さい”とは言えない。家族が大切な物だと分かった幸守だからこそ言えないのである。

 数日後幸太がすっきりした顔で帰って行ったのを見て、幸守の心が少しだけ軽くなった。



 四月、満開の桜の下を四人の少年が歩いていた。


「今日から神選学院の生徒か。でも、こうも面子が変わらないと実感が湧かないよな」

 幸守が溜め息を漏らしながら呟く。一緒にいる愛星竜也・山参昴・馬路明の三人だ。全員、中学のクラスメイトであり、竜也と昴に至っては小学校からの付き合いなのである。


「ゆっきーは相変わらず爺臭いな。良いか、神選学院には美少女が沢山いるんだぜ。四神花(ししんか)三戦姫(さんとうき)。みんな会えるだけでもラッキーな美少女ばかりなんだぜ」

 昴がいつのものようにおどけてみせる。学の権限に加え昴の大道芸人としての実力が評価され特待生として無事合格出来たのだ。そして昴の祖父天魁の友人が語った家庭環境も理事の面々の心をうったらしい。

 四神花は神選学院の中等部と高等学校の中から選ばれる。見た目の美しさの他に性格や成績も考慮されるそうだ。

 三闘姫は格闘系の部活に所属している女子生徒の中から選出されている。


「誰が考えて誰が選ぶんだろうな。テンション上げている所悪いけど、四神雄や三武王ってイケメン集団もいるらしいぜ」

 幸守の突っ込みに竜也が顔をしかめる。神選学院には男性アイドルや男性モデルも通っており、イケメンも大勢いるのだ。


「聞いた話なんだけど、四神花に三闘姫。そして四神雄と三武王が全部埋まっているのは、神選学院の歴史でも初めての事なんだって。それに竜也君なら入学してすぐに四神雄に選ばれると思うよ」

 明の言う通り、今まで全部の席が埋まるという事はなかった。しかし、ここ数年見た目だけでなく文武両道の生徒が入学して全ての席が埋まっているのだ。


「ぼ、僕は無理だって。それにそんなのに選ばれたら、からかわれるにきまっているし」

 竜也はそう言うと、幸守と昴の事を見た。この二人は歌番組やコンサートで、竜也がなにか言う度にネタにしてからかってくるのだ。

 竜也の出るテレビ番組やラジオを全てチェックしているから、出来る事なのだが。


「竜也の事はともかく一番気をつけなきゃいけないのは、ゆっきーだぜ。四神花と三闘姫に親しい人間が三人もいるんだから」

 昴の言う通り、幼馴染みの夏海陽向と妹の大空雀は四神花に選ばれており、姉の大空千鶴は中学時代から三闘姫に選ばれている。


「俺は関係ないだろ。陽向はただの幼馴染みだし、姉さんや雀は姉妹だぞ」

 老練なようで幸守は、この手の世事に疎い。誰がもてるとか、どのアイドルが人気があると言う話にまるで興味がないのだ。


「馬鹿だねー。千鶴さんにお弁当を作ってもらったり、雀ちゃんに無条件で甘えてもらえるなんて、それだけで嫉妬案件だぞ……何より日本語は正しく使わきゃ駄目だ。なあ、竜也」

 さすがは幼馴染みというか、竜也はすかさず昴の言葉に反応する。


「うん、ただの幼馴染みがマンツーマンで受験勉強の面倒は見てくれないと思うな。夏海さんと一番仲が良い男子はゆーきだって、みんな認めているよ」

 竜也の言葉を聞いた幸守の顔が一瞬で朱に染まった。前世を含めると三百年は優に生きている幸守であるが、こと恋愛に関しては小学生並みに初心なのだ。


「あ、あれは陽向の手がたまたま空いていただけであって……そりゃ、仲は悪くないけど」

 小声で否定しているも、幸守の顔はだらしなく緩んでいた。幸守が陽向に気持ちを伝えないのは、自分に自信がないからだ。だから陽向との仲を容認するような言葉を聞くと、嬉しくてしょうがないのだ。


「凄いな。糸目が垂れて八の字になってやがる。でも、気を付けるに越した事はないぜ。神選学院には厄介な奴も多いみたいだし。何より初等部から一緒に過ごして来た連中に混じるんだ。みんな、頼むぜ」

 昴の言葉に三人が同時に頷いた。神選学院には才能や見た目以上にはっきりと区別された階層がある。それは何時から神選学院に通っているかだ。一番は幼稚園から通っていた者、続いて初等部から通った者となる。 

 自然にそれぞれの階層で固まるようになってしまう。特に幼稚園から通っていた者が、中途入学して来た生徒と関わりを持つ事はあまり多くない。

 


 神選学院の正門がざわついていた。プリエ・アムールの竜也の初登校を見えようと集まった生徒が意外光景を目の当たりにしたのだ。

四神花の一人、夏海陽向が中途入学の男子ゆきもりを待っていたのだ。見た目が優れていれば、まだ納得したかも知れない。しかし、その少年の見た目はモブ中のモブで、容姿も雰囲気も地味である。


「ゆー君、私が神選を案内してあげるね。それと朗報があります。私とゆー君は同じクラスになったの」

 偶然なのか学の差し金のか、幸守・陽向・竜也・昴・学の五人は同じクラスになったのだ。


「神選の事は全然分からないから、頼むよ」

 幸守の頼みに陽向が満面の笑みで頷く。心の底から喜んでいる笑顔である。

 それを見て暗い嫉妬を燃やす生徒がいた。彼の名は根鳥こんとり)倉太(くらた)。痴漢騒動の時、ブロック塀の向こうに身を潜めていたのは彼である。

ある日倉太は夢魔と契約する事が出来た。その力を使えば、異性を魅了したり、気配を消したり出来ると言う。倉田は喜んだ元来臆病な性格の為、罪を犯す度胸がなかった。なので中年男性に力を又貸し、女子生徒が痴漢されている姿をビデオに収めていたのだ。

 


「へえ、意外ですわね。夏海さんはあんな冴えない男が好みなんて。これなら私が四神花にも選ばれるんじゃないかしら」

 彼女の名はみなもと朝香あさか。三闘姫の一人で弓の名手である。

 

「まあ、確かに幸守は冴えない顔をしているが、実の姉の前で言うとは度胸があるな」

 朝香は同い年で同じく三闘姫である千鶴の事をライバル視していた。

「まあ、怖い。どうして私以外の三闘姫は野蛮な人しかいないのかしら?一年の巴さんなんて、見た目だけじゃなく、言葉遣いも男みたいだし」

 猪虎(いのとら)(ともえ)は、柔道部に所属している三闘姫である。髪型はベリーショートにしており、豪快な性格で言葉遣いも男っぽい。


「竜也め。四神雄の席は絶対に渡さないからな。ヘタレの本性をさらけ出して、今度こそ人気を落としてやる」

 竜也を嫉妬の目で見ているのは置糸晴武。去年の夏、心霊番組に竜也が出演するよう企てたのは彼であった。置糸も四神雄の一人であるが、女癖が悪く評判はあまり良くない。

 


 高等部にある校長室。そこから登校してくる生徒を喜色満面の顔で見ている男がいた。


「これだけ才能ある生徒がいれば、貴方の世界も満足するのではないですか?」

 男の名は神谷栄、神選学院高等部の校長で、理事長学の親戚である。


「ああ、王もお喜びになられる。後は彼等を我らの世界に連れて行くだけだ。栄よ、一人留学生を受け入れてもらえるか?その者に転移に値する者をスカウトさせる」

 二人の下卑た笑いが校長室に響き渡った。


活動報告に面白いお知らせがあります

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