第七陣:世界は刻一刻と進行していく。
数十分後。ウフ総長老のログハウス内で、俺らはぐったりとした調子で倒れていた。
理由はいうまでも無い。先程のイノの騒動。ずいぶんと主婦さん方に叱られた。
……まぁ、変な事にならないでよかった。
「おばあちゃーん、晩御飯、まだぁ?」
イノが、俺よりかははるかにぐったりした調子で、調理場に立つウフ総長老の奥さんに言った。ていうか、おばあちゃんは無いと思うよ? 家内じゃないぞ? すごく失礼だからね?
「今できましたよ、イノ様♪」
何言ってんですか!? コイツにはめられちゃ駄目だ!
「わーい♪ びゅうてぃふる♪」
近くのテーブルに豪華な料理が次々と並べられていく。もはやこんな食事、高級レストランぐらいじゃなきゃ食べられないだろう。それを、一人で作ったとなれば、皆さんにもウフ総長老の奥さんの凄さを分かってもらえるだろうか。
だが、そのびゅぅてぃふるな料理を、無邪気に喰い荒らす、悪魔が一人。
「うん、おいしいよコレッ! さすがおばあちゃん! バッチグゥ!」
イノが、いつの間にか椅子に座り、料理を食っていた。やばい、あのままだと俺のも食べられるだろうな。
「……頂きます」
俺は椅子に座り、静かに言う。奥さんが愛想良くどうぞと返事した。
そして俺は、豪華な料理のほんの一部分を、ゆっくりと口に運んだ――。
ぱくり。
その瞬間、言いようの無い幸福感に満たされた。やばい、初めて食べたぞこんな絶品。なんだろう、あぁすごい。まるで空を飛んでいるような――。
「……大丈夫アラン?何別次元に飛んじゃってるの?」
……言葉の内容は無視するとして、俺はイノの言葉で我に返った。久々に別次元へ飛んでいたようだ。気をつけよう。
其の夜。新月のおぼろげな光がゆっくりと夜の帳に溶けていく。エンバの木がざわめき、しんみりと夜の鳥が飛ぶ。
ログハウスの一室で俺らは寝ることになったが、このイノという悪魔がいる限り、寝れはしないだろう。
「ねぇ、アランー」
「あ?」
俺は貸してもらったこれまた豪華な大浴場から上がり、寝る用の服に着替え終えていた。もう少しでイノも大浴場に行くと言う時だった。
俺はタオルを肩にかけて、窓際の椅子で、夜の帳を眺めていた。イノはどこから取り出したのか、バランスボールに上半身を預けている。顔もふにゃっとしたバランスボールに埋まりそう。ていうかバランスボールの使い方が間違っている。
そして、イノが退屈そうに言う。
「遊ぼ♪」
「滅べ」
ドガッ。
俺は即座に立ち上がってイノの顔面を蹴る。それをバランスボールでうまいこと防がれる。
だが、バランスボールにだって衝撃が伝わり、微妙にイノがバランスボールと共に転がった。
家庭でよく見られる光景。この後普通は後頭部を打ち付けるのだが――。
ぱすん。
即座にイノが立ち上がった。……卑怯だ。
「冗談冗談♪ それじゃ、お風呂言ってくるから、ここよろしくね♪」
そう言って、寝間着を持ってイノは出て行った。軽くスキップしながら。
やれやれだ……。まさか本当に、こんな旅になるなんてな。
「さて、寝るか」
俺はひとりでそう呟き、イノによって変形した布団を元に戻す。とりあえず、イノの分も。
何とか二人分の布団を直した後、ガチャリとドアが開いて、ウフ総長老の奥さんが入ってくる。
「あら、もう寝るの? 偉いわねぇ」
良く聞くフレーズだ。なんて頭の片隅で考えた小言は置いといて。
「ええ。大浴場からイノが多分来ると思うんで、騒がないように言っといてください」
俺が伝えると、奥さんは笑顔の了解をして、出て行った。
よし。
バスン。ざば。
俺は掛け布団の中に入り、睡魔が襲ってくるのを眼を瞑って待っていた。
激しくサブタイトルが思いつかない回でした。未熟者よ。。
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