第六陣:祠と神と聖龍刀。
奥の部屋に入ると、途端につんとした微妙にきつい匂いが漂ってきた。イノはわくわくしながら、俺の後ろについてくる。
……そこは神鳥のごとく翼を広げた、紅き怪鳥ウルスラハが描かれた石版と、その他訳の分からないお葬式セットみたいな物が置いてあった、いわゆる祠であった。
「わぁぁ。スゴイね」
後ろでイノが感嘆の声を上げている。さすがに俺もこれは否定できなかった。
こくんとし、崇められている石版の前にひざまずく老人に近付く。
「……これ、ウルハスラですよね」
俺がゆっくりと尋ねると、老人は耳をぴくっとし、立ち上がってこちらに振り向く。
「いかにも。おっと、まず、自己紹介からしようか」
白い髭の中から、まだまだ生気の感じられる、力強い声が聞こえた。俺は丁寧にお辞儀する。
「ええ。俺の名前はアラン・エンディフといいます。それでこっちは……」
俺がイノのことを言おうとすると、いきなりイノが俺の背中から老人に向かって顔を出す。
「私はイノ・ユクラシャト! よろしくね、おじいちゃん♪」
俺が軽い会釈、イノが老人に向かって手を振る。老人はふたつ、頷くと、優しい眼でこちらを見る。
「どうも。わしがこの村の総長老、ウフじゃ。とりあえずそこに座りなさい」
気がつくと、足元に俺とイノの分のクッションが置いてあった。さっきまでは、無かった。
直後、俺は直感した。いや、せざるおえなかった。
――ウフ総長老は魔術が使える。
魔術ってのは、特定の人間――この場合は魔法使いとしよう――が使える、技って所だ。魔術は大きく二つに分けられ、一つは攻撃魔術、二つ目は援護魔術。攻撃魔術は炎を生み出し敵にぶつけるとか、氷柱とかを降らせて串刺しにしたりする荒業が多い。それで、援護魔術はそこからさらに二つに分かれる。一つ、戦闘時。二つ、通常時。戦闘時の援護魔術は、敵の目を一定時間失明させたり、傷の中に医療成分を注ぎ込んで回復させるRPG定番のアレ、場合には死者を蘇させる、軽く闇呪術士らしき物もある。ああ、使者を蘇させるのは法律に反するし、力が弱かったら死者に襲われるので、やらないに越したことは無い。
それでもう一つ、通常時。これは今ウフ総長老が使った物体瞬間移動とか、物を飛ばせたりとか……まぁ、日常生活に便利。
それで、長々と説明しましたが。最後に一つ残念なお知らせ。
……俺は魔法を使えません。イノも多分使えないだろう。馬鹿だから。
まぁ、そんなわけで、この旅の中で魔術が出てくるのは結構少ないかもな。あしからず。
俺らはウフ総長老の出したクッションに座り、俺はウフ長老に質問する。
「……それにしても、なぜこんな所に村を」
ウフ長老は、其の質問に答えた。
「実はの、何故こんな処に村があるのか、私達すら分かっておらんのじゃ。只、相当昔からこの村は此処に存在していると言われている」
「……え?」
ちょっと待ってくれ。それって、なんかおかしくないか?
何故、分らないんだ? 普通、歴史とかどんな所でも伝えるものじゃないのか? 分からないって、昔、何かあったとか――。
そんな質問を、すんでのところで喉から飛び出るのを抑える。
面倒なことに、関与するな。本能が、そう告げていた。
「……それじゃ、その石盤に描かれているウルハスラの意味は……?」
「わし達には、神のような物じゃよ。ウルハスラは」
「え、けど、今草原の荒らし屋なんじゃ……」
意味深なウフ長老の言葉に、イノが尋ね返す。いや、けど何だ草原の荒らし屋って。暴走族かよ。
其の言葉に、ウフ長老も淡々と答える。
「今は、じゃ。昔はこの祠に止まってたんじゃよ。それはもう、美しい以外表せないような……ね」
オイ。ねって何だ。
「じゃぁ、何で、今のような荒れた状態に?」
「其れは分からぬ。ただ、今のような状態にウルスラハ様が成られたのは、丁度今より十年前。真相は誰にも分かっておらぬ……」
そう言って、ウフ長老はため息をつく。だが、真相はいまだ謎のまま。誰かこの怪しげな宗教団体(失礼だよ!byイノ)内に裏切り者がいて、密かにバッカスの酒を盛ったかもしれない。
ちなみに俺の頭の中では、元のウルハスラは美しい人間の女性だと疑わない。
……嘘です。
「それでは、しばらく村の観光をしてても良いぞ。寝たくなったら戻ってきなさい」
それから数分後、俺はイノのこの村に泊まりたいという馬鹿な言葉をとめられず、一日ここですごす羽目になってしまった。
隣の元凶は、意気高揚しているようだ。ステップが、ウザい。
ウフ長老の言葉を背に受け、俺はログハウスから出た。真正面からイノの「いってきまーす」と言う言葉も喰らいながら。
……やばいな。出発数時間後、早くも旅の目的が何なのか分からなくなってきたよ。
「どうしたの、アラン? 浮かない顔してさ♪」
そういえば、コイツはまだ旅の目的しらないんだっけ。多分、ただの漂流記だとでも思ってんだろうな。
「……お前のせいだ」
「えぇっ、私!?」
俺らは村のベンチで休憩していた。元々大きくもない村だ、観光(?)開始して20分後には村は巡り終えたぞ。
ていうか、寝る時間帯まで少なくともあと五時間はあるぞ?
……子供のはしゃぐ声が、何となく大きく聞こえる。
隣で、イノは子供達に眼を光らせている。
……。……まさか……な。
「アランンー」
「何だそれ。ンが一個多いだろ」
「子供達と遊んでみたい」
うぁ、出た。精神年齢どんくらい低いんだ? この野郎。
「……勝手にしろ」
「わぁーい!」
歓喜し、素早く立ち上がるイノ。
その手には、聖龍刀、時雨の姿が。
……。
何!?
「お前怖っ!! 何その伝説級武器!? どこから取り出した!? ほら子供達も戦慄しているだろ!?」
俺は慌ててイノに駆け寄る。子供達は俺が言うがはやいか逃げ出し、村の外には俺ら以外誰もいなくなった。
「……ごめんなさい」
うわ、素直に謝ったか。
「……いやまぁ、なんというか。もう少し、タイミングというか、なんというか、とにかくそう言うの考えたらどうだ?」
言うと……コイツ、泣いてました。
「……久しぶりに、子供、見たから。一緒に遊びたくなって」
……本当に泣いてるのか、こいつ。うーん。
「けど、さすがにあんなことしたら駄目だろ。謝んぞ」
………こいつの言いたい事も分かることは分かる。今まで独りぼっちなんだったら、遊びたいのも当然だ。
……いや、けど、さすがに刀持って歩いてくのはやばかっただろ。
「うん」
すっかり泣き止んだイノと共に、俺はとりあえず民家全部に回ることにした。
ふぅ……。なんで、こんな事に俺は巻き込まれているんだ?
……幸辛い。
いつになく長いです。というかこれくらいが普通なのか……。
元々短いんだよね!(ぁ