第五陣:草原の集落。
数分後。俺は強烈な右手首の痛みと共に眼を覚ました。
「……痛い」
俺は呟きながら、重いまぶたを開けた。
それはもう、悪夢だったよ。目の前で、イノが俺の右手首を思いっきりつねってたから。いや、もしかしたらまだ本気じゃないのかも知れない。まだまだ半分の半分のはんぶ……ぁぁぁぁぁ!
「いてぇよ! さっきから何してんの!?」
「あ、起きた〜♪」
うわ、ひでぇ……。
さっき痛いって言ったじゃん。
俺はイノの手を振り解き(何か簡単に取れた)、立ち上がった。それにつられてイノも立ち上がる。
「十分回復したし、行くか」
俺は言い、さほど離れて無い場所に置かれたリュックを拾う。
イノはと言うと、すっかり落胆した面持ちだ。
そんなイノを見て、俺はため息を吐く。
「……さっさと行くぞ」
イノはしばらく俯いていたが、その内顔を上げ、俺に駆け寄ってきた。
「……とっととこんなとこ抜けちゃいましょー!」
……変な奴。
「腹減ったぁー!!」
「小賢しいわ!」
大平原にて、またも、斜め後ろのイノ。うわ、何なのこの即視感。
俺は意を決め、振り返った。
そして、ダラダラッとしているイノを抱えると、走り出した。
「うひゃー♪ お姫様抱っこー♪」
そんなことをほざくイノを無視し、俺は平原を走っていた。
そんなこんなで、走り続けること三分。目の前に、小さな集落みたいなものがあった。木で作られた壁みたいなもので囲まれて、唯一は入れそうな門は硬く閉ざされていた。
近付いて木の匂いをかいで見る。……エンバの木の匂いがする。
「何、コレ?」
イノが気楽そうに言う。お前、もう少し俺の事を気遣ったらどうだ。
「……集落、か?」
「こんな処に?」
「むぅ……」
イノの疑問に、俺は首をかしげる。
と、急に門が地鳴りと共に動き出し、人一人が出入りできそうな隙間ができた。そしてそこから、一人の老人が出てくる。本当に、集落なのか。
「旅人か。何用じゃ?」
そこで、ようやく口がつかえるようになった俺が言う。
「いえ、ただのとおりすがりのも……」
「村に入れてくださいー!」
何言ってんだ!?
「いいですよ。お入りください」
あれ、納得しちゃった!? なんで!? まさかイノ、催眠術でも………。
「何ボーっとしちゃってんの、アラン? さぁ、はいろっ!」
「……ああ」
ここで納得してる、俺は何だろう。
そうして、俺らは村の中に入っていく。後ろで、村の門がガシーンと閉まった。まったくもってこの仕組みが理解できない。
と、俺らの少し前を歩いていた老人が、くるりと振り返って微笑んだ。
「ようこそ、シャスナの平原の村、シャスナナへ」
……何だそのネーミングセンスの悪さがかもしだされている名前は。
村長らしき老人と、その他村人達の盛大な歓声の中、俺らは一人の老人の指示の元、ログハウスみたいな小屋の中に入った。
家の中は、どこのキャンプ場にもありそうな至って平凡な構造。しかし、内側の壁はまるで大理石の如く、艶を放っている。
「面白い村だね〜♪」
変わらず呑気なイノが、感想を漏らす。もう一人でも立って歩けるようだ。
「……まぁ、そうだな」
俺も、何気なくイノに同意し、老人が入っていった奥の部屋へ向かった。