第四陣:シャスナの草原。
服屋を出て、歩くこと数分。
俺達は今、街の出口であり、旅の出発点である、ブヘム街北側ゲートの前に立っていた。隣には、緊迫した面持ちで、イノが立っていた。
「……行くぞ」
「……うん!」
ビュゥッ――。
朝の向かい風を受けて、俺達はブヘム街から、一歩足を踏み出した。
旅の、始まりだ。
「腹減ったー!」
斜め後ろで、イノが本日20回目の叫び。真上には、真夏の太陽。足元には、緑の雑草。
正直、五月蝿い。
「るせーな! あの木の下まで我慢しろって言ってんだろ!」
つい俺はイノに向かって怒鳴る。自分だって腹減ったし、のども渇いた。
だからといってこんな平原のど真ん中で食事、または水を飲むことは許されていない。
何故かと言うと、空より襲い掛かる覇者――匂いに敏感なウルハスラがいるからだ。
今の俺らでは絶対に太刀打ちできないだろう。即攻で喰われてしまう。
そんな事になったら、家で待ってる母がどんなことになるか。考えただけでも恐ろしい。
そのため、ウルハスラの唯一の弱点である、エンバの木の元へ行けば、休養が取れる。
それまでは、我慢である。
そんな時、後ろで何かが倒れる音。
「……」
まさかと思いつつ振り返ると、やはり、イノが倒れていた。
俺は立ち止まって、イノに近寄る。
「……。置いてったら、駄目か?」
「……ぜぇったい、駄目……。お願い、アラン……」
……なんでこんなことになったんだろう。俺は仕方なく、リュックをイノに持たせ、俺はイノを背負った。案外軽かった。
「……死ぬんじゃねぇぞ。後から大変だから」
「……何とか、耐える」
よし。あの木の所までは多分百mぐらいだろう。走って行けるな。俺は疲弊した体に鞭を入れ、駆け出した。
……止まろうかな。ていうか、走る必要性って全くないよな。
「ふぅ……」
何とかして、俺はエンバの木の下にたどり着いた。木陰が、こんなにありがたいだなんて初めて思ったぞ。
俺は急いでイノを降ろし、リュックの中からたっぷり水が入ったペットボトルを一つ取り出し、キャップをはずす。
そして、少しずつ、イノの口に注いだ。
1分丸々使っただろうか。俺はペットボトルをイノの口から戻し、俺も飲んだ。
……え、間接キス?
してませんよ、さっきのはぎりぎりイノの口には当ててない。
イノはとりあえず安静になって、しばらく横になって眠っていた。
それから十分後、場にはおにぎりを食う俺と眠っているイノ。だいぶ腹が満たされたと同時に、ゆっくりとイノが起き上がる。
「……ん、アラン……って、いたぁ……」
イノは俺を見た後、頭を押さえてしまった。頭痛がするらしい。俺はもう少し横になってろと指示する。
素直に横になったイノの口元に、新しいおにぎりを袋から取り出し、入れてやる。
それを夢中でイノは食べだした。
――かなり腹減ってたんだろうな――
俺は苦笑しながら、しばらく寝ることにした。
おにぎりを横の状態で食うイノに、もう少ししたら起こしてくれと告げて。
「そう言えば、また命助けてもらっちゃった。ありがとね、アラン」
そう言って、イノは微笑んだ。……薄らと目を開けて彼女を見ていた俺は、何故か。
あいつの事を思い出していた。